金都 My Prince Edward: wikipedia
私のプリンス・エドワード - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ・動画配信 | Filmarks映画
【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
結婚について悩む女性の話としても良い映画。だが、それよりも"古き佳き香港"への強い違和感をはっきり宣言していて衝撃的な作品。


www.youtube.com 《#金都》MY PRINCE EDWARD 預告片 Trailer
www.youtube.com 映画『私のプリンス・エドワード』『縁路はるばる』予告編
【スタッフ & キャスト】
2019年 香港 93分
監督:黃綺琳(ノリス・ウォン)
出演:鄧麗欣(ステフィー・タン)、 朱栢康(ジュー・パクホン) 、金楷傑(ジン・カイジェ)、鮑起靜(パウ・ヘイジェン / パウ・ヘイチン)、林二汶(ラム・イー・マン)、袁綺雯(イェム・ユエン)
【あらすじ】
香港のプリンス・エドワード地区にある金都商場(ゴールデンプラザ)は、結婚式に必要なドレスや小物、結婚写真の撮影依頼などが格安で揃えられるショッピングモール。ウェディングショップで働く張莉芳(フォン)【鄧麗欣(ステフィー・タン)】は、ウェディングフォト専門店のオーナーである殷俊榮(エドワード)【 朱栢康(ジュー・パクホン)】と同棲中。
ある日、殷俊榮(エドワード)からプロポーズを受けた張莉芳(フォン)だったが、実は10年前に中国大陸の男性と偽装結婚しており、その婚姻がまだ継続中であることが発覚した。偽装結婚の離婚手続きと結婚式の準備を同時に進める過程で、自分の心への無理強いに気付く張莉芳(フォン)は…。
公式サイトより
【感想】
★★★★★ 星5
見ていて息が詰まるように違和感が積み上がっていくが、最後でささやかにスカッとさせてくれるのが気持ちいい。それと同時に香港人の中国への捉え方、昔ながらの香港の負の側面をあぶり出していて、むしろそちらのインパクトが大きかった映画だった。
主人公・張莉芳(フォン)が周囲の状況に追い詰められていくのが息苦しくなる。彼女はいわゆる香港人へのイメージより穏やかというか、引っ込み思案な性格に描かれているので日本人にはより共感しやすいキャラだ。だからこそというか、彼氏・殷俊榮(エドワード)やその母、勤務するブライダルウェア店のオーナーなんかの周囲の典型的な香港っぽい人々に押し切られていきながら、望まない状況へと追い込まれていく。
冒頭でひっくり返っていた亀を思わず買って帰るのも、今の状況を変えたくてもどうしていいか分からない自身を投影してしまったからだろうし、後半での亀の境遇も、自身も最後にはそうされるのだ、と重ね合わせてしまったのは想像しやすい。まさにあれがクライマックスでのトリガーになったのだろう。

興味深かったのは、彼女を追い詰める人々も決して異常では無いという点だ。結婚するとなれば香港だったらそうなるだろうなという事だったり、こういう母親とかもいそうだし、感情表現なんかも典型的な感じで、ただし全体的に昔ながらの香港スタイルだという以外、そこまでおかしな感じではない。だが彼女にとってはそのどれもが控えめな彼女のペースをぶち壊してくるものだし、タイトルでもあり舞台となる"金都"商場(ゴールデンプラザ)も、昔ながらの結婚式用品やサービスを今もなお売り続けている場所である。急に決まった結婚を前向きに捉えられない張莉芳(フォン)にはまったく居心地が良くない。林二汶(イーマン・ラム)演じる唯一仲の良い同僚がLGBTQの設定なのも、さり気なく皮肉が効いていて素敵だった。

そして偽装結婚の相手でもある、中国の描き方もまた鮮やかだ。夫となる殷俊榮(エドワード)は典型的な中国人嫌いな男で、彼女の状況など何も知らずに中国人への露骨な偏見を垂れ流す。5年前に公開された事や中国未公開作品なのを差し引いても、ウッと思わせられる。そして、それは以前よく聞いた話でもある。
そして、そこでの違和感は後半に行くに従ってより明確に描かれていき、これは彼女の意図的なものだと理解した。特にエンディングの、張莉芳(フォン)が去っていくシーンでの彼女と風景の明確な対比には思わず声が出るほど驚いたし、昔ながらの香港を愛する人々に突きつける、とても鮮やかなメッセージにすら見えた。
個人的にはこちらのメッセージの方が遥かに重く響いたし、"あの頃"の香港を懐かしがってばかりの映画や人々への、新世代映画側からのはっきりした宣言でもあるように見えた。その後の香港映画の展開を思えば、ああそうか、新世代映画は5年前から始まっていたのだ、とこの映画の強い思いに尊敬の念すら持つ事になった。
彼女の迷いから決意、それは映画の決意と相まって爽やかな後味を残して、とても気持ち良い。自ら決断した彼女はあれから5年、今はどうしているだろうか。そんな後日譚も見たくなる、"香港を描いた映画"であった。

