中国映画レビュー「母への挨拶 带我去见你我妈 Back to Love」

母への挨拶 带我去见你我妈 Back to Love

 

 

 

带我去见你我妈带我去见你我妈


www.youtube.com 《带你去见我妈》/ Back to Love 定档预告

 

【スタッフ & キャスト】

2022年 中国 101分
監督: 蓝鸿春(ラン・ホンチュン)
出演: 郑润奇(チェン・ルンチイ)钟少贤(チョン・シャオシェン)卢珊(ルー・シャン)郑鹏生(ジェン・ポンシェン)连锡龙(リェン・シーロン)连映珠

 

 

【ストーリー】

深圳で働くズーカイはもう2年彼女ジーサンと付き合っており、結婚を決意する。2人で両親に報告しようと郷里の広東省、汕頭に帰ることにした。だが母親をはじめ郷里の人々には、離婚歴のある女性との結婚、潮汕人以外の人との結婚などなど、親の意向を無視するような都会の若者の考え方が理解できないのであった…

 

【感想】

都会の若者と田舎の両親の対立という、よくあるストーリーだが、素晴らしい出来だった。とにかく母親の存在感が最高だ。

昨年の中国映画週間でも上映され、映画評でも軒並み高評価で、知名度こそあんまりで地味な印象だが見た人は全員が高く評価した、そんな映画である。そして、筆者も御多分に洩れず大変高く評価したい。

 

带我去见你我妈

 

簡単に言うとリアルなんである。リアルといっても事実って事ではなく、汕頭に旅行に行ったような、それも親戚や知り合いに会いにはじめて旅行に行き、観光なんかする前からその町の裏話を聞かされ始める感じの、そんなリアルな汕頭が描かれている。

中国南東部、海に近い独特の風景が広がり、そして皆が話す潮汕方言。日々何度も祈りを欠かさない、信仰が根づく町。地元の伝統芸能「潮劇」のある生活。味わい深くてまるで別世界のようで、初めて訪れる彼女もワクワクしているのだが、次第に田舎町特有の問題に直面する。

とにかく母親が最高だ。いかにもなファッション、生活圏内はすべて自分の居場所のような振る舞い。そして、すべてを家族に奉仕するために捧げてきた生活。鶏が先か卵が先か、家族に捧げていた生活だったからこそ、その生活を否定するような息子たちの振る舞いに、簡単に受け入れることができない。でも子供たちにもそれが理解できない。他の住人たちもそうだ。田舎の習慣、風習は理不尽ながら残ったというよりも、たとえ今では意味不明だとしても何かしら理由があって残っているものだ。住人たちも皆、思うところはあれど、その理由も受け入れてここに住み続けることを選択した訳で。そして、選択したからには思い入れもでき、この場所を守ろうとする。そういった複雑な思いを子供たちは理解できず、都市へと向かっていくのだ。

 

带我去见你我妈


蓝鸿春(ラン・ホンチュン)監督が知られる事になった前作「爸,我一定行的(2018)」もまた、潮汕地方で育った若者を描いた作品で、今作と同じく郑润奇(チェン・ルンチイ)が主人公を演じる。前作での主人公は田舎の気持ちを忘れそうになるとはいえ根幹では地方の若者なのに対し、本作ではもはや都市の若者となり故郷の価値観と対立する存在だ。だからこそ観客にとってよりわかりやすい先導役となり、入り込みやすく仕上がったのかと思う。

多くの出演者は俳優経験の無い、この地の人々だそうで、かなり撮影には工夫を重ねたようだ。だがその分というか、近所のおばさんや祖母、ワンピースのルフィに扮して物売りをする友人など、いるだけでものすごい存在感のある濃い~人々が揃っている。中でも意地悪をしてくるおばさん役の范婵真(ファン・チャンジェン)は、とりわけ忘れられない良いキャラだ。

全編に渡る潮汕方言も楽しいし、美しい風景も良し、人々もみんな魅力的で良いし、そして最後は胸にじんわりと迫るとても素敵なエンディングが待っている。素晴らしく愛らしい映画であった。

 

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蓝鸿春(ラン・ホンチュン)監督の前作「爸,我一定行的(2018)」は今作と同じく郑润奇(チェン・ルンチイ)が主役で、より若い高校生から20代前半までを描く。探せばネットで見ることができるが、今作より荒削りには見えるものの、こっちも面白い映画だった。
今作でも出演する父親役の郑鹏生(ジェン・ポンシェン)が父一人子一人の大変寡黙な父親役として、すごく良い雰囲気を見せる。他にもクセの強い人々がたくさん出てきて楽しめる。
いかに田舎の若者が息が詰まる絶望で生きているのか、それがギリギリと弓をひくように胸に溜まり都市へと向かわせるのか、それが痛いほど迫ってきて泣かされてしまう。中国の格差を声高でなく伝えてくる良い映画だ。本作を見た人なら、ぜひ見てみて欲しい。

爸,我一定行的

爸,我一定行的

爸,我一定行的

爸,我一定行的


www.youtube.com 潮汕方言電影《爸,我一定行的》預告片

 

 

 

 

【トピック】

◯ 2022年1月7日に公開。その3日前に汕頭、広州、深圳で先行公開された。日本では2022年10月からの東京・中国映画週間で公開された。

2022東京・中国映画週間 映画紹介

 

◯ 筆者は本作を2023年中国/香港映画の個人的ベストの3位に選出した。

www.teppayalfa.com

 

 

 

◯ 2018年の「爸,我一定行的」という、本作同様に潮汕を舞台に土地の文化を映した作品がまず話題となり、本作は同じチームが再結成して制作された。

 

◯ 劇中では70%が潮汕方言(潮州語、閩南語の一種)での会話になっている。

 

◯ 父親がやっているのが潮州の伝統芸能、潮劇である。


www.youtube.com

 

 

◯ 母親役の钟少贤(チョン・シャオシェン)をはじめ、多くの出演者は演技経験の無い人々である。台詞回しも難しかったため、監督は途中から台本を覚えてもらう事を諦めたと語っている。

 

钟少贤(チョン・シャオシェン)

◯ 素晴らしい演技を見せてくれた母親役。

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郑润奇(チェン・ルンチイ)

 ◯ 主人公の郑泽凯(ズーカイ)役。前作「爸,我一定行的」から主演と脚本も担当している。

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卢珊(ルー・シャン)

◯ 杭州出身の卢静姗(ジーサン)は深圳で映像ディレクターをしており、主人公と結婚する事にする。

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郑鹏生(ジェン・ポンシェン)

 ◯ 父親役。前作でも印象的な父親役を演じた。

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卢敏敏(リウ・ミンミン)

◯ 主人公の妹を演じた

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范婵真(ファン・チャンジェン)

◯ 素晴らしく印象的な実家のご近所さん役。彼女だけは何度も自分の演技がどうだったかカットごとに尋ねていたらしい。

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郑辉松(ジェン・フイソン)

◯ クセのある幼馴染

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挿入歌

挿入歌もまた2022年の新曲とは思えない趣のある素敵な曲だ。MVも90年代カラオケ風である。もちろん潮汕方言で歌われている。


www.youtube.com 陳佳 晨光照入外馬路 (MV版本)