香港映画レビュー&解説「ソク・ソク / 叔·叔(スク・スク)叔·叔 Suk Suk」

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ソク・ソク - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ | Filmarks映画

 

【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】

2019年作。ゲイの高齢者カップルについて描いた香港映画。穏やかな語り口だが、問題が絡み合う現実をきちんと描いてあり、監督の次作「從今以後(2024)」よりリアル、ストレートで強く心に残る。

 

 

スク・スク / ソク・ソク 叔·叔


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【スタッフ & キャスト】

2019年 香港 92分
監督:楊曜愷(レイ・ヨン)
出演:袁富華(ベン・ユエン)太保(タイポー/タイ・バオ)區嘉雯(パトラ・アウ)盧鎮業(ロー・ジャンイップ)江圖(コン・トー)林耀聲(ラム・イウシン)

 

 

【あらすじ】

退職が間近に迫ったタクシー運転手のパク【太保(タイポー/タイ・バオ)】と、すでに引退しているシングルファーザーのホイ【袁富華(ベン・ユエン)】。二人の出会いが長年抑制し続けてきた感情を呼び起こす。しかし一緒に将来を築くには乗り越えなければならない壁がいくつも存在していた。
第29回レインボー・リール東京より

 

 

 

【感想】

2019年作。ゲイの高齢者カップルについて描いた香港映画。穏やかな語り口だが、問題が絡み合う現実をきちんと描いてあり、監督の次作「從今以後(2024)」よりリアル、ストレートで強く心に残る。

筆者は先に次作の、つい先日大阪アジアン映画祭でも上映された「從今以後(2024)」を見て、その強い問題意識に触発されたような形で、前作のこの映画も見てみた。後追いだったが個人的にはむしろこの順番で見て良かったのかもしれないと思った。
それほど、今作の方が問題に真正面に向き合い、それに合わせて描写もよりストレートで、もしこちらを予備知識なく先に見ていたら、内容を落ち着いて飲み込めなかったかもしれない。

 

ソク・ソク / 叔·叔(スク・スク)

 

楊曜愷(レイ・ヨン)監督は、2作とも同じくLGBTQの高齢者カップルを描いている。一作目の今作は男性として生きてきた2人、次作は女性として生きてきた2人を主人公にしている。2作目が、長年のパートナーを亡くしたその後を描く「別れ」編とすれば、1作目の今作は、2人の出会いからステディな関係に至るまでの様々な問題を見せていく「出会い」編だ。

その「出会い」の場面から、彼らならではの出会いの方法、場所、プロセスが綴られていく。彼らの中ではよく知られている公園、しかも太保(タイポー/タイ・バオ)演じる柏(パク)はタクシードライバーという、香港らしい風景からの飛躍だ。それが実際にもそうなのか、はたまた日本の状況と同じなのかはわからないが、昔からのやり方のように描かれている。観光でも立ち寄るような風景が映画の舞台になるのは香港映画らしい所だが、今作の場合はそれと同時に、香港のLGBTQの人々がどれほどひっそりと息をひそめて暮らしているかが伝わってくる。

 

ソク・ソク / 叔·叔(スク・スク)

 

そのシーンに限らず、彼らの生きづらさは正に香港の伝統や文化と深く関わりあっている。家族を大切にする華人文化、キリスト教教会などなど、すべて香港と香港市民の根幹にある価値観で、それゆえに香港で生きるなら自分のセクシュアリティは深く隠し通し、社会に見合った姿に成りすます他に方法は無かった事がわかる。60代以上の主人公たちの世代ならばよりその風潮は強かっただろうし、太保(タイポー/タイ・バオ)演じる柏(パク)に至っては、生きること自体がハードだった中国からの移民で、選択肢など無かったに違いない。それは当時の日本以上に厳しかったかもしれない。

2人は出会い、仲間の集まる場所へ向かう。そうしたサウナ的な場所も描かれる。裸で皆で食事をして、皆でここでしかできない話に花を咲かせる。その時の穏やかな表情を見ているだけでも、胸の奥に迫るものがある。2人が愛し合うシーンもある。決してレイティングに抵触するような描写ではないが、きちんと描いている。100人以上の俳優にオファーしたが断られたというこの役を引き受けた、太保(タイポー/タイ・バオ)と袁富華(ベン・ユエン)の迫真の演技は、穏やかだが深い感情が伝わってきて素晴らしかった。中国映画なら娄烨(ロウ・イエ)監督の「スプリング・フィーバー(2009)」などもこうした関係が描かれるが、あのような若さとはまた違う情熱がある。筆者は見ていないが「藍宇(ランユー) 情熱の嵐(2001)」も挙げられるだろう。

 

ソク・ソク / 叔·叔(スク・スク)

 

この2人は一方で高齢でもあり家族もいる。彼らは共に父でもある。気持ちだけで割りきれない事情が幾つも横たわっていて、そこもしっかり描かれる。最後にカミングアウトし、本当の自分として生きる仲間を見て、家族と共に過ごす事とを天秤にかけて悩む袁富華(ベン・ユエン)演じる海(ホイ)。盧鎮業(ロー・ジャンイップ)演じる息子・永(ヨン)の側から見た父の姿も、見る側の心に深く刺さってくる。
太保(タイポー/タイ・バオ)の妻、清(チン)役の區嘉雯(パトラ・アウ)の演技が本当に細やかに光っていて、夫の変化への気づき、そこからの感情を、抑えに抑えた目だけの表情で表現する。次作では主人公を演じたのも納得の白眉のシーンだ。

