国境ナイトクルージング - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ | Filmarks映画
【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
凍てつく美しさの風景の中、ふと出会った若者たちの数日間を描く青春映画。
狭く閉ざされた街で次第に波長が合わさっていく高揚感、それ自体がただ楽しかった"あの頃"が懐かしく思い出される。
www.youtube.com The Breaking Ice (2023) 燃冬 - Movie Trailer - Far East Films
www.youtube.com 映画『国境ナイトクルージング』本予告 10.18公開
【スタッフ & キャスト】
2023年 中国 97分
監督: 陈哲艺(アンソニー・チェン)
出演: 周冬雨(チョウ・ドンユイ)、刘昊然(リウ・ハオラン)、屈楚萧(チュー・チューシアオ)、魏如光(ウェイ・ルーグァン)、白沙(バイ・シャー)
【あらすじ】
母からのプレッシャーに心を壊したエリート社員【刘昊然(リウ・ハオラン)】。オリンピック出場を断念した元フィギュアスケーター【周冬雨(チョウ・ドンユイ)】。勉強が苦手で故郷を飛び出した料理人【屈楚萧(チュー・チューシアオ)】。
挫折をひた隠し、閉塞感の中で縮こまる3人が、中国と北朝鮮の国境の街、延吉に流れ着いた。磁石のように引き寄せられ、数日間を気ままに過ごす彼ら。深入りせずに、この瞬間をひたすら楽しむ、それが暗黙のルールだ。過去も未来も忘れ、極寒の延吉をクルーズするうちに、凍りついていた孤独がほどけていった。
公式サイトより
【感想】
凍てつく美しさの風景の中、ふと出会った若者たちの数日間を描く青春映画。
狭く閉ざされた街で次第に波長が合わさっていく高揚感、それ自体がただ楽しかった"あの頃"が懐かしく思い出される。
青春映画とは書いたが、典型的な青春を描いている訳ではない。登場する若者たちも、20代を半分過ぎたような、そろそろ大人になるような黄昏時を意識させる年頃だ。
特に刘昊然(リウ・ハオラン)が演じる上海から来た金融関連のサラリーマンだという浩丰(ハオフォン)は、結婚式に出るというのに鬱々としていて、精神科からの電話が何度もかかったり(しかもそれを適当にあしらったり)と、日々の生活にうんざりしている。戯れに日帰りパックツアーに参加するくせに、ひとりやる気ない雰囲気を漂わせて、ガイドをしていた周冬雨(チョウ・ドンユイ)演じる娜娜(ナナ)に気を遣わせたりする。
娜娜(ナナ)もまた、日々に倦怠感を感じていて、ガイドの仕事も楽しくないし、いつもついて来る屈楚萧(チュー・チューシアオ)演じる韩萧(シャオ)と適当に遊んだりしているが、付き合う気になど到底なれない。
そうした3人が、たまたま出会い、お互いに、言ってみれば退屈な日常への闖入者、もしくは新しいおもちゃみたいな感覚で、ちょっとツルみ始めてみるのだ。
舞台となった吉林省の延吉は、朝鮮系の人々が多く住む地方。日常でもなまりの強い韓国語が飛び交い、韩萧(シャオ)も仕事では韓国語も使う。浩丰(ハオフォン)が出席した結婚式も朝鮮式だし、ツアーで立ち寄る名所旧跡にも朝鮮文化が色濃い。
そして、大変寒く、雪深い凍てついた場所だ。それらを映しとる映像が素晴らしく美しい。そして、そこに合わさってくるアンビエントのような透明感のある音楽が、より一層拍車をかける。街を出れば眼前に広がってくる雪景色。それが美しければ美しいほど、彼ら生々しく悩みながら生きる若者たちとのコントラストがより映えるようだ。
この映画を見ながら、妻夫木聡らが主演した「きょうのできごと(2003)」という、個人的に大好きな映画を思い出していた。この映画もまた、ただ遊んでいるだけの若者たち、何かしたとしても大した意味もない、若者のこの時期にしか持てない時間を捉えた、余韻のある素敵な映画だ。ちなみにこの映画でも、今作と同じような役割で大きなクジラが登場したりする。
監督はトリュフォーのヌーヴェルヴァーグ映画などを参照していたそうで、その感じも伝わってくるし、一方で中国映画らしくない彼らの行動に繋がっているのもわかる。やはりシンガポール人の監督という意味でも、この映画はいわゆる中国映画らしくない映画とはいえる。
うまく口にできない感情はそっと脇に置いて、とりあえずみんなと遊ぶ。そしてまた1人になった時、その感情と向き合う。若者とは、そういうものとも思う。
特に、最初は色々とぎこちない場面が続くのに、徐々に波長が揃っていくところにとても共感できる。まさに"バイブスが合う"感じが、こういうの、あの頃よくあったなあと切なく思い出す。
何かをした訳でもないけれど、きっと何年も経ってからふと思い出すだろう。大人になる前の最後の瞬間として、きっと知らずに大事な意味を持つ時期だったのだろう。まるでコロナ禍のあの期間のように。そんな時間を切り取った素敵な映画であった。
【トピック】
◯ 2023年5月21日にカンヌ映画祭である視点部門の正式出品としてワールドプレミア。またアカデミー賞外国映画部門にシンガポール代表として出品されている。その後同年8月22日に中国で一般公開された。
