盗月者 (2024) — The Movie Database (TMDB)
盗月者 トウゲツシャ - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ | Filmarks映画
【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
香港映画のイメージを覆すようなポップな仕上がりなのに、きっちり香港アクションらしさも随所に感じる、最高に楽しいクライムアクション。東京が舞台なのでいろんな見どころも満載だし、なにより呂爵安(イーダン・ルイ)をはじめ、これからの香港映画にもきっとたくさん登場してくる新世代たちが活躍する映画だ。
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www.youtube.com 『盗月者 トウゲツシャ』予告映像 【11月22日(金)公開】
【スタッフ & キャスト】
2024年 香港 108分
監督:袁劍偉(ユエン・キムワイ、スティーブ・ユン)
出演:呂爵安(イーダン・ルイ)、盧瀚霆(アンソン・ロー)、張繼聰(ルイス・チョン)、白只(マイケル・ニン / バイ・ジー)、姜濤(ギョン・トウ)、袁富華(ベン・ユエン)
【あらすじ】
アンティーク時計の修理に天才的な能力を持つ時計修理工のマー【呂爵安(イーダン・ルイ)】は、老舗時計店の二代目店主であり裏では盗難時計売買の顔を持つロイ【姜濤(ギョン・トウ)】に自身が修理した時計を偽造販売したことがばれ、ある高級時計の窃取を強要される。狙いは、死後50年後に日本で発見され、東京・銀座の時計店に保管された、画家ピカソ愛用の3つの時計。
集められたチームは、リーダーのタイツァー【張繼聰(ルイス・チョン)】、爆薬の専門家マリオ【白只(マイケル・ニン / バイ・ジー)】、鍵師のヤウ【盧瀚霆(アンソン・ロー)】、そしてマー。
彼らはオークションが開催される東京へと飛び、下調べをして銀座の時計店に侵入したが、ピカソの時計が保管された金庫の中に、偶然にも最初に月に到達した時計・ムーンウォッチを発見してしまう。予想外の展開にマーたちの運命は大きく狂い始め、日本の大富豪で裏ではやくざと繋がる加藤(田邊和也)をも巻き込み、チームに危険が迫る。
敵味方が交錯する中、4人の男たちは命を賭けた大逆転のゲームを開始する!
公式サイトより
【感想】
香港映画のイメージを覆すようなポップな仕上がりなのに、きっちり香港アクションらしさも随所に感じる、最高に楽しいクライムアクションだった。東京が舞台なのでいろんな見どころも満載だし、なにより呂爵安(イーダン・ルイ)をはじめ、これからの香港映画にもきっとたくさん登場してくる新世代たちが活躍する映画だ。
舞台は東京。銀座の時計店から貴重で高価なピカソの時計を盗むという、日本人なら気にならない筈がない設定で、実際にストーリーのほとんどが東京を舞台に進んでいく。銀座や川崎の街並みで実際にロケし、MIRRORの2人や張繼聰(ルイス・チョン)達が歩いているのも心躍るし、アジトとした古めかしい文化住宅のようなアパートなんかも出てきて面白い。こうしたところでも、香港の人々がいかに日本を気に入ってくれているのかが良くわかる。
もちろんそれら日本での場面でも、いつもの香港映画らしいアクションシーンが用意されていて、そこら辺の邦画との格の違いをまざまざと見せつける、キッチリ引き締まった格闘で一気に盛り上がる。
日本ではまだ香港のトップアイドルMIRRORの存在も、メンバーの出演映画も知られていないかと思われるが、それでもこれを見れば彼らがいかに演技力があるかは理解できるだろう。
何といっても時計修理の技術者で、実質的な主人公・馬文舜(マー)を演じた呂爵安(イーダン・ルイ)。今作でも例えば秀作「香港ファミリー(2022)」でも見せたような、もう既に安定のクオリティを発揮しているし、得意なコメディ演技は今作でもバッチリ見せてくれているし、今後間違いなく香港映画の主役になる"本物"の風格を感じさせている。
今作は時計にまつわるストーリーでもあり、金庫破りのストーリーでもあるのでメカニカルなシーンが多いのだが、鍵開けシーンなんかのビジュアルも、MVなどを数多く手掛けてきた袁劍偉(ユエン・キムワイ、スティーブ・ユン)監督らしく非常にカッコよく、見ていて気持ちいい。
そして何より格闘シーン、アクションの撮影が素晴らしくこなれている。文化住宅で襲われるシーンなら、部屋の狭さをうまく使ってテンポよく展開するし、その後のクルマによるさらなる追跡劇でのテクニックも(ついでに言えば黒いエスティマという車種のチョイスも)、とてもキマっている。このキモになる部分がキチッとアガる画になっているので「ああー自分は今、香港映画を見ている!」と猛烈に実感できるのだ。
もちろん、ゴリゴリの本格派香港アクションを期待するというのは少し違うが、だからといって「ああ、香港のアイドル映画?」という舐めた態度で行くと、むしろ気持ちよく裏切られるだろう。
