船に乗って逝く - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ | Filmarks映画
【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
親を看取る、そこにまつわる姉弟のすれ違いから自身の生き方を見つめ直す物語。
故郷の昔ながらの風景が、とても洗練された映像で撮られていて新しい価値観を感じる。
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www.youtube.com 映画『船に乗って逝く』予告編
【スタッフ & キャスト】
2023年 中国 99分
監督: 陈小雨(チェン・シャオユー)
出演: 葛兆美(グォ・チャオメイ)、刘丹(リウ・ダン / リュウ・ダン)、吴洲凯(ウー・チャウカイ)、ブレント・ハース(何必)、何圳煜(ホー・ジェンユ)、刘凤凰(リュウ・フェンフアン)
【あらすじ】
田舎の河沿いで暮らしていた老婦人・シュウ(周瑾)【葛兆美(グォ・チャオメイ)】は、悪性の脳動脈瘤で余命宣告をされた。都会で会社を経営するシュウの娘【刘丹(リュウ・ダン)】は、治療が大変でも諦めないと主張する一方で、シュウの息子【吴洲凯(ウー・チャウカイ)】は余命を気楽に過ごさせたいと意見が対立。やがて死が迫ってくる時、家族たちの最後の選択は…。
【感想】
親を看取る、そこにまつわる姉弟のすれ違いから自身の生き方を見つめ直す物語。故郷の昔ながらの風景が、とても洗練された映像で撮られていて新しい価値観を感じる。
かつて両親が住まい、今は母親だけが住んでいる大変年季が入った実家。この家が本当に美しく撮られていて、思わず目を見張る。土壁に土間の簡素な設えだが、質素ながら清潔でとても魅力的な部屋だ。
家の様子に限らずこの小さな集落の、どのシーンもとても美しい。特に構図の取り方に工夫を凝らし、独特の視点から見せてきて常に小さな驚きをくれる、とても凝った撮影が本当に素敵だ。
良い映画って何かと考えた時、筆者はフレッシュなシーンがあるかどうかだと思っている。映像として(その人にとって)ハッとさせられる場面があれば、それだけでまずは良い映画と評価する入口にいるだろう。この映画はそんなシーンが幾つもあって、初商業映画作品でこのクオリティは、凄い才能の監督だと驚いた。ましていきなりの中国金鶏奨受賞だ。多くの人が評価しているのも納得できる。
物語そのものはフレッシュとは言えないかもしれない。父親が亡くなり、母親も先が心配な独り暮らし。そこからの子供としての葛藤や悩み。多くの人がいつかは経験するし、筆者もまさにその渦中にいる。それらを淡々と描いていく。
姉と弟、2人は正反対の生き方をしてきて、だから母親の今後についても正反対の意見だ。筆者はどちらにも共感できるし、こういう事に正解なんかそもそも無い。しかも、特にやや完璧主義ぽい姉は家庭や仕事にも課題を抱えていて、母への心配の気持ちを十分に果たせない苛立ちも募っているという、とても共感してしまう役柄だ。
特にアメリカ人の夫の存在が面白くて大変印象的だ。普通話もペラペラ、夫婦喧嘩も普通話でこなし、義実家に行ってもごく自然に過ごす。そしてとても優しい。だがやはり心はアメリカ人、というよりもここでは家族にも関わらず外部の人間としての"第三者の視線"を差し込んで来て、妻である姉はその正論にも苛立たされるのだ。彼の存在もあってか、この映画はあまり中国映画らしさみたいなものを感じない。少し海外の監督が撮った中国のような雰囲気がある。
親の老後は家庭によって色々だから、この物語をハッピーエンドととるかは微妙だが、少なくとも親も子もできるだけの事はできていて、しかし結局、子のできる事など"そんなもん"だろうなと思い至る。
中国でのレビューに「弟はゲイなのではないだろうか」という疑問があって、ああと腑に落ちるものがあった。監督は否定したようだが、それはつまり弟の造形がとても自然体という事だし、何なら、そうした造形をした監督の視線の中にある、日の当たらない存在をすくい上げる価値観を言い表しているのだろう。
そんな思いで、この一見よくある事に見えるような物語こそ、監督は輝く価値があると信じて作ったのかもしれない。
