中国映画レビュー「狙撃手 狙击手 Sniper」

狙击手 Sniper

 

 

 

狙击手狙击手


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【スタッフ & キャスト】

2022年 中国
監督: 张艺谋(チャン・イーモウ)张末(チャン・モー)
出演: 陈永胜(チェン・ヨンシェン)章宇(チャン・ユー)张译(チャン・イー)、刘奕铁、黄炎、王梓屹、陈铭杨、王乃训、程泓鑫

 

 

【ストーリー】

時代は朝鮮戦争の最中。敵陣前で銃撃された偵察兵を救出するために、新聞にも載る程の狙撃の腕を持つ中国志願軍の刘文武隊長(章宇)が率いる小隊に出動指令が下った。だが国連軍のアメリカ兵狙撃手たちが正確に狙いを定めて待ち受ける中、倒れている偵察兵に近づくことすらできない。互いに睨み合いながら、一人、また一人と少しずつ兵が狙撃されていく。高校生ながら軍に志願した大永(陈永胜)は、何もできない中で仲間が死んでいく様を目にしながら敵陣前でもがくのであった。

 

【感想】

中国映画にはあまり見られない今時の描き方で撮られた質の高い戦争映画。隊長のキャラが素晴らしく、そのせいもあって映画全体が一段と感動を覚える仕上がりになったように思う。戦場の残酷さもしっかり描いてあり、やや地味ではあるが記憶に残る映画だった。

とにかく隊長(章宇)を見ながら唸りまくっていた。仲間を思い、1人ずつに目を配り続ける。理性的に判断し行動する。敵にも一目置かれる一流の射撃術。そして何よりも控えめな性格が素晴らしい。己を過信せず、部下を亡くした事を真摯に受け止め、なすべき事は何かを考え続けていた。観客は自然に主人公の新米兵士の目線となり、素晴らしい上官を尊敬して見るようになる。

この映画は基本的に1か所の陣地の攻防について描いていく。お互いに簡単に攻略できずにいる間に、様々なアイデアを試し、だがひとつ失敗する毎に兵が死んでいく。一人の兵の死はそれぞれあっけなく、だがきちんと描かれて毎回胸に迫る。冒頭からさり気なく一人ずつのキャラを描かれていくのでそれぞれの死が迫真に迫るのだが、しかし狙撃手故、その死もまた一発の銃弾で一瞬で終わる。リプレイも無く大げさな演出も無く一瞬で終わっていくのがまた現実を突きつける。中国の戦争映画はややもすると全体主義的な、国のため人民のために戦う自己犠牲的なメンタリティが前面に描かれることが多く、そのために一人ずつの死が軽めに描かれがちなのだが、本作はしっかりと一人ずつの兵士の死を見つめていた。こういう視点はこのご時世の戦争映画であれば絶対必要だと思う。もちろん美術、カメラなど画面のクオリティも素晴らしいのは言うまでもない。

全体として、何もできなかった新米兵士がある傑出した才能に覚醒していくという、若者の成長ストーリーとして作られているのだが、脇を固めるディテールががっちり作り込まれていることで、派手さは無くとも最後まで充分に楽しめる。

 

 

【トピック】

○ 劇中の国連軍=アメリカ人側を主に张末(チャン・モー)監督が撮影し、张艺谋(チャン・イーモウ)監督が中国志願軍側を撮影した。
親子の二人が共作したのは、本作が初めてとなる。娘の张末(チャン・モー)監督は、父の監督した「サンザシの樹の下で(2010)」での助監督・編集などでキャリアをスタート。ラブコメ「28岁未成年(2016)」で初監督した。

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○ 本作は春節の始まる2月1日に公開されたが、张艺谋監督はちょうど自身が総指揮した北京冬季オリンピックが2月4日に開幕し、本作の売上にも影響した模様である。興収ランキングとしては初週で6位の後もほぼ同じ位置を数週間キープした。3月末で6億元(120億円)を突破した。

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○ 2022年11月の第35回中国金鶏奨で、撮影賞、録音賞の2部門で受賞、他6部門でのノミネートと、全作品中4位タイのノミネート数を記録した。

 

○ 章宇(チャン・ユー)が演じた人格者の刘文武隊長。朝鮮戦争で狙撃記録を打ち立てた張桃芳をモデルとしている。
章宇は文牧野監督「薬の神じゃない!(2018)」で主人公の5人組の一人の若者を演じ、最近では同監督の「素晴らしき眺め(2022)」にも出演していた。

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○ 主人公の高校生で兵士となった新人、大永を演じたのは陈永胜(チェン・ヨンシェン)。张子枫主演の良作「シスター 夏のわかれ道(2021)」や、本作と同じ张艺谋(チャン・イーモウ)監督作「悬崖之上(2021)」にも出演している。

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○ 救出を待つ偵察兵亮亮を演じたのは刘奕铁。朝鮮族との子供とのやり取りが胸を打つ。彼もこういった重要な役での出演は初めてのようだ。本作は彼のようなまだ知られていない若手俳優が多く起用されている。

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○ 鉄板を背負って偵察兵亮亮に近づくという突飛なアイデアで印象的だった胖墩は陈铭杨が演じた。

狙击手

 

○ 隊長の人格を見せつけられた、素晴らしく印象的な場面。

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○ 大永と王梓屹演じる小徐。前半冒頭で見られた穏やかなシーンだ。

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○ 軍の隊長として张艺谋監督作常連の张译(チャン・イー)、前半で初頭に大永にインタビューした女性記者として林博洋が特別出演している。

 

○ 中盤で偵察兵亮亮の意識が怪しくなってきた際、彼を目覚めさせるために部隊の皆が歌っていたのは中国志願軍の軍歌「跨过鴨緑江」である。


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昨今の张艺谋(チャン・イーモウ)監督は昨冬の北京冬季オリンピック開会式と、この「我和我的」シリーズの総監督に取り組んでいた印象だ。

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