公開初週は夏休み期間ということもあり、「ノー・モア・ベット: 孤注(2023)」や「封神~嵐のキングダム~(2023)」、アニメ映画「長安三萬里(2023)」など、2023年を代表する中国映画たちに次ぐ興収ランキング9位に入った。中国での興行収入は2607.6万元(5.5億円)。
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◯ 日本では2024年10月18日から全国ロードショー公開された。
◯ 監督の陈哲艺(アンソニー・チェン)はシンガポールの映画監督。映画学校を卒業した21歳の頃に作った処女短編作品「G-23(2005)」がいきなりカンヌ映画祭の企画で上映という栄誉に浴する。その後も短編「Ah Ma (阿嬷、2007) 」、「Haze(雾、2008)」がそれぞれカンヌ映画祭で短編部門で受賞、ベルリン映画祭でノミネートと高評価を得る。
初の長編作品「イロイロ ぬくもりの記憶(2013)」ではカンヌ映画祭カメラドール、台湾金馬奨では作品、新人監督、助演女優、脚本賞の4冠を達成するという快挙を成し遂げた。「熱帯雨(2019)」、「Drift(2023)」と続き、今作が長編監督4作目となる。
また、今作までにタイ・シンガポール合作映画「ポップ・アイ(2017)」、韓国・シンガポール合作「Ajoomma(아줌마、2022)」のプロデュースも行っている。
今作は、前作「Drift(2023)」の撮影がコロナ禍で延期となってしまい、仕事が宙に浮いた際に急遽企画して制作していった、そんな作品だそうだ。
◯ 撮影はコロナ禍が明けた2021年12月に吉林省延吉市で行われた。
周冬雨(チョウ・ドンユイ)
◯ 旅行ガイドをしている娜娜(ナナ)。過去、アイススケート選手であった。
◯ 1982年生まれだがもはや大御所と言ってもいい。自身の会社から製作に出資するなど女優以外でも映画界で幅広い活躍を続けている。「サンザシの樹の下で(2010)」でデビューし、「ソウルメイト/七月と安生(2016)」、「少年の君(2019)」という曾国祥(デレク・ツァン)監督の秀作2作、「僕らの先にある道(2018)」などなど、本当に数多くの映画に出演している。
2023年は本作以外にも「ボーン・トゥ・フライ」、「中国青年:我和我的青春」、ネットメディアの記者を演じた「热搜(熱捜、2023)」、「鹦鹉杀」、张艺谋(チャン・イーモウ)監督の社会派サスペンス「坚如磐石」と大量の出演作が公開された。
◯ 今作で周冬雨(チョウ・ドンユイ)は刘昊然(リウ・ハオラン)と共演しているが、実はもうひとつ共演作があり、2021年にサン・セバスティアン国際映画祭でワールドプレミアした张骥(チャン・ジー)監督による「平原上的火焰」という映画が、一旦2022年公開というアナウンスもあったようだが延期となり、今に至るまで公開に至っていない。
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刘昊然(リウ・ハオラン)
◯ 結婚式に出席するために上海から来た浩丰(ハオフォン)。出身は河南省である。
◯ 大ヒット映画「唐人街探偵」シリーズ全3作の主演で知られる。ドラマでは「最上のボクら(2016)」、「琅琊榜<弐>(2017)」、「九州縹緲録(2019)」など。
そもそも「唐人街探偵」シリーズの監督・陈思诚(チェン・スーチェン)が監督・脚本・主演したドラマ「北京爱情故事 (2012)」で芸能界デビューし、新人賞を獲得しキャリアを開始していて、監督の作品への出演が多い印象だ。
最近では映画「一点就到家 (2020) 」や「1921(2021)」、「四海(2022)」にも出演しているが、特に今年は、今作の日本公開、ジョン・キューザックとの共演作「デクリプト(2023)」と東京国際映画祭への出品作「わが友アンドレ」の公開、さらにカメオとして「飞驰人生2(2024)」や中国映画週間で上映される「雲の上の売店(2024)」に出演、宮崎駿監督作「君たちはどう生きるか(2023)」中国版では主人公・眞人役の声を担当と、様々な出演作が目白押しとなっている。
◯ 今作で周冬雨(チョウ・ドンユイ)と共演している刘昊然(リウ・ハオラン)は、実は「平原上的火焰(2021)」という、もうひとつの共演作があるのだが、今に至るまで公開に至っていない。
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屈楚萧(チュー・チューシアオ)
◯ ツアー客が立ち寄るレストランの料理人・韩萧(シャオ)。四川省からやって来た。
◯ 1994年生まれ。2016年、中央戯劇学院に在学中からネットドラマなどに出演を開始。ドラマ「孤高の皇妃(2017)」、「晩媚と影(2018)」、「如懿伝(2018)」などに出演。
2019年に大ヒットSF映画「流転の地球(2019)」に主演した事で一気に知られる様になる。その後、映画「あなたがここにいてほしい(2021)」、「陰陽師: 二つの世界(2021)」、今作の後にも「一闪一闪亮星星 (2023) 」で主演と、主に映画界で活躍している。
今年は劉德華(アンディ・ラウ)主演の中港合作の航空犯罪映画「危機航線 (2024) 」に出演している。
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