ラスト・ソング・フォー・ユー - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ | Filmarks映画
【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
ノスタルジックな青春映画という作りだが、丁寧な心情の描写に日本ロケ、香港らしくない風景、中年男性が主人公という捻りもあって、最後まで楽しめるウェルメイドな映画だった。
www.youtube.com 《久別重逢》Last Song For You 正式預告|12.20 聖誕上映
【スタッフ & キャスト】
2024年 香港 110分
監督: 梁禮彥(ジル・リョン / レオン・ライイン)
出演: 鄭伊健(イーキン・チェン)、陳卓賢(イアン・チャン)、許恩怡(ナタリー・スー / シュー・エンイー)、蔡思韵(セシリア・チョイ)
【あらすじ】
昇華(センワー)【鄭伊健(イーキン・チェン)】は有名ミュージシャンだが、最近はヒット作を出せずにいる。体調を崩して入院した時に出会った元同級生【蔡思韵(セシリア・チョイ)】が亡くなったという。葬儀に参列した昇華(センワー)だが後日、その娘【許恩怡(ナタリー・スー / シュー・エンイー)】だという若い女性が訪ねてきた。彼に、日本での母親の散骨に来てほしいというのだ…
【感想】
ノスタルジックな青春映画という作りだが、丁寧な心情の描写に日本ロケ、香港らしくない風景、中年男性が主人公といった捻りもあって、最後まで楽しめるウェルメイドな映画だった。
中年男性が主人公という、一見すると青春映画のキラキラしたイメージからは心配になる設定だが、この主人公はそこら辺にいる普通のオッサンではなく、夢を叶えた才能溢れる(元)人気ミュージシャンだ。
その面から見てみると、これはクリエイティビティの才能が枯渇してしまったアーティストの物語でもあって、男女問わずこの種の仕事をしている人には身につまされる話でもある。まして今作が初監督、しかも金像奨に7部門もノミネートされる快挙という、まさにアーティストとして開花する入口にいる梁禮彥(ジル・リョン / レオン・ライイン)監督にとって、どんな思いでキャラクター設定していったのか、興味深いところだ。筆者もむしろ主人公の世代でもあり、彼の悩みに強く共感できる。
しかも演じたのは鄭伊健(イーキン・チェン)。あの渋い佇まいでミュージシャンのオーラを漂わせつつ、疲れた雰囲気もまたサマになっていて、キャスティングの絶妙さも素晴らしい。
俳優という意味でいえば、今作のMVPは間違いなく高校時代の文萱(マンフィン)を演じた許恩怡(ナタリー・スー / シュー・エンイー)だ。視点での主人公は確かにオジサン・昇華(センワー)ではあるが、彼女こそが実際の主人公であり、様々な立場から演じ分け、しかもその本心は決して口にはしない性格という複雑な役柄だ。香港映画「離れていても(2023)」や中国映画「僕らが空を照らしたあの日(2021)」だけでなくマレーシアの「幼な子のためのパヴァーヌ(2024)」にも出演しているし、年々出演作が増えている彼女なだけにさすがの技術力だ。
そして相手役のMIRRORのメンバー・陳卓賢(イアン・チャン)だ。高校生の感じは彼の佇まいにとんでもなくハマっているのだが、やはりギターがすごく上手くて、それが何よりもあの役にぴったりハマっていた。あれならデビューも当然、とストーリー上でも納得させられる。
日本では既に告知されていたように四国ロケで撮影されたという事だったので、楽しみにしていたが、やはり日本人の感覚とは少し違うチョイスが色々と面白い。特定できる有名な場所ではない、やや記号的な地方都市の雰囲気で、自転車に乗るところとか、たとえば福岡・柳川を舞台にした张律(チャン・リュル)監督「柳川(2021)」でも登場したが、ああいうのが彼らにとっての日本のイメージなのだろうか。
なんならそれ以上に素敵なのは、香港の風景だ。長洲島という、急坂がいっぱいの小さな島で、およそ香港らしくない、だがとても愛らしく、ノスタルジー溢れる風景が素晴らしい。
日本の四国と香港の長洲島、どちらもフィクションぽい、小説みたいな場所の設定になっている。高校時代の描き方も時代感をことさら強調していないし、全体的にも香港映画らしくない、台湾とか日本の映画を見ているような印象もあった。
そんな訳で、誰かと一緒に観れば青春映画の煌めきを楽しめるし、一人で見ても昇華(センワー)に共感もできるのだが、それよりもむしろ、多くは語られない文萱(マンフィン)の、彼女の人生を賭けた物語として受け止める映画かもしれない。
できるならもっと彼女の側からの物語も見てみたい、そうも思わせるような、いろんな立場、目線からも見れる深い余韻の映画だった。
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【トピック】