【トピック】
◯ 2019年11月17日に香港アジア映画祭でワールドプレミア。翌2020年6月11日に香港で一般公開。公開初週は興収ランキング1位を獲得。その後は「2分の1の魔法(2020)」や「映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ(2019)」、「死因無可疑(2020)」などに順位を譲る形となった。
興行収入は526万香港ドル(1.05億円)。
◯ 日本では香港一般公開より前の2020年3月6日に大阪アジアン映画祭・コンペティション部門で公開。
その後新世代香港映画特集として、3年後の2023年5月19日より「縁路はるばる(2022)」との2本立て企画で一般公開された。
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◯ 本作は香港電影発展局によって定期的に行われる、首部劇情電影計画という新人監督発掘オーディションによって325万香港ドル(6500万円)の援助を受けて制作された。
同様の支援により制作された映画は「毒舌弁護人(2023)」、「四十四にして死屍死す(2023)」、「燈火(ネオン)は消えず(2022)」、「香港ファミリー(2022)」、「縁路はるばる(2022)」、「流水落花(2022)」、「逆流大叔(2018)」、「ランアウェイ 香港脱出(2017)」、「ミッドナイト・アフター(2014)」など。
◯ 監督の黃綺琳(ノリス・ウォン、画像左)は、本作で香港金像奨・新人監督賞を受賞した。
そもそもは曲の作詞家として2006年頃から現在も活動している。2011年頃から短編の制作も手がけ始め、監督した5作品は数多くの映画賞を受賞。Viu TVのドラマ「瑪嘉烈與大衛系列 綠豆(2016)」と続編的な「歎息橋(2019)」では脚本を担当している。
次作となる映画「作詞家志望(2023)」は今年3月に香港で公開された。
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鄧麗欣(ステフィー・タン)
◯ 張莉芳(フォン)。ウェディングショップで働き、店のオーナーであるエドワードと7年以上同棲中なのだが、10年前の偽装結婚が未だ有効なのが発覚する。
◯ 鄧麗欣(ステフィー・タン)はボーカルグループCookiesのメンバーとしてデビュー。2005年の解散後はソロ歌手として活動する一方、俳優業も本格化する。
主な出演作は「獨家試愛(Marriage With A Fool、2006)」、「十分愛(2007)」、「我的最愛(L for Love, L for Lies、2008)」、「紀念日(2015)」、「空手道(The Empty Hands 2017)」、「どこか霧の向こう(2018)」、そして本作と、年を経る毎にどんどん本格的な作品に出演する実力派になってきている。
だが本作の後、黃子華(ダヨ・ウォン / ウォン・ジーワー)主演の大ヒット作「6人の食卓(2022)」と続編「飯戲攻心2(2024)」で主演する事となり、遂に一流の女優の一人に数えられる存在となった。

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◯ 2人が同棲している部屋には「ミステリー・トレイン(1989)」や「ナイト・オン・ザ・プラネット(1991)」などの映画監督・ジム・ジャームッシュや、ミシェル・ゴンドリー監督「エターナル・サンシャイン(2004)」、ジャック・タチ監督「プレイタイム(1967)」などスタイリッシュな映画のポスターが貼られてある。
おそらく張莉芳(フォン)の趣味であろう。

朱栢康(ジュー・パクホン)
◯ ウェディングフォト専門店のオーナーである殷俊榮(エドワード)。同棲中の張莉芳(フォン)にプロポーズしたのだが…。
◯ 朱栢康(ジュー・パクホン)は本作で台湾金馬奨、香港金像奨でそれぞれ助演男優賞にノミネートされた。
兄である朱栢謙(ジュー・パクヒム)とのバンドでの音楽活動で知られるようになった。兄も「白日青春-生きてこそ-(2022)」、「正義迴廊(2022)」、「星くずの片隅で(2022)」などなど、出演作が増加中だ。
歌手・許廷鏗(アルフレッド・ホイ)の楽曲「演員的自我修養」での、全編ワンカットで撮影されたMVを見た本作の黃綺琳(ノリス・ウォン)監督が本作の主演に起用することになった。
本作出演以降、「香港の流れ者たち(2021)」、「星くずの片隅で(2022)」、「白日の下(2023)」、「離れていても(2023)」、「作詞家志望(2023)」、そして話題のアクション映画「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦(2024)」と、続々と話題作に出演を続けている。

