プラットホーム - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ・動画配信 | Filmarks映画
【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
改革開放からの10年を劇団俳優たちの目線から描く、監督の若き時期を反映した作品。若者たちが時代の変化に向き合い、対応しながら生きていく群像劇。穏やかな青春映画にも見え、美しい記憶となる。


【スタッフ & キャスト】
2000年 中国・香港・日本・フランス 154/193分 豆瓣評価:8.4/10
監督:賈樟柯(ジャ・ジャンクー)
出演:王宏伟(ワン・ホンウェイ)、趙濤(チャオ・タオ)、梁景东(リャン・チントン)、杨荔钠 / 杨天乙(ヤン・リーナー/ ヤン・ティェンイー)、韩三明(ハン・サンミン)
【あらすじ】
中国山西省の小さな町・汾陽(フェンヤン)。文化劇団(文工団)のメンバーの明亮(ミンリャン)瑞娟 (ルイジュエン)、張軍 (チャンジュン)、鐘萍 (チョンピン)は幼なじみ。劇団の練習、地方巡業の旅と、いつも一緒の時間を過ごしていた。1980年代半ば、自由化の波がこの小さな町にも押し寄せてくる。政府の方針の変化で劇団への補助金が打ち切られ、劇団そのもののあり方も変わってしまう。そして、彼ら4人の関係も不安定になっていく。明亮、張軍、鐘萍の3人は、劇団に残り仲間たちと一緒に旅を続けるが、瑞娟だけは町に留まる。それぞれが自分の生き方を探し始める。
公式サイトより
【感想】
歴史を描いた映画なのに、見終わって感じるのは友人たちと過ごした、あの穏やかな日々だった。まだ何者でもない若者たちは、新時代の到来を感じながら、それでも慎ましく日々を生きていく。
ラストシーン。部屋の椅子で居眠りする男と、赤ん坊を抱えた女。それを額縁のように遠くからじんわりと捉え続ける。裕福でもないし、たぶん成功もしていない。それでも彼らは幸福な余韻に充たされている。
文化大革命から改革開放という激動の時代、そんなイメージを覆すように、当時の人々の姿が活き活きと描かれていく。

青春映画として
物語は文革期が終わる直前から、その後の10年ほどを描いていく。だが政治的な出来事は、時々うっすらと耳に入れる程度にしか聞こえてこない。賈樟柯(ジャ・ジャンクー)監督が育った山西省汾陽という地方都市では、実際そんな距離感だったのだろう。
両親や年長者たちはみんな文革期の価値観で生きてきて、揃って堅苦しく押しつけがましい。そんな中、文工団という劇団で近隣の街を巡業していた若者たちは、音楽やカルチャーの新しい波に触れるだけでなく、劇団の変化にも直面し、なによりも彼ら自身が大人になっていく。時代を写し撮ったというだけでなく、彼らの青春の記憶を撮った映画として仕上げられている。ここで描かれたのは彼ら自身が語る「我々の話」だ。だから、見終わってからも彼らの笑顔が甦る。

個人的な記憶
デビュー作に続いて作られた本作もまた、映画祭で高く評価され、オフィス北野など後の国際的な制作体制の萌芽が見える。
特に、当時の音楽や映画、カルチャーを大量に使って時代の空気を写し込む手法が注目された。実際、劇中には大量の文化的なネタが描きこまれていて、驚くほどだ。考えていくとこの手法を使った事こそ、この映画にとても重要な意味を与えている気がしてくる。これについては後編で改めて考えてみたい。
賈樟柯(ジャ・ジャンクー)監督の持ち味は、既にこの作品にも強く現れている。だがそれ以上に伝わるのは監督の熱量だ。出演は大学の友人や素人俳優という身近な人々、舞台は愛着のある監督の故郷・汾陽だ。この作品で後のミューズとなる趙濤(チャオ・タオ)が初めて登場するが、まだ群像劇の一人でしかない。
まだまだ彼の個人的な環境で作られ、彼が体験した10年を描いている。描かれているのはあの時代の記憶でもあり、それ以上に彼のパーソナルな記憶でもあるのだろう。

若かりし賈樟柯(ジャ・ジャンクー)の情熱
後年の作品たちを見ながら、賈樟柯(ジャ・ジャンクー)はいつも距離を置いて物語を見つめる人だと感じていた。でもこれらの初期作を見ると、「ああ、本当はこういう熱い感情も持っているんだ」とわかる。もっと人間的な"可愛げ"みたいなものが感じられるのだ。当時の彼はまだ30歳くらい。まだ情熱を持って映画を撮り始めたところだ。そこからやがて自らの役割を定め、大きく飛躍していく。これからの彼の軌跡を思い浮かべると、この映画での若い巨匠に対して、なにか親近感のようなものを感じられた。あのラストシーンは、監督がまだ何者でもなかった青春期への、別れの言葉なのかもしれない。激動の時代、情熱を携えて映画界へステップを踏み出した、若かりし賈樟柯(ジャ・ジャンクー)自身の記録でもある。