◯ 本作は2024年12月20日に香港で一般公開。公開初週の興収ランキングは大ヒット作「ラスト・ダンス(2024)」や「お父さん(2024)」、「プロセキューター(2024)」などに次ぐ6位に入り、翌週には4位に上昇した。興行収入は1080万香港ドル(2億円)。
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◯ 日本では2025年3月14日からの大阪アジアン映画祭で「ラスト・ソング・フォー・ユー」というタイトルで上映される予定。
◯ 本作は今年4月に発表の香港金像奨で主演女優賞、新人俳優賞、新人監督賞など7部門にノミネートされている。
◯ 2023年12月に道後温泉本館、大街道商店街(松山市)、高知駅南口、一條神社(四万十市)、久礼港(中土佐町)などでロケをした。
◯ 香港では長洲島という離島で撮影された。観光地でもあり、島内は基本的に自動車が走っていない。
◯ 今作が初監督作品となる梁禮彥(ジル・リョン / レオン・ライイン)は、脚本家として「ドラゴン×マッハ!(2015)」や続編の「SPL 狼たちの処刑台(2017)」、そして「イップ・マン 継承(2015)」をはじめとするイップ・マンシリーズなど、葉偉信(ウィルソン・イップ)監督作品の脚本を担当。俳優としても「大丈夫(2003)」や「ファイアー・レスキュー(2013)」などに出演歴もある。
画像は尖沙咀のMCL The ONEにて筆者が鑑賞した際、サプライズで登壇された監督。事前にアナウンスは無かった筈だが、この日は数多くの陳卓賢(イアン・チャン)ファン、MIRRORファンと思しき観客でほぼ満席であった。鑑賞後ご挨拶しようと列に並ぶと、映像制作の学生だという少年たちも並んでいた。
鄭伊健(イーキン・チェン)
◯ 蘇昇華(センワー)。大ヒットミュージシャンだったが、最近はヒット曲も出せずにいる。
◯ 1967年生まれの歌手・俳優。80年代後半に芸能界入りし、CMから「笑看風雲(1994)」などのドラマ出演を開始、同時に歌でもヒット曲を連発して人気を獲得した。
俳優としては大人気となった「欲望の街・古惑仔 I(1995)」や「新・欲望の街 I(1996)」の映画・古惑仔シリーズや大ヒット主演作「風雲 ストームライダーズ(1998)」、「レジェンド・オブ・ヒーロー 中華英雄(1999)」、仲村トオル・阿部寛なども出演の「東京攻略(2000)」、「冷戦(2001)」などで知られている。
1990年代には香港四天王に次ぐ5番目の歌手として、許志安(アンディ・ホイ)や李克勤(ハッケン・リー)らと共に選ばれたり、「四小天王」として古天楽(ルイス・クー)や陳冠希(エディソン・チャン)、謝霆鋒(ニコラス・ツェー)と共に選ばれていた。
陳卓賢(イアン・チャン)
◯ 蘇昇華(センワー)(高校時代)
◯ 大人気グループMIRRORのメンバー。特に歌唱力に定評があり、本作主題歌も歌っている通りソロ曲も多数リリース、ソロとして海外ツアーも行えるほど成功している。メンバー入り前はバレーボール香港代表選手であり、メンバーを選抜するオーディション番組「全民造星」に参加するのを機に引退した。
映画出演はMIRRORメンバー全員が出演した「12怪盜(2024)」に次ぎ、本作が二作目となる。
許恩怡(ナタリー・スー / シュー・エンイー)
◯ 夏文萱(マンフィン)(高校時代)
◯ 母親は「チャウ・シンチー マイヒーロー(1990)」や「超アブない激辛刑事 カリー&ペッパー(1990)」などに出演した、俳優で歌手の柏安妮(アン・ブリッジウォーター)。
デビュー作は中国映画である「僕らが空を照らしたあの日(2021)」で、その後も中国からの移民を描く香港映画「離れていても(2023)」、中国作品である「二手杰作(2023)」、林超贤(ダンテ・ラム)監督の香港映画「爆裂點(2023)」、そして放射能拡散事故を描いた香港映画「カウントダウン(2024)」と、中国・香港どちらの映画にも出演している。
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蔡思韵(セシリア・チョイ)
◯ 夏文萱(マンフィン)
◯ モデル・俳優で、台湾に留学し2016年に大学を卒業する前から、モデルとしても活動を開始した。同時にドラマにも出演開始。翌年からは「返校 言葉が消えた日(2019)」をはじめとする台湾映画にも数作出演した。
香港映画には「香港の流れ者たち(2021)」、「燈火(ネオン)は消えず/消えゆく燈火(2022)」、「全世界どこでも電話(2023)」、「スタントマン 武替道(2024)」、そして郭富城(アーロン・クォック)演じる陳占の妻役として「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦(2024)」や、ひさびさの台湾映画「逆強盗(2024)」などに出演している。
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