海的尽头是草原 In Search of Lost Time
【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
www.youtube.com 《#海的尽头是草原》/ The End of the Sea is a Prairie “草原往事”版预告发布 (陈宝国 / 马苏苏)【预告片先知 | Official Movie Trailer】
【スタッフ & キャスト】
2022年 中国
監督: 尔冬升(爾冬陞、イー・トンシン)
出演: 陈宝国(チェン・バオグオ)、马苏(マー・スウ)、阿云嘎(アユンガ)、王锵(ワン・チャン)、艾米(アイミー)、罗意淳、丁程鑫(ディン・チャンシン)
【ストーリー】
1960年代に発生した大飢饉の上海から避難させるために、養子として数多くの子供たちを内モンゴルへと移住させた実際の史実を元に、広大な大自然で育つ娘とその家族を描く。
【感想】
中国でなければできない、驚くような国家プロジェクトに巻き込まれた子供たちの半生を描いているが、雄大なモンゴルの草原での生活を見ていると観客の気持ちまで浄化されるような映画だった。
と、まあまとめて言えばそういう良くわからない表現になってしまうのだが、実際の鑑賞後の感情も似たような感覚だ。ポスターにある美しく清涼な丘が続くモンゴルの素晴らしい風景とともに、喉の奥にひっかかるような異物感が残る。
映画の冒頭は、1959年の上海から始まる。嵐に巻き込まれ人々が逃げ惑う上海の街が描かれていく…と思えばそれは60歳をとうに回った主人公の弟、杜思瀚【陈宝国(チェン・バオグオ)】の見ていた夢であった。もう老人となった彼は、老いた母の望みを叶えるため、生き別れとなった姉を探すために内モンゴル自治区へと旅立つ。
そもそもこの兄弟が生き別れとなったのは、60年代の毛沢東による大躍進政策の失敗によって発生した大飢饉への対策として編み出された大国家プロジェクトのせいなのだ。飢える都市上海でのたれ死ぬよりは、広大な大地はあれど人は足りない内モンゴル自治区に送り、3000人にのぼる彼ら孤児たちを現地の人々に養子にとらせ、育ててもらおうという、荒唐無稽としか思えないような計画を実行した。だが、本作ではここら辺はかなりあっさりと、あたかも飢えではなく大嵐とかの自然災害によって子供たちが引き離れたかのように描かれている。ともあれ、そうやって主人公たち姉弟は突然親から引き離され、他の子供たちと共に荒涼とした草原地帯の施設に送られてくる。
ただし描写は牧歌的だ。一大事という事で協力して子供たちを引き受ける準備をし、内モンゴルの人々も喜んで彼らを受け入れるために集まってくる。今の感覚で見ていると、保護犬や保護猫を引き受けるのと同じような雰囲気に見えてしまう。
ともあれそうしてあるモンゴル族の一家に引き取られた主人公の娘は、ゲルで生活している典型的なモンゴル的ライフスタイルの中、広大な草原地帯をバックに様々な経験をしてすくすくと育っていくのだ。
そんな素晴らしい自然の中で育っていくのを見ていると、自然とドラマ「北の国から」を思い出す。実際のところ描き方もそれに近く、馬や牛との生活、チーズ的な乳製品なんかの食生活などなど、様々なモンゴル的ライフスタイルを紹介していきながら成長物語を見せていく感じだ。方言も「小さき麦の花(2023)」で話されていた甘粛省の方言よりさらにモンゴル語っぽい。観光映画として、この地の美しい風景をぼーっと見ていても飽きない魅力がある。
ただし、時代考証とかのリアリティはあまり高くないように見えるし、なにより60年代のシーンでもあんまりそう思えないのは少々残念だ。画質はとても良い分、グレーディングや質感も今っぽく見え、まるで先月撮影したそのまんまのようで再現ドラマっぽく見えてしまう。美しいモンゴルを描いた作品として十分楽しめるのでそうして見てみるのも良いが、できれば時代背景を少し調べて見るのも良い映画かと思う。下にも記した同テーマの映画「我が大草原の母(原題:额吉、2010)」もぜひどこかで見てみたいと思わせる、ちょっと日本人はあまり知らない驚きの歴史だと思う。
中国映画レビュー「小さき麦の花 隐入尘烟 Return to Dust」 - daily diary
【トピック】
◯ 2022年8月13日に北京国際映画祭のオープニング作品として公開。その後中秋節の連休にあわせて9月9日に全国公開された。公開初週は喜劇団体「開心麻花」制作の2作「哥,你好」&「月で始まるソロライフ」などに次ぐ興収ランキング9位。興行収入は3600万元(7.2億円)となった。
2023年の香港金像奨で本作が最優秀中国語映画賞を受賞した。
中国映画レビュー「月で始まるソロライフ 独行月球 Moon Man」 - daily diary
◯ 本作は史実に基づいている。子供たちの内モンゴルへの養子・移住計画は、いわゆる大躍進政策により発生した3年大飢饉の対策として行われた実際の大プロジェクトである。
