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【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
山西省の駅の待合所やバス停、ビリヤード場など、人が集まる「公共場所」に集う人々を記録した短編ドキュメンタリー。翌年の『青の稲妻(2002)』へと繋がるロケ地、観察者として後年のスタイルへと繋がっていく考え方が見える重要作。

【スタッフ & キャスト】
2001年 中国 32分 豆瓣評価:6.9/10
監督:賈樟柯(ジャ・ジャンクー)
【あらすじ】
山西省の駅の待合所やバス停、ビリヤード場など、人が集まる「公共場所」に集う人々を記録していく短編ドキュメンタリー。
【感想】
監督の長編第三作『青の稲妻(2002)』を構想するきっかけとなった、30分ほどのドキュメンタリー。
カメラを据えるのは、駅の待合所、街道沿いに立つバス停、ビリヤード場といったところ。待つ人、到着する人、立ち寄っただけの人。いろんな人が画面に映り込む。
カメラは人々に近づかない。インタビューをしたり、事情を聞くわけでもない。距離のある所から、人々を眺めている感じで、ただ撮り続ける。何も起こらないかわり、人々の何気ない仕草や表情を収めていく。カットも割らずに長回しで、次第に自分もその場所にいるような感覚になってくる。
NHK『ドキュメント72時間』みたいでもあるが、あのように人々の物語を立ち昇らせる事はしない。
ただ、時間だけがすぎていく。

『青の稲妻』へと繋がる風景
手軽に使えるデジタルビデオによる映像は、ドキュメンタリー的にあの頃の山西省大同を記録している。だが、収められているのは多分有名でも何でもない、街かどの一角ばかりだ。
ここで撮影されたいくつかの場所は、この直後に作られた長編『青の稲妻(2002)』で再びロケに使われる。だがもちろん、そんな情報は映画に一切出てこない。
なんだろう。まるで「旅行中に見た、写真には撮らないけど記憶に残っている風景」のように感じられる。
旅から帰ってきて思い返す時、写真を撮った場所以上に、何度も思い起こすシーンが誰しもあるだろう。そういうのって、大抵なんでもない場所だったりする。バスに乗り遅れてしまった女性。ビリヤード場に入っていく、妙に小綺麗な格好のおっちゃん達。ああいう風景のことだ。
なぜか忘れられない記憶。この映画はむしろ、そうした「記憶」の方を残そうとしているのではないか。

「長さ」をそのまま閉じ込める
賈樟柯(ジャ・ジャンクー)はそれまでの長編2作品でも、登場人物と同じかそれ以上に、その背景に流れる時代や空気、時間を描いてきた。
この短編ドキュメンタリーも、同じように空気や時間を捉えようとしたのかもしれない。あの、無駄に思えるような長いカット。彼は、あの長さだからこそ立ち昇ってくる空気を、閉じ込めたかったんじゃないだろうか。
たとえば待合所で、いつあの人が来るかと考えながら延々と待つ、あの感覚。その空気はこの映画に、まるで真空パックのように濃密なまま残されている。
ドキュメンタリーではあるけれど、これは「普通なら記録されない時間を記録する」ドキュメンタリーだ。

「あの頃を残す」とは何か
前2作の時も同じように、あの頃の空気感を描いていたが、本作ではそこからもう一歩踏み出し、明確に時間とドラマを分離させたように見える。
登場人物の誰かの背景を描いたりもせず、ストーリーも無い。映像を観ながら時間が過ぎていく。
時間を残したい / 再現したいというのはノスタルジーな感情で、普通はそこにまつわる青春や恋愛などのドラマにまとめる事で、あの頃という「失われた時間」を映画化する。本作では映像から、そうした感情を描写するドラマを、分離させようとしたのだ。
監督自身、ちょうどこの映画を撮った頃、ドラマになり得る場面でも『私の方法では何も起こらない』と語り、長回しについても『現実の時間を保存し、時間をそのまま保つ』と説明している。
つまり彼は、普通とは逆のやり方を取った。「あの頃とは、いったい何でできているのか」と突き詰め、分解していったんじゃないだろうか。「あの頃」とは、大きな出来事の年表なのか、それとも雰囲気や匂いのようなものか、それともまた別の何かか。前作でもあった風景や音楽、人々の服装といった断片から、あの頃を示していくやり方。そのうえ更に時間からドラマを切り離し、写真には残らない「記憶にだけ残っている時間」そのものを捉えようとしたのではないか。