【トピック】
予告編
▶ 本国版予告編(クリックで開きます)
www.youtube.com Japanese Trailer - 站台 (2000) 賈樟柯
中国での公開・受賞・日本での公開/配信・4Kリマスター
◯ 2000年のヴェネツィア国際映画祭に出品され、最優秀アジア映画賞を受賞。ナント三大陸映画祭やブエノスアイレス国際映画祭でグランプリを獲得。2001年8月29日にフランスで公開された。本作もまた事前に許可を受けずに国際映画祭に出品した為、中国で上映許可が下りなかった。
しかし、海賊版DVD/VCDが多数流通していた当時、海外での高い評価を受けて中国でも多くの人が見たと考えられる。後述の2003年の賈樟柯(ジャ・ジャンクー)監督への待遇が変化してからは、公式な劇場公開はないものの、イベントや授業での上映などは行われるようになっている。
◯ 日本でも、フランスでの公開から約3ヶ月遅れた2001年12月1日に「ビターズ・エンド」の配給で公開された。DVD販売、配信も行われている。
◯ 本作も4Kリマスターが計画されているが、未だ実現していない。2020年、賈樟柯(ジャ・ジャンクー)自身がクライテリオンと4Kレストアを進めていると明かしたが、オリジナルネガが見つかっていないらしく、それもできる事ならより長尺のヴェネツィア映画祭上映版(193分)を復元したいとの事で、今も素材探しをしているようだ。
監督:賈樟柯(ジャ・ジャンクー)
1970年山西省生まれの映画監督・脚本家。北京電影学院で学び、1990年代以降の中国映画界における「第6世代」を代表する作家として知られている。急激な経済成長と社会変化の波に直面し、取り残されていく市井の人々の姿を、詩的で生々しいリアリズムで描き出してきた。
1998年長編デビューの『一瞬の夢(1998)』がベルリン国際映画祭などで高く評価され、一躍脚光を浴びた。『長江哀歌(ちょうこうエレジー)(2006)』でヴェネツィア国際映画祭の最高賞である金獅子賞を受賞し、世界的評価を確立した。さらに『罪の手ざわり(2013)』でカンヌ国際映画祭脚本賞を受賞したほか、『山河ノスタルジア(2015)』や『帰れない二人(2018)』といった話題作を次々と手がけ、現代アジア映画を牽引する第一人者として活躍を続けている。
また本作の上映不許可の後も、未許可のまま地方でゲリラ撮影して、当局を通さずに海外で映画を公開するという手法で制作し続けたが、2003年に当局との話し合いが持たれ、その後『世界(2004)』以降は正式に許可を得た作品として中国国内でも公開されるようになった。

『一瞬の夢』中国映画レビュー&解説 | 賈樟柯(ジャ・ジャンクー)①デビュー作『小武 Xiao Wu / The Pickpocket(1998)』 - daily diary
『新世紀ロマンティクス』中国映画レビュー&解説 | 贾樟柯ジャ・ジャンクーが総括する映画人生「风流一代 Caught by the Tides(2024)」 - daily diary
共同プロデューサー・市山尚三
◯ 多くのアジア映画を世界に紹介してきたプロデューサー・市山尚三は、今作で共同プロデューサーを務めた。制作にあたり、外国人には分からない中国的な表現について、映画の内容ではなく「伝わり方」を一緒に考えたという。
市山尚三は、監督のデビュー作『一瞬の夢(1998)』がベルリン国際映画祭に出品された際、監督と出会う。本作を制作する際に監督から資金の相談をされた際、当時松竹に在籍していた市山氏は、脚本を読んでオフィス北野の社長であり、本作のエグゼクティブプロデューサーとなった・森昌行氏に国際共同製作を提案したという。非常に前向きな反応を得られた事から、市山氏自身もオフィス北野へ移籍。オフィス北野との関係から、バンダイビジュアルや東京FMも出資に参加している。
音楽・半野喜弘
劇伴を担当した半野喜弘は、1990年代からエレクトロニカのジャンルで活動しており、その後映画音楽の制作を開始。
中国映画関連が割合多く、本作プロデュースの贾樟柯(ジャ・ジャンクー)監督作品では本作と『四川のうた(2008)』の2作、侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督の『フラワーズ・オブ・シャンハイ(1998)』&『ミレニアム・マンボ(2001)」、行定勲監督、三浦春馬主演で上海が舞台の『真夜中の五分前(2014)』、白客(バイ・クー)が主演した『不止不休(2020)』、本作の梁景东(リャン・チントン)も出演しているドラマ『平原のモーセ(2023)』などの音楽を担当している。
侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督や東京フィルメックス出品作『不止不休(2020)』など、市山尚三氏との関係を感じさせるフィルモグラフィーだ。
『不止不休』中国映画レビュー&解説「The Best is Yet to Come(2020)」 - daily diary
王宏伟(ワン・ホンウェイ)
◯ 主人公・崔明亮(ミンリャン)。地方劇団のメンバー。
◯ 賈樟柯(ジャ・ジャンクー)組の俳優として、『一瞬の夢(1998)』以来、「青の稲妻(2002)」や「世界(2004)」、そして「長江哀歌(ちょうこうエレジー)(2006)」など、監督作品に数多く出演している。
最近では张律(チャン・リュル)監督最新作「白塔の光(2023)」のほか、顾晓刚(グー・シャオガン)監督の2作目「西湖畔に生きる(2024)」にも出演した。