毛沢東は1958年から「大躍進政策」という名で、ソ連に追いつけ追い越せと農業・工業の増産政策を推し進めて国力増強を図った。だがあまりに杜撰な計画、一方的なノルマの押し付けによって逆に生産力が急低下し、食料不足が深刻化し大飢饉が発生した。特に食料生産力の無い都市部の飢饉から子供たちだけでも救うために、人手の足りない内モンゴル自治区へと孤児達を養子として移住させる計画が実行された。
毛沢東はこの大躍進政策失敗の責任を取る形で一旦国家主席を辞任するが、その後も復権を画策し、後の文化大革命へとつながっていく。
◯ この養子・移住計画を扱った映画は他に「我が大草原の母(原題:额吉、2010)」がある。動画サイトなどで見つける事もできる。
NHKアジア・フィルム・フェスティバル上映作品「我が大草原の母(2010)」
◯ 監督の尔冬升(爾冬陞、イー・トンシン)は香港人で、俳優、脚本、監督もこなす香港映画界の重鎮だ。1970年代から俳優でキャリアをスタート。はやくも「癫佬正传(1986)」より監督としてのキャリアを開始した。
主な監督作品だけでも、
・劉青雲(ラウ・チンワン)主演の「つきせぬ想い(1993)」、
・彼と張栢芝(セシリア・チャン)が主演したマイクロバス(小巴)運転手のストーリー「忘れえぬ想い(2003)」、
・呉彦祖(ダニエル・ウー)「ワンナイト イン モンコック(2004)」&「トリプルタップ(2010)」
・劉徳華(アンディ・ラウ)「プロテージ/偽りの絆(2007)」、
・ジャッキー・チェン「新宿インシデント(2009)」
など数多くの作品がある。
中国映画の監督作もあり、世界最大の映画スタジオ横店影視城を舞台にしたエキストラの物語「我是路人甲(2015)」などは結構おもしろかった。
香港映画レビュー「忘れえぬ想い 忘不了 Lost In Time」 - daily diary
陈宝国(チェン・バオグオ)
◯ 生き別れとなった姉を、母に代わって見つけるべく内モンゴルへと向かう杜思瀚を演じた陈宝国(チェン・バオグオ)
◯ 1980年代から数多くの時代劇などで活躍してきた。主なドラマ作品は「漢武大帝(2004)」、「大明王朝(2006)」、「北平无战事(2014)」、「老农民(2014)」など。
映画では「オペレーション・メコン(2016)」にも出演している。
中国映画レビュー「オペレーション・メコン 湄公河行动 Operation Mecon」 - daily diary
阿云嘎(アユンガ)
◯ 娘として引き取られたモンゴル族一家の父、伊德尔の役は阿云嘎(アユンガ)
◯ 内モンゴル自治区オルドス高原地帯出身のモンゴル族俳優だが、特にミュージカルで主に活躍している。
马苏(マー・スウ)
◯ モンゴル族一家の母、萨仁娜役の马苏(マー・スウ)
◯ ハルビン出身の漢族俳優。主な出演作はドラマ「大唐歌飞(2003)」、「我的美丽人生(2010)」、「北京青年(2012)」、「女人如花(2012)」など。
罗意淳
◯ 上海より連れてこられた主人公、杜思珩。
◯ 罗意淳は2015年生まれ。ドラマは「孤城閉(2020)」と他1本に出演しているが、映画は本作が初出演。
陈飞宇(チェン・フェイユー、アーサー・チェン)と周也(ジョウ・イエ)が主演のSFラブストーリー映画「倒数说爱你(2023)」でもヒロインの幼少期を演じている。
中国映画レビュー「倒数说爱你 Yesterday Once More」 - daily diary
王锵(ワン・チャン)
◯ 杜思珩と新しく兄弟となった那木汗
◯ 王锵(ワン・チャン)はモデル活動もしている俳優。
周冬雨(チョウ・ドンユイ)が出資と主演した映画「阳台上(2019)」で、悶々と悩む主人公を演じた。「1921(2021)」にも出演している。
中国映画レビュー「阳台上(陽台上) On the Balcony」 - daily diary
艾米(アイミー)
◯ 主人公、杜思珩(少年期)
◯ 艾米(アイミー)は子役の頃から芸能活動を開始。2008年生まれだが既に10年近くのキャリアがある。
幼年期の杜思珩を演じた罗意淳と同じくドラマ「孤城閉(2020)」に出演している他、香港映画「催眠·裁決(2019)」や大ヒット作「1950 鋼の第7中隊(2021)」での赤いスカーフの女性兵士役、「陰陽師: 二つの世界(2021)」などに出演している。
中国映画レビュー「1950 鋼の第7中隊 长津湖(長津湖) The Battle at Lake Changjin」 - daily diary
丁程鑫(ディン・チャンシン)
◯ ヒロインの友人、马正元
◯ 丁程鑫(ディン・チャンシン)はアイドルグループ時代少年団のメンバー。時代少年団は元々大人気俳優易烊千玺(イー・ヤンチェンシー)をはじめとする中国初の3人組アイドルグループ・TFBOYS傘下の練習生で結成された台風少年団があり、それが解散して新たに結成されたグループだ。
ドラマには元EXOの鹿晗(ルハン)主演「スウィートコンバット(2017)」や、先輩TFBOYS主演ドラマ「我們的少年時代(2017)」などに出演歴があるが、映画は本作が初出演となる。