香港映画レビュー&解説「無名指 My First of May (2025)」

無名指 (電影) - 維基百科,自由的百科全書

 

【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】

ホームドラマとして作られているが、三世代それぞれの障害や病とそこにまつわる心情が重なって、より重く、複雑なドラマになっていて泣ける。郭富城(アーロン・クォック)という意外なキャスティングがハマってるだけじゃなく、家族3人みんなの素晴らしい演技が見れる小品。

 

 

無名指


www.youtube.com 【《無名指》MY FIRST OF MAY - 正式預告 Trailer 🌟】

 

 

 

【スタッフ & キャスト】

2025年 香港 90分 IMDb評価:5.9/10
監督:孔令政(ジェームス・ハン)
出演:郭富城(アーロン・クォック)許恩怡(ナタリー・スー / シュー・エンイー)鮑起靜(パウ・ヘイチン)梁詠琪(ジジ・リョン)譚耀文(パトリック・タム)

 

 

 

 

【あらすじ】

元スカッシュチャンピオンの鄧叔彦【郭富城(アーロン・クォック)】は、今や落ちぶれた中年男。娘の鄧辞【許恩怡(ナタリー・スー / シュー・エンイー)】が首から下の身体がほとんど動かない筋ジストロフィーであるにも関わらず、ほとんど家に帰らず高齢のお婆ちゃん【鮑起靜(パウ・ヘイチン)】に世話を任せている。
だが、ある日お婆ちゃんが倒れて入院。突然娘の世話をする羽目になる。自分を捨てた母と父を憎んでいた娘・鄧辞は、父親に反発する。

 

 

 

【感想】

ホームドラマとして作られているが、三世代それぞれの障害や病とそこにまつわる心情が重なって、より重く、複雑なドラマになっていて泣ける。郭富城(アーロン・クォック)という意外なキャスティングがハマってるだけじゃなく、家族3人みんなの素晴らしい演技が見れる小品。

*主演・郭富城(アーロン・クォック)のキャスティング

この映画のポスターを初めて見た時は、郭富城(アーロン・クォック)の風貌にまず驚いた。スター俳優にふさわしい派手さはなく、むしろ哀愁が漂っている。実際に映画を見ても、いつもの彼とはまるで違う役柄で更に驚かされた。
昔は凄かったが、今は金もなく不精髭の汚らしい格好となった中年男。こんな中年男は世間では珍しくもないが、彼がやるからこそ面白くて、ニヤニヤしてしまう。彼を知っている人ほどあまりの落差に他の俳優以上の哀愁を感じてしまう、ナイスなキャスティングだ。
彼がこうした影のある庶民の役をやるのは、「父子(2006)」「ファストフード店の住人たち(2019)」くらいで少なく、本人も60歳を超え、これから本格的に老人として演じる時期に入ろうとする時期でもあり、演技の幅を広げようとしたチョイスなのかもしれない。

 

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*娘と祖母を演じた2人の演技

そして彼以上に演技力を実感したのは許恩怡(ナタリー・スー / シュー・エンイー)と鮑起靜(パウ・ヘイチン)の2人だ。娘・鄧辞を演じた許恩怡(ナタリー・スー / シュー・エンイー)は今までの「僕らが空を照らしたあの日(2021)」「ラスト・ソング・フォー・ユー(2024)」などで実力の高さは感じていたが、本作では筋ジストロフィーの障害者役を演っていて、特に前半での父親への不信感も露わに、顔だけで不機嫌さをにじませるのが、もう最高。
祖母役の鮑起靜(パウ・ヘイチン)も、時に大声で叱りつけ、時に息子に大泣きする振れ幅の広さが印象的だし、その裏に見える強い覚悟がとても愛おしくなる。ストーリーが進むほど彼女の存在が大きくなっていくのもいい。

 

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*ストーリーの深み

この作品はほぼこの3人がともに主役であり、ほとんど彼らだけで話が進んでいく。だからこそ、最初はいかにも香港映画的な騒々しいコメディに見えて、ストーリーは予想を超えた深みへと入っていく。彼らは裕福でもないし、3人それぞれに障害や怪我の後遺症などを抱えていて、将来への夢を持つこと自体が難しい立場だ。選べる人生の選択肢もあまり無い。そうした鬱屈とした状況だからこそ、まるで家族にバトンを渡すように"その場所で花を咲かせる"事に目を向けさせてくれる。

後半に向かうほどに涙が溢れる。なのにみんなが穏やかな雰囲気に変わっていき、ささやかなハッピーエンドへと向かっていく。映画的に大げさな着地にせず、誠実に向き合っていて、見終わって"ああ、良い映画だったな"と、そう感じられる作品だった。

 

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【トピック】

◯ 本作は2025年8月22日に香港で公開。公開初週の興収ランキングで「劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来(2025)」に次ぐ2位につけ、翌週もその座をキープした。興行収入は640万香港ドル(1.2億円)。

◯ 日本では現在のところ公開/配信の予定はない。

 

 

◯ 監督・脚本の孔令政(ジェームス・ハン)は、アメリカで映画制作について学び2008年の帰国後は無綫電視(TVB)に入社しドラマ制作に携わってきた。脚本も担当した初監督作「第七謊言(2014)」を鄭中基(ロナルド・チェン)主演で公開され、映画祭にも出品されるなど好評を博した。中国・爱奇艺で配信され胡子彤(トニー・ウー)も出演した映画「見怪(2023)」を経て、本作が長編監督3作目の作品となる。