『西湖畔に生きる』中国映画レビュー&解説「草木人间 Dwelling by the West Lake (2023)」 - daily diary
中国映画レビュー&解説「浴火之路 Tiger Wolf Rabbit (2024)」児童誘拐事件を巡るクライムサスペンス - daily diary
趙濤(チャオ・タオ)
◯ 劇団のメンバー、尹瑞娟(ルイ・ジュエン)。
◯ 1978年生まれで北京舞蹈学院卒業後、本作でデビュー。以来、賈樟柯(ジャ・ジャンクー)監督作全12作品に出演しているミューズであり、監督の妻でもある。「山河ノスタルジア(2015)」では台湾金馬奨・主演女優賞を受賞。
監督作以外にはアンドレア・セグレ監督の伊仏合作「ある海辺の詩人 小さなヴェニスで(2011)」、ドラマ「大生活 (2009) 」、アイザック・ジュリアンのビデオ・インスタレーション「Ten Thousand Waves(2010)」に張曼玉(マギー・チャン)と共に出演している。

梁景东(リャン・チントン)
◯ 劇団のメンバー、张军(チャンジュン)。
◯ 賈樟柯(ジャ・ジャンクー)監督作では俳優として『一瞬の夢(1998)』から『世界(2004)』あたりまで出演していたが、『長江哀歌(ちょうこうエレジー)(2006)』からは美術指導として関わるようになっていく。『山河ノスタルジア(2015)』や『新世紀ロマンティクス(2024)』では美術と出演をこなしている。
他には高評価のドラマ『平原のモーセ(2023)』にも出演している。

杨荔钠 / 杨天乙(ヤン・リーナー / ヤン・ティェンイー)
◯ 劇団のメンバー、钟萍(チョンピン)。
◯ 本作では俳優として出演しているが、元々は杨天乙(ヤン・ティェンイー)の名で活動するドキュメンタリー作家であった。1990年代末に中国独立系ドキュメンタリー運動(新記録運動)の先駆者として、呉文光(ウー・ウェングアン)らと活動。既に本作出演より前に、監督したドキュメンタリー『老頭(1999)』で山形国際ドキュメンタリー映画祭でのアジア千波万波部門「優秀賞(現:奨励賞)」を受賞している。
その後、活動名を杨荔钠(ヤン・リーナー)と改名、映画監督としてドキュメンタリー映画制作を始める。そこからドラマ作品の監督に進み、「春梦(2013)」、「春潮(2019)」で映画賞を受賞。3部作の3作目として制作した高齢で認知症の娘をその母親が看護するという名作『妈妈!(2022)』で、中国金鶏奨で主演女優賞を受賞した。
前作『ちっぽけな僕の、おおきな世界 / 小さな私(2024)』は、主演した易烊千玺(イー・ヤンチェンシー / ジャクソン・イー)による脳性麻痺患者の演技が絶賛され、中国金鶏奨・主演男優賞受賞、4部門ノミネートと高く評価された。今年はコミカルなフェミニズム映画『我,许可(2026)』を公開しヒット作となっていて、メジャー商業映画の実力派として知られるようになってきた。

中国映画レビュー&解説「妈妈! Song of Spring (2022)」 - daily diary
『ちっぽけな僕の、おおきな世界 / 小さな私』あらすじ・評価|ジャクソン・イー主演映画を解説(ネタバレなし)「小小的我 Big World (2024)」 - daily diary
中国映画レビュー&解説『我,许可 It's OK(2026)』コミカルで暖かい女性映画 - daily diary
韩三明(ハン・サンミン)
◯ 明亮(ミンリャン)の従兄弟で炭鉱に働きに出る韩三明(サンミン)。
◯ 監督の実の従弟で、実際に18年間炭鉱で働いていた。素朴で味わい深い風貌から、本作でゲスト出演。その後『世界(2004)』に出演後、『長江哀歌(ちょうこうエレジー)(2006)』では主人公を演じ、映画の評価と共に自身も大きく注目された。『新世紀ロマンティクス(2024)』にも出演している。
俳優活動を続けながら独立系映画や公益映画のプロデューサー(製作者)としても活動している。

あわせて読みたい関連記事