しっかりと香港の血が入っていて東京を舞台にした映画という、甄子丹(ドニー・イェン)の「燃えよデブゴン/TOKYO MISSION(2020)」、ジャッキー・チェンの「新宿インシデント(2009)」、さらに邦画だが金城武が主演した「不夜城 SLEEPLESS TOWN(1998)」などの系譜に連なる映画と言っても良い映画になっている。
今の香港映画の要素を一通り詰め合わせたような、新世代のスターによるアクション映画として非常に満足度の高い一本だった。
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【トピック】
◯ 2024年2月9日に春節映画(賀歲片)として香港で一般公開。公開初週は同じく賀歲片である大ヒット作の続編「飯戲攻心2」に次ぐ興収ランキング2位。2週間2位をキープした後、「臨時強盗」に譲ることとなった。興行収入は2830万香港ドル(5.6億円)。
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◯ 香港での一般公開から一ヶ月後の3月1日からは日本でも、大阪アジアン映画祭で上映された。11月22日からは全国ロードショー公開となった。
◯ 監督である袁劍偉(ユエン・キムワイ、スティーブ・ユン、画像中)は1966年生まれで九龍城塞で生まれ育った。1990年にカナダの大学を卒業後、帰国して無綫電視(TVB)に入社。2006年に英ゴールドスミス・カレッジで映像制作を学び直し、その後CMディレクターや監督としての活動を開始。
「暗色天堂(2016)」、「死因無可疑 (2019) 」の2作を監督し、今作が3作目となる。なお、妻は女優であり監督の過去2作共に出演した林嘉欣(カリーナ・ラム)だったが、昨年離婚を発表した。
また監督は1992年頃から、後にViu TVのプロデューサーとして大人気アイドルグループとなっていくMIRRORとその弟分ERRORを作り上げ、彼らの名物マネージャーとなる黃慧君(アーファー・ウォン)"花姐"と、彼女が当時無綫電視(TVB)のバラエティ番組部門でディレクターだったという事で一緒に仕事をする仲であった。MIRROR結成後も監督が姜濤(ギョン・トウ)のソロ曲「蒙着嘴説愛你」をはじめ、グループのMVやCM制作に携わってきた縁から、今作の監督に就任する事となった。
呂爵安(イーダン・ルイ)
◯ 天才的な時計修理工・馬文舜(マー)
◯ アイドルグループMIRRORのメンバーとして2018年にデビュー。名門・香港大学卒の優等生だ。
俳優デビューで主演ドラマの香港版おっさんずラブ「大叔的愛(2021)」、翌年に映画デビュー作のコメディ「闔家辣(2022)」、2作めとしてシリアスな良作「香港ファミリー(2022)」、3作目で「四十四にして死屍死す(2023)」と、メンバーの中で最も多くの映画に出演し、アイドルの枠を超え俳優として既に高く評価されている。
今年は春節映画として今作、そして翌月には「12怪盜(2024)」とMIRRORメンバー全員が出演する映画が立て続けに公開されヒット。今年の東京国際映画祭に出品されたある作品にも出演と、着実に映画俳優としてのキャリアも歩んでいる。
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盧瀚霆(アンソン・ロー)
◯ 鍵師としてあらゆる鍵を開けることができる・李錦佑(ヤウ)
◯ 同じくMIRRORのメンバー。グループ内では姜濤(ギョン・トウ)と1、2を争う人気を誇る。香港版おっさんずラブ「大叔的愛(2021)」では呂爵安(イーダン・ルイ)とカップル役であった。
映画は主演作「假冒女團(2021)」、呂爵安(イーダン・ルイ)も主演の良作「香港ファミリー(2022)」、そして昨年公開された主演作「釀魂 (2023) 」と、今作で4作目の出演となる。今年は今作と「12怪盜(2024)」とMIRRORメンバー全員が出演する映画が立て続けに公開されヒットした。
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姜濤(ギョン・トウ)
◯ 老舗時計店・萊寶行の二代目店主であり、盗難時計売買の顔も持つ・萊叔(ロイ)
◯ MIRRORのメンバー。グループ内では盧瀚霆(アンソン・ロー)と1、2を争う人気を誇る。映画出演は「ママの出来事(2022)」でデビュー。今年はMIRRORとして今作と「12怪盜(2024)」と、立て続けにグループ主演作が公開された。
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張繼聰(ルイス・チョン)
◯ 実行部隊のリーダー・大賊(タイツァー)
◯ 子役から俳優のキャリアを始め、数多くの作品に出演している、今や香港映画で最も売れっ子のひとり。また歌手としても広く知られている。
パトリック・タムと同じく「イップ・マン 継承(2015)」、「L風暴(2018)」や「P風暴(2019)」などの風暴シリーズ、