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郭富城(アーロン・クォック)

◯ 鄧叔彥。元スカッシュ香港チャンピオンを3度も獲得した選手だったが、怪我をして引退。それ以来うだつの上がらない生活をしている。

◯ 1990年代から今もなお大人気で毎年数多くの出演作がある、現在の香港を代表する俳優であり、大人気歌手。膨大な出演作があるが、主なものは
杜琪峯(ジョニー・トー)監督「裸足のクンフー・ファイター(1993)」「柔道龍虎房(2004)」「リー・ロック伝/大いなる野望 PART II(1991)」「父子(2006)」「浮城(2012)」など。
最近では「コールド・ウォー 香港警察 二つの正義(2012)」と続編「コールド・ウォー 香港警察 堕ちた正義(2016)」「プロジェクト・グーテンベルク(2018)」、翁子光(フィリップ・ユン)監督の2作「九龍猟奇殺人事件(2015)」と梁朝偉(トニー・レオン)と共演した「風再起時(2022)」、そして最近作となる大ヒット作「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦(2024)」など数え切れない出演作がある。

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許恩怡(ナタリー・スー / シュー・エンイー)

◯ 鄧叔彥の娘・鄧辭。幼少から筋ジストロフィーで首から下の身体が動かないが、海外へ行きたいという夢がある。

◯ 母親は「チャウ・シンチー マイヒーロー(1990)」「超アブない激辛刑事 カリー&ペッパー(1990)」などに出演した、俳優で歌手の柏安妮(アン・ブリッジウォーター)

デビュー作は中国映画である「僕らが空を照らしたあの日(2021)」で、その後も中国からの移民を描く香港映画「離れていても(2023)」、中国作品「二手杰作(2023)」、林超賢(ダンテ・ラム)監督の香港映画「爆裂點(2023)」、そして放射能拡散事故の香港映画「カウントダウン(2024)」、鄭伊健(イーキン・チェン)主演「ラスト・ソング・フォー・ユー(2024)」と、中国・香港どちらの映画にも出演している。マレーシアの張吉安(チャン・ジーアン / チョン・キット・アン)監督作「幼な子のためのパヴァーヌ(2024)」にも廖子妤(フィッシュ・リュウ)と共に出演している。

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鮑起靜(パウ・ヘイチン)

◯ 鄧叔彥の母であり、鄧辭の祖母。ずっと鄧辭を介護してきた。
◯ 1960年代から多くの映画・ドラマに出演。許鞍華(アン・ホイ)監督「生きていく日々(天水圍的日與夜、2008)」で香港金像奨・主演女優賞受賞。「キョンシー/リゴル・モルティス 死後硬直(2013)」 「暴瘋語(2015)」でも香港金像奨・台湾金馬奨にノミネートされている。
最近では「私のプリンス・エドワード(2019)」「一家の主(2022)」「餃子クイーーン!(2025)」「風林火山(2025)」などなど、また最近出演が増加している印象の実力派俳優。

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梁詠琪(ジジ・リョン)

◯ 鄧叔彥の元妻。離婚して以来事業を興して成功している。

◯ 歌手としても特に2000年頃の多数のヒット曲で知られている。同時期にはファンケル香港のCMにも出演していた。
俳優としては劉徳華(アンディ・ラウ)主演「フル・スロットル/烈火戦車(1995)」で香港金像奨・新人賞を受賞。中国映画「再見 また逢う日まで(2001)」でも映画賞を受賞している。
その他、張艾嘉(シルビア・チャン)監督「君のいた永遠(とき)(1999)」や金城武との共演作「ターンレフト ターンライト(2002)」「アンディ・ラウの 麻雀大将(2002)」、香港マカオの中国への返還や台湾などを描いた「姉妹関係(2016)」、コロナ禍を描いた呂爵安(イーダン・ルイ)の映画デビュー作「闔家辣(2022)」、昨年の春節映画「臨時決鬥(2025)」などに出演している。

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譚耀文(パトリック・タム)

◯ 選手時代の鄧叔彥のパートナー・李劍笙。今はトレーナーとして教室を開いている。

◯ 多くの香港映画に出演している名脇役だが、歌手でもある。
俳優としては「BEAST COPS 野獣刑警(1998)」で香港金像奨で助演男優賞を受賞。膨大な出演歴があるが、最近では「イップ・マン 継承(2015)」、や「イップ・マン外伝 マスターZ(2018)」「L風暴(2018)」「P風暴(2019)」などの風暴シリーズや「逃獄兄弟(2020)」からの投獄兄弟シリーズ、「レイジング・ファイア(2021)」「風再起時(2022)」など、少々悪い匂いのする脇役としておなじみの存在だ。
今年は本作と主演作「拼命三郎(2025)」が公開された。

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范麒智(ケンジ・ファン)

◯ 鄧辭の勉強などをサポートするボランティア。

◯ 父親はサッカー香港代表選手で、自身も香港水球代表であった。2020年頃からモデルとして活動し、ドラマ「I SWIM(2022)」から俳優としても活動を開始する。映画は本作が「不是你不愛你(2024)」に次いで二作目の出演。「觸電(2025)」にもゲーム中のキャラ・UNO役で出演している。

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