映画としてドラマチックには描いていないが、だからこそ香港の日常と地続きで、常にこうした問題を抱えている人が存在している事を実感される。「白日青春 生きてこそ(2022)」「星くずの片隅で(2022)」「流水落花(2022)」などの新世代映画と同じ、香港をまた新しい角度から見せてくれる良作のひとつだった。

 

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【トピック】

◯ 2019年10月4日に釜山国際映画祭でワールドプレミア。翌2月に台湾で公開した後、2020年5月28日から香港でも公開された。興行収入は356万香港ドル(6600万円)。

日本では2021年7月16日からの第29回レインボー・リール東京で「叔・叔(スク・スク)」というタイトルで上映され、その後「ソク・ソク」と改題され2022年11月26日からの香港映画祭2022でも上映された。

rainbowreeltokyo.com

hkfilm2021.wixsite.com

 

◯ 本作はベルリン映画祭パノラマ部門に正式出品。台湾金馬奨で作品賞・主演賞ほか5部門ノミネート、香港金像奨では主演男優賞・助演女優賞の2冠、9部門ノミネートとなった。

 

◯ 監督の楊曜愷(レイ・ヨン)はイギリス留学後、弁護士資格も持っているが、自身で映画製作も開始。その後、米コロンビア大学芸術学院で改めて映画製作について学んだ。今作の後に同じテーマの次作「從今以後(2024)」を昨年公開した。

ソク・ソク / 叔·叔(スク・スク)

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袁富華(ベン・ユエン)

◯ シングルファーザーとして息子を育てた後、現在は定年退職している海(ホイ)。

◯ こちらもLGBTQ映画である「トレイシー(2018)」に同じくゲイの役で出演、台湾金馬奨と香港金像奨で助演男優賞を受賞した。
俳優のキャリアは1990年代からで、周星馳(チャウ・シンチー)監督の大ヒット作「喜劇王(1999)」では、ギャング役として非常に有名なセリフ「你唔係外賣仔!」を発している。「トレイシー」以降、より広く知られるようになり「花椒の味(2019)」に出演。さらに本作が公開されて以降は「バーニング・ダウン 爆発都市(2020)」「手巻き煙草(2020)」「レイジング・ファイア(2021)」「贖罪の悪夢(2024)」「盗月者 トウゲツシャ(2024)」など出演作が更に増加、大ヒット作「我、邪で邪を制す(2023)」では主演格での出演など人気も増している。

ソク・ソク / 叔·叔(スク・スク)

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太保(タイポー、タイ・バオ)

◯ 柏(パク)。長年タクシードライバーをしていた。

◯ 今作で香港金像奨・主演男優賞を受賞。
楊曜愷(レイ・ヨン)監督の次作「從今以後(2024)」にも出演している。

数多くの香港・台湾映画に出演する名バイプレイヤー。幼少期を台湾で過ごしたため"臺保"と呼ばれ、そこから今の芸名となった。
1980年代以降の香港・台湾映画、特に成龍(ジャッキー・チェン)や洪金寶(サモ・ハン・キンポー)の作品に数多く出演した。
「公僕(1984)」で台湾金馬奨ノミネート、宮沢りえ主演の台湾映画「運転手の恋(2000)」で金馬奨・助演男優賞受賞している。
主な出演作は「ヤング・マスター/師弟出馬(1980)」「プロジェクトA(1983)」「五福星(1984)」「ポリス・ストーリー 香港国際警察(1985)」「新Mr.Boo!香港チョココップ(1986)」「サイクロンZ(1988)」「悲情城市(1989)」など、そして最新作は「ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件(2023)」という、錚々たるフィルモグラフィだ。

ソク・ソク / 叔·叔(スク・スク)

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區嘉雯(パトラ・アウ)

◯ 柏の妻・清(チン)。違和感は感じながら生活している。

◯ 本作で香港金像奨・助演女優賞を受賞した。
英文教師をしながら舞台劇に出演しており、数多くの賞を受賞した。本作の後も大ヒットとなった「正義迴廊(2022)」「星くずの片隅で(2022)」「白日青春-生きてこそ-(2022)」「全世界どこでも電話(2023)」と、続々と話題作への出演が続いている。
本作の楊曜愷(レイ・ヨン)監督の次作「從今以後(2024)」では主演を務めた。

ソク・ソク / 叔·叔(スク・スク)

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盧鎮業(ロー・ジャンイップ)

◯ 海(ホイ)の息子・永(ヨン)。父の行動に細かく口出しをしたり、気に入らない。

◯ 本作で香港金像奨・助演男優賞にノミネートされた。
大学卒業後に自主映画の制作を始める他、俳優業も開始。本作出演後、「私のプリンスエドワード(2019)」「花椒の味(2019)」などに出演し、もうすぐ日本でも公開される素晴らしい良作「年少日記(2023)」で主演した。

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