「逃獄兄弟(2020)」からの投獄兄弟シリーズ、
郭富城(アーロン・クォック)&梁朝偉(トニー・レオン)主演の「風再起時 (2023)」、
大ヒット作「6人の食卓 飯戲攻心(2022)」とその続編「飯戲攻心2(2024)」などに出演している。
「星くずの片隅で(2022)」では台湾金馬奨&香港金像奨の主演男優賞にノミネートされた。
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白只(マイケル・ニン / バイ・ジー)
◯ 爆薬の専門家・渠王(マリオ、画像左)
◯ 白只(マイケル・ニン / バイ・ジー)は「九龍猟奇殺人事件(2015)」の犯人役で知られるようになったが、元々はギタリストであり舞台劇での俳優・演出として活躍していた。
「九龍猟奇~」で香港金像奨・助演男優賞を受賞。以来、「大楽師(2017)」、「アニタ 梅艷芳(2021)」、「風再起時(2022)」、「別叫我"賭神"(2023)」、さらに今年の正月ヒット作「ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件(2023)」、現在香港で大ヒット中の「ラストダンス(破·地獄)」などなど、年々重要作への出演が増している。
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田邊和也
◯ ムーンウォッチを保有している日本企業家・加藤を演じたのは田邊和也(画像左)。
日本より先に韓国映画で、ユン・ゲサン、ハ・ジョンウ主演の「ビースティ・ボーイズ(2008)」に出演し演技デビューする。カナダで活動後、日本で演劇や映画・ドラマに出演している。
主な作品に映画「関ヶ原(2017)」や「ケイト(2021)」、ドラマでは「ちむどんどん(2021)」、「仮面ライダーリバイス(2021)」、「鎌倉殿の13人(2022)」、「TOKYO VICE(2022)」などがある。
ロケ地
◯ ロケは、日本では以下のような場所で行われた。
浅草・浅草地下商店街
上野・時計専門店・クォーク上野本店
西葛西・ラーメンの大様
川崎・釣り船の船宿・つり幸
◯ 香港でのロケでは、萊叔(ロイ)の老舗時計店・萊寶行として、実際に元洲にある創業70年、この地に移転以来30年以上営業してきた老舗時計店・廣濟表行が使用された。
その他にもこの記事にて香港での各ロケ地について解説されている。
【題材となった実話の事件、ムーンウォッチ、ピカソの時計】
◯ 題材となったのは、2010年に発生した実話の事件である。
2010年お正月である1月2日未明、東京・銀座四丁目にある有名時計・貴金属店「天賞堂 銀座本店」で地下1階のショーケースが割られ、ロレックスなどの高級腕時計約200点(約3億円相当)が盗まれる事件が発生。
事件の手口が、外壁に穴を開けて侵入するというやり方で、香港では90年代から発生していた「爆窃団」と同じという事で当初から関連を疑われ、実際に香港人の3人が逮捕。さらに犯人グループは盗んだ時計を小分けの小包にして香港に発送。これらの多くが香港側で警察に押収される事となった。
窃盗:腕時計3億円盗まれる…壁に穴、銀座の貴金属店 - 楽天ブログ
爆窃団による銀座宝石店3億円の手口と犯人6人。 防犯泥棒大百科
銀座の窃盗、別グループが郵送の盗品狙う?(2010年1月11日掲載)|日テレNEWS NNN
銀座の時計窃盗、3人に実刑判決 香港の裁判所 - 日本経済新聞
www.youtube.com 銀座「天賞堂」爆窃事件 香港警察の捜査員が現場視察
◯ 劇中で登場する"ムーンウォッチ"とは、スイスの時計メーカー・オメガが販売している腕時計・スピードマスターの愛称。人類初の月着陸を成し遂げたアメリカ・NASAに唯一公式採用され、宇宙飛行士・バズ・オルドリンが月に降り立った際に装着していた事からそう呼ばれる事となった。
販売されているスピードマスターはステンレス製の金属ベルトが付いているが、月着陸の際には宇宙服の上から装着するため、実際の時計にも劇中と同じような布ストラップが付いていた。
さらに劇中での話の通り、バズ・オルドリンが装着した現物のムーンウォッチは、当初アメリカのスミソニアン国立航空宇宙博物館に所蔵されていたのだが、いつ頃からか実際に所在不明となってしまっているようだ。
現在もなお、ほぼ同じデザインのまま「オメガ・スピードマスター ムーンウォッチ プロフェッショナル」として販売されている。
価格は30年以上前の1990年代頃は約20万円という、上記リンクの惹句通り新社会人にも勧められる、手軽だが手堅いモデルという扱いであったが、現在は軽く10倍はする、文字通りの高級時計となってしまった。
また、ピカソの時計なるものが登場するが、これは画家のパブロ・ピカソがオーダーして作らせたオリジナル時計の事で、実際に存在し最近もオークションに出品され、超高額で落札された事が話題になった。劇中のチラシにも同じデザインのものが掲載されている。