そうした意味では、たとえば「春江水暖(2019)」や「小さき麦の花(2022)」にも近い感覚を持つ。じっくりと観察しながら見直すとまだまだ発見がありそうな、小品かもしれないがとても思いの籠もった映画であった。
中国映画レビュー&解説「春江水暖~しゅんこうすいだん 春江水暖 Dwelling in the Fuchun Mountains」 - daily diary
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【トピック】
◯ 2023年6月12日の上海国際映画祭でワールドプレミア。1年後の2024年4月12日に中国で一般公開された。興行収入は157.8万元(3400万円)。
◯ 日本では2024年7月5日からの中華映画特集上映「電影祭」で初上映され、さらに11月29日の現代中国映画祭2024でも上映される。
◯ 本作は、上海映画祭ではアジア新人賞脚本賞を受賞、FIRST青年映画祭では最優秀作品賞にノミネートされた。
そして中国金鶏奨では助演女優賞受賞、主演女優賞などの3部門ノミネートという快挙を達成した。
◯ 今作を監督した陈小雨(チェン・シャオユー、画像左、監督の母親と葛兆美(グォ・チャオメイ)と共に)は1994年生まれの監督、脚本家。2012年にデビュー作として、若者たちや俳優・高虎らの状況を撮った短編ドキュメンタリー「年轻的钱包 (2012) 」を制作。翌年の「傍海村民 (2013) 」では数多くの賞も受賞した。
その後もドキュメンタリー、劇映画それぞれ何作か制作しているが商業映画として公開に至ったのは今作が初作品となる。
葛兆美(グォ・チャオメイ)
◯ シュウ(周瑾)。夫を亡くし一人暮らしとなった。
◯ 今作で中国金鶏奨・主演女優賞にノミネートされた。
国家一級演員で、上海の芸術学校で講師、さらに中国語への吹き替え声優などをしていたが、2010年頃から映画・ドラマへ出演が始まる。
主な出演作はドラマ「それでも、家族(2019)」、「流金岁月 (2020) 」、「猟罪図鑑(2022)」、「惜花芷(2023)」などがある。
刘丹(リウ・ダン / リュウ・ダン)
◯ 上海で会社を経営している長女・苏念真
◯ 今作で中国金鶏奨・助演女優賞を受賞した。
「鵞鳥湖の夜(2019)」の刁亦男(ディアオ・イーナン)監督第2作でカンヌ映画祭「ある視点」部門ノミネートの「夜车(2007)」で主演。
演劇でも活躍しており、2013年には能の「羽衣」を日本で演じた初の中国人となった。映画「この夏の先には(2021)」でも金鶏奨・助演女優賞にノミネート。
最近は映画「⼈⽣って、素晴らしい / Viva La Vida(2024)」、「祝你幸福! (2024) 」、ドラマでは「摩天楼のモンタージュ(2020)」、「美味しいロマンス(2021)」、「開端-RESET-(2022)」などに出演している。
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吴洲凯(ウー・チャウカイ)
◯ 近所に住むがまだ結婚もしていない弟・苏念清
◯ 1988年生まれで、舞踏学校である北京舞蹈学院を卒業。卒業後も「两只狗的生活意见(2019)」をはじめミュージカルや舞台で活動してきた。
映画「我说的都是真的 (2018) 」やドラマ「情满四合院 (2015) 」などに出演歴がある。
ブレント・ハース(何必)
◯ 苏念真の夫・ライアン(莱恩)。英語学校の教師をしている。
◯ 俳優ではなく、北京大学に設置されている燕京学堂という名の全額給付型奨学金制・修士フェローシップ・プログラムでの副学部長を務めていて、つまり中国学の研究をしている人物だ。カリフォルニア大学サンディエゴ校で博士号も取得している。
何圳煜(ホー・ジェンユ)
◯ 苏念真の息子・宋远涛。俳優を目指している。
◯ 1999年生まれ。オーディション番組「創造営2021」に出演して芸能界入りしたばかり。今作が演技デビュー作となる。
刘凤凰(リュウ・フェンフアン)
◯ 苏念真の娘・苏灿
◯ 2007年生まれの彼女も、子供の頃から広告やCMなどに出演していたというキャリアで、今作が映画デビューとなる。