中国映画レビュー&解説「叫我郑先生 Mr. Zheng」

叫我郑先生 Mr. Zheng: 豆瓣

 

【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧くださ

い。】 

 

 

叫我郑先生


www.youtube.com Mr. Zheng (2022) 叫我郑先生 - Movie Trailer - Far East Films



【スタッフ & キャスト】

2022年 中国 100分
監督: 邹德全(ゾウ・ダーチュエン)
出演: 涂们(トゥー・メン)王真儿(ワン・ジェンア)高捷(ジャック・カオ)

 

 

【あらすじ】

独居老人である郑さん【涂们(トゥー・メン)】は、ある日自身が忘れやすくなっている事に気づき、医師にアルツハイマーであると診断される。4年前に亡くなった妻を今も思い出しているが、そんな妻の事もいつか忘れてしまう事に気づき、30年前に妻と辿った思い出の地へと旅に出る。
一方、同じく4年前に交通事故で植物状態となり、意識を取り戻さない夫を今も看病する阿灰【王真儿(ワン・ジェンア)】。郑さんは、旅の途中で阿灰と出会う。

 

 

【感想】

過去の記憶を辿るはずがつじつまが合わなくなる、夢を見ているような最後の旅行記。そんな感じの朧げに流れていく映画であった。

筆者が何がきっかけでこの映画を知ったのか、もう覚えていないが、映画評でも高評価であったので見ることにした。どうやら主演の涂们(トゥー・メン)の遺作という事もあるのかもしれない。

 

叫我郑先生

 

主人公は悠々自適に暮らしているのだが、自分にアルツハイマーが進行している事を知らされ、静かに動揺が広がっていく。だが、彼の毎日は数年前に亡くなった妻との思い出に浸るくらいで、彼女の墓へと日参しては日々のことを語りかけ、そしてまた帰ってひとり食事をするだけだ。病気の事を知っても、彼の心配はつまり、妻との思い出だ。それが失くなってしまう事は、もはや生きる意味も失ってしまう事。郑先生とは、そういう男だ。

妻との思い出の場所へと旅立つ。特に案内は無いのだが、景色を見ているとどうやら台湾のようである。街や田舎、森へも入っていく。様々な風景が中国映画らしくなくて、新鮮だ。

その旅先で彼は、阿灰という女性と出会う。彼女は心も体も疲れ切った上で、同じく旅に出た身の上だ。ただ出会い方が風変わりだ。クラブのような店で有名曲「雨水我問你」をリクエストすると、なぜかただの客だという阿灰がステージで歌う。そして、そのままなぜか一緒に旅をするという流れになる。
このあたりの不自然さは他にも色々あるのだが、エンディングで納得できる。阿灰のキャラクターも何故か捉えどころがなく、不思議な印象だ。なにせずーっと古いウォークマンを持ち歩いている。

 

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一方で、彼のアルツハイマーも旅の道中で深刻になっていく。常にメモを見て記憶を定着させ、常に確認していないと居場所ですら覚束ない。そうして、徐々に現実との境が曖昧になっていく。

それもこれも、この物語全体は郑さんという老人の、妻への深い想いから成り立っている。エンディングでの彼の幸せそうな穏やかな表情ですべては良いかという気持ちにさせられた。ただ、これでは阿灰の人生においてはあまり解決にはなっていないので、彼女についてもう少し描いてあげてほしかったという気にはなってしまうのだった。

 

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【トピック】

◯ 2022年11月11日に中国全国公開。興行収入は118万元(2,400万円)。

 

◯ 監督の邹德全(ゾウ・ダーチュエン)は今作が長編初監督作品となる。

 

◯ 主演の涂们(トゥー・メン)は2021年11月に末期の食道がんである事が発覚。そのわずか1ヶ月後の2021年12月12日、逝去した。既に撮影されていた作品が幾つかあり、本作もそういった遺作の内のひとつである。

 

◯ 郑さんがリクエストしたのは、台湾・蔡秋鳳(ケリス・ツァイ)の有名曲「雨水我問你(2006)」。


www.youtube.com 蔡秋鳳 雨水我問你 kala官方完整KTV版

 

 

涂们(トゥー・メン)

◯ 青島に住み、4年前に妻に先立たれ、独居しながら妻の思い出に浸っている郑さん(という役名)。同じような独居の友人と特養ホームに入ろうと計画している最中、その友人が亡くなってしまう。さらに自らも自宅への帰り道を失念してしまい、アルツハイマーの症状が出ている事に気づく。

◯ 内モンゴル自治区出身の俳優。1985年から俳優として活動しており、ドラマ「笑傲江湖(2001)」や黄暁明(ホァン・シャオミン)主演の「鹿鼎記〈新版〉(2008)」などに出演。
「告别(2015)」でFIRST青年映画展最優秀男優賞にノミネートされ、「老いた野獣(2017)」では台湾金馬奨主演男優賞受賞、東京国際映画祭ではアジアの未来部門スペシャル・メンションを受賞した。

2021年11月に末期の食道がんである事が発覚。そのわずか1ヶ月後の2021年12月12日、62歳で逝去した。既に撮影されていた作品が幾つかあり、本作もそういった遺作の内のひとつである。

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王真儿(ワン・ジェンア)

◯ 事故で植物状態となった夫の看病を続ける阿灰。自分を責める事に疲れ、少し旅に出る。古いウォークマンを常に持ち歩き、録音している。

◯ 2008年デビュー。陈可辛(ピーター・チャン)監督の「中国合伙人(2013)」に出演の後、黄渤(ホァン・ボー)&段奕宏(ドアン・イーホン)主演の映画「记忆大师(2017)」やドラマ「バーニング・アイス -無証之罪-(2017)」あたりから知られるようになる。その後もドラマ「上海女子图鉴(2018)」では主演、ドラマ版の「唐人街探偵」などに出演している。

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高捷(ジャック・カオ)

◯ 妻の思い出の書店の店主。

◯ 台湾人俳優で、侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督「ナイルの娘(1987)」で俳優デビュー。
以来監督の「悲情城市(1989)」「フラワーズ・オブ・シャンハイ(1998)」をはじめ、「天幻城市(1992)」、杜琪峯(ジョニー・トー)監督作「柔道龍虎房(2004)」、林超賢(ダンテ・ラム)監督作「激戦 ハート・オブ・ファイト(2013)」「プロジェクト・グーテンベルク(2018)」などなど、数多くの作品に出演している。

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