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www.youtube.com 許廷鏗 Alfred Hui - 演員的自我修養 An Actor Prepares (Official Music Video)
金楷傑(ジン・カイジェ)
◯ 10年前に張莉芳(フォン)と偽装結婚した相手、楊樹偉。
◯ 1983年上海生まれ。本作以外は基本的に中国の作品に出演している。
主な出演作はドラマ「ダイヤモンドの恋人(2015)」、「楚喬伝(2017)」、武侠ドラマ「笑傲江湖 レジェンド・オブ・スウォーズマン(2018)」、「玫瑰行者 (2021) 」、古装劇「长风渡 (2023) 」、王一博(ワン・イーボー)主演「追风者 (2024) 」など。


鮑起靜(パウ・ヘイジェン / パウ・ヘイチン)
◯ 殷俊榮(エドワード)の母。
◯ 1960年代後半から数々のドラマに出演し、映画でも「白髮魔女傳(1980)」や金像奨主演女優賞獲得の「天水圍的日與夜(The Way We Are、2008)」、「キョンシー/リゴル・モルティス 死後硬直(2013)」、「修羅の剣士(2016)」、「一家の主(2022)」などに出演している。

許素瑩(ホイ・ソーイン)
◯ 張莉芳(フォン)の働くウェディングドレスショップのオーナー、怡母。
◯ 許素瑩(ホイ・ソーイン)は、香港金像奨作品賞受賞作「半邊人(1983)」で主演でデビュー。自身もこの作品で主演女優・新人賞にノミネートされた。だがその後はテレビ局香港電台に入社し、俳優ではなく裏方として業界に携わり続けていく。
劉德華(アンディ・ラウ)の「桃さんのしあわせ(2011)」で再び映画出演。「チャットガールズ ~微交少女~(2014)」に出演後は本作と、時々出演しているといった状況か。「正義迴廊(2022)」にも精神科医師役で出演している。
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林二汶(イーマン・ラム)
◯ 張莉芳(フォン)の友人で同僚、阿怡。
◯ 人気音楽デュオ"at17"の元メンバーである歌手。現在はソロで楽曲を発表する他、コンテスト番組の司会もしている。2022年には北京冬季オリンピックの主題歌にジャッキー・チェン、曾志偉(エリック・ツァン)、陳小春(ジョーダン・チャン)らと共に参加した。
映画出演は劉德華(アンディ・ラウ)の「桃さんのしあわせ(2011)」やピクサー映画「インサイド・ヘッド(2015)」の粵語声優など数本である。

www.youtube.com at17 - 女扮男生 (粤語版) with lyric
www.youtube.com 林二汶 Eman Lam - 最後的信仰
袁綺雯(イェム・ユエン)
◯ 張莉芳(フォン)の昔の友人、Mandy。
◯ 2000年代初頭から数々の映画・ドラマに出演している。主な作品は「インビジブル・ターゲット(2007)」、「レクイエム 最後の銃弾(2013)」、「インテグリティ/煙幕(2019)」、「ザ・フェイタル・レイド(2019)」、「狂舞派3(2021)」 、「マッド・フェイト(2023)」など。

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岑珈其(カーキ・サム/シャム)
◯ 殷俊榮(エドワード)の元でカメラ助手をしている強仔。
◯ 岑珈其(カーキ・サム/シャム)は俳優で歌手。子供の頃に見た劉德華(アンディ・ラウ)の「フル・スロットル/烈火戦車(1995)」を見て俳優になる事を決意。17歳で映画出演を果たし、その後も香港電台を中心に数多くのドラマに出演した。
香港野球チームを描いた「最初の半歩(2016)」や、陳詠燊(サニー・チャン)監督のヒット作「逆流大叔(2018)」、ViuTVのヒットドラマ「IT狗(2022)」に出演。日本では今作と同時公開の「縁路はるばる(2022)」で主演の他、「ママの出来事(2022)」や梁朝偉(トニー・レオン)&劉德華(アンディ・ラウ)主演の「ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件(2023)」と、多くの人気作に出演している。

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ロケ地
◯ 舞台となったのは九龍・旺角、地下鉄太子(Prince Edward)駅近くにある金都商場(Golden Plaza)だ。
◯ 筆者は映画鑑賞後の2024年6月に現地に立ち寄ってみた。公開から5年後の今もなお入口には映画のポスターが掲げられていて、嬉しくも感慨深い気持ちにさせられる。もちろん中は婚礼用品のショップが多数入っていた。
なお訪問時にはファンによるガールズグループ・COLLARのメンバー許軼(Day)の誕生日(センイル)広告が大きく掲示されていた。



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