映画的とは何か
あの頃を思い出す時、たとえそこに立ち会っていた人であっても、その時の感情は人それぞれだ。長回しで映し、ドラマで映画を作らない事で、ただ映画を差し出す。そうする事で、見た人はそれぞれに湧き起こってくる感情で受け取れる。監督が観客に意味を押し付けたくないと言っていた事とも繋がる。それによって、時間そのものが映画の中に捉えられる。
たとえば待合所。バスを乗り過ごした女性が次のバスを待つ。彼女が待っている時間をそのまま長回しで映し続ける。
「時間」をその長さごと捉える。それは映像だからこそできる、とても映画的な記録の仕方でもある。監督の狙いは結局のところ、映画とは何か、を考え続けた結果なのかもしれない。
後年へと繋がっていく考え方
監督は長編第一作『一瞬の夢(1998)』から、既にその土地に流れている時間を保存しようとしていた。ニ作目『プラットホーム(2000)』でも、同じようにある世代が生きた時間を保存した。
そこから『長江哀歌(ちょうこうエレジー)(2006)』では消滅する場所の時間を、『山河ノスタルジア(2015)』では数十年という時間を描き、遂には『新世紀ロマンティクス(2024)』で、そうした過去に撮った「時間」そのものを再編集してみせた。
つまり、賈樟柯(ジャ・ジャンクー)は、キャリアの初めから「時間をどう映画に保存するか」を常に考え、発展させてきた作家なのではないか。その転換点の一つとして、この短いドキュメンタリーにもしっかりと足跡が残っている。
賈樟柯(ジャ・ジャンクー)監督の2001年のインタビュー。
Cinema with an Accent – Interview with Jia Zhangke, Director of Platform – Senses of Cinema
『一瞬の夢』中国映画レビュー&解説 | 賈樟柯(ジャ・ジャンクー)①デビュー作『小武 Xiao Wu / The Pickpocket(1998)』 - daily diary
『プラットホーム』【前編】中国映画レビュー&解説 | 賈樟柯(ジャ・ジャンクー)②情報量で構築した群像劇『站台 Platform(2000)』 - daily diary
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【トピック】
予告編
▶ 本編(クリックで開きます)
www.youtube.com 贾樟柯 公共场所 2001
中国での公開・受賞・日本での公開/配信
◯ 2001年4月28日に韓国での全州(チョンジュ)国際映画祭で上映された。
◯ 日本では2001年10月3日からの山形国際ドキュメンタリー映画祭で、3人の監督のドキュメンタリーをまとめた『三人三色』2001年版として上映された。現在までディスク販売や配信などは行われていない。
YIDFF 2001 公式カタログ『三人三色』『イン・パブリック』
制作の背景
◯ 韓国・全州(チョンジュ)国際映画祭が毎年3人の監督に依頼する短編ドキュメンタリー『三人三色』の2001年版のひとつとして制作。この年は賈樟柯(ジャ・ジャンクー)と、台湾の蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)監督、イギリスのジョン・アコムフラ監督が、デジタル・フォーマットであること、30分程度の作品であること、そして限られた予算内という条件で制作した。
マルセイユ国際ドキュメンタリー映画祭でグランプリを受賞した。
◯ 本作は、翌年に公開される長編第三作『青の稲妻(2002)』へと発展していく。
本作を撮影しながら、監督は「荒涼とした建物」だけでなく、そこに住む「孤独で目的もない」人々にも関心を持つようになったという。
実際に、本作で登場するバス停、ビリヤード場は『青の稲妻(2002)』にも登場する。
監督:賈樟柯(ジャ・ジャンクー)
1970年山西省生まれの映画監督・脚本家。北京電影学院で学び、1990年代以降の中国映画界における「第6世代」を代表する作家として知られている。急激な経済成長と社会変化の波に直面し、取り残されていく市井の人々の姿を、詩的で生々しいリアリズムで描き出してきた。
1998年長編デビューの『一瞬の夢(1998)』がベルリン国際映画祭などで高く評価され、一躍脚光を浴びた。『長江哀歌(ちょうこうエレジー)(2006)』でヴェネツィア国際映画祭の最高賞である金獅子賞を受賞し、世界的評価を確立した。さらに本作でカンヌ国際映画祭脚本賞を受賞したほか、『山河ノスタルジア(2015)』や『帰れない二人(2018)』といった話題作を次々と手がけ、現代アジア映画を牽引する第一人者として活躍を続けている。
また第一作の上映不許可の後も、未許可のまま地方でゲリラ撮影して、当局を通さずに海外で映画を公開するという手法で制作し続けたが、2003年に当局との話し合いが持たれ、その後本作以降は正式に許可を得た作品として中国国内でも公開されるようになった。
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