香港映画レビュー&解説「離れていても 但願人長久 Fly Me to the Moon」

但願人長久 (電影) - 維基百科,自由的百科全書

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【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】

端正に作られた、香港への移民の年代記。監督の自伝的ストーリーだが、香港に限らず多くの移民の過去を持つ人々が共感できそう。

 

 

離れていても 但願人長久


www.youtube.com 【《但願人長久》FLY ME TO THE MOON 🌖】香港版 正式預告 4月11日 望缺月重圓


www.youtube.com 香港映画祭2024 Making Waves『離れていても』但願人長久 FLY ME TO THE MOON

 

 

【スタッフ & キャスト】

2023年 香港 113分
監督:祝紫嫣(サーシャ・チョク/ジョク)
出演:祝紫嫣(サーシャ・チョク/ジョク)、謝咏欣(ヨーヨー・ツェー)吳慷仁(ウー・カンレン)袁澧林(アンジェラ・ユン)許恩怡(ナタリー・スー / シュー・エンイー)

 

 

【あらすじ】

1997年、大陸から移民として林子圆【祝紫嫣(サーシャ・チョク/ジョク)、謝咏欣(ヨーヨー・ツェー)】とその家族は香港へとやって来た。父も母も必死に働くのだがうまくいかない。貧しい生活ながら、2007年、2017年と林子圆・妹の林子缺【袁澧林(アンジェラ・ユン)、許恩怡(ナタリー・スー / シュー・エンイー)】は香港で大人へ成長していく。

 

 

 

【感想】

端正に作られた、香港への移民の年代記。監督の自伝的ストーリーだが、香港に限らず多くの移民の過去を持つ人々が共感できそう。

言わずと知れた移民の都市である香港。ほとんどが中国からの移民なのにも関わらず、彼らの歴史はあまり映画になっていなかったような気がする。陳可辛(ピーター・チャン)監督の「ラブソング(1996)」などは、まさに彼らを描いた名作だが、例えば「私のプリンス・エドワード(2019)」とか「白日青春 生きてこそ(2022)」とかでも描かれるものの、この映画ほど真正面ではなかった。

 

離れていても 但願人長久

 

本作は主人公が中国からやって来るところからはじまり、少年時代を経てアイデンティティを確立した大人になるまでの、1997、2007、2017年の3つの時代を描いている。香港に馴染めない幼少期、周囲が受け入れてくれない事に直面する思春期、そして(移民のせいかどうか)荒れた父親と家族の関係に翻弄される半生を過ごす。

とはいえ、映画はそうした物語をことさらドラマチックに描いている訳ではない。かといって場面場面で波立つ感情に、主人公自身も迷っているのが伝わってきて、いつも心休まる暇もない激動の半生だった事に切なくなる。だが、主人公・林子圆と妹・林子缺はそうした苦難とか悲劇性みたいな事に立ち止まっていないし、迷いながらも生きる道を探していく姿が等身大だし、重苦しくなく伝わってくる。

移民ではない筆者にはわかっていないだろうが、「移民」という要素はあくまでも自分のアイデンティティの一部でしかないのだろう。切り離せないとはいえ、それで全体を表したことには全くならない。そして、時間が経つほど自身の受け止め方も移り変わっていくだろうし、にも関わらず何年経っても外側から勝手に移民というレッテルで判断されてしまう事の方が、より強いのではないか。たぶん日本での移民の人々も、他の国の様々な「移民」の人々もそれは概ね同じだろう。映画を見ながら幾度かそうした事を考えていた。

 

離れていても 但願人長久

 

俳優陣について見ると、まずは父親を演じた吳慷仁(ウー・カンレン)が印象的だ。普段の印象からは劇的に変貌していて驚く。特に後半での弱々しい老人の演技ではもう死の気配が漂ってくるほどで、この人こそ運命に翻弄されたもう一人の主人公である事を強く印象づけられた。

映画としての語り口はあくまで自然だし、エッセイに近い感覚もある。特に2017年での現代香港とそこに馴染む姉妹の姿は、「移民」という筆者にとって"強い"言葉からは少し距離感のある佇まいで、新鮮な印象も受けた。観客に深く突きつけてくるというより彼女の物語を横で聞かせてもらってるような、そんな余韻の映画であった。

 

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離れていても 但願人長久

 

 

 

【トピック】

◯ 2023年10月23日に東京国際映画祭でワールドプレミア。その後、香港アジア映画祭での上映を経て、2024年4月11日に香港・マカオで一般公開された。
公開初週の興収ランキングは「青春18×2 君へと続く道(2024)」を抑えて7位。翌週には4位に上昇した。興行収入は430万香港ドル(8700万円)。

2023.tiff-jp.net

 

◯ 本作は台湾金馬奨で新人賞をはじめ3部門受賞、香港金像奨では1部門受賞、3部門にノミネートされた。

 

 

◯ 原題の「但願人長久」は中国・北宋の政治家・文豪、蘇軾(そしょく)による代表的な詞「水調歌頭」の一節である。中秋節を歌っていて、遠く離れた人の長命を祈っている。
また、これは鄧麗君(テレサ・テン)の、台湾では代表曲と数えられる1983年発表の同名曲のタイトルでもある。この曲の歌詞も「水調歌頭」をそのまま歌っている。さらに1995年には王菲(フェイ・ウォン)がこの曲をカバー。中華圏ではどれも広く知られている。


www.youtube.com 但願人長久 - 鄧麗君【高音質|動態歌詞】


www.youtube.com 王菲 - 但願人長久 (官方版MV)

 

◯ 陳妍希(ミシェル・チェン)が鄧麗君(テレサ・テン)を演じた本作と同名のドラマも2018年に中国・台湾合作で制作された。2023年8月に配信サイトで放映予定だったが一度延期の上で2024年6月に放映された。

但願人長久 (電視劇) - 维基百科,自由的百科全书

 

 

◯ プロデューサーは關錦鵬(スタンリー・クワン)
「ルージュ(1987)」で香港金像奨・作品賞、「ランユー(2001)」で台湾金馬奨・監督賞を受賞した名匠。その他「ロアン・リンユイ/阮玲玉(1991)」「フルムーン・イン・ニューヨーク(1989)」などで知られている。
プロデュース作は「So Young~過ぎ去りし青春に捧ぐ~(2013)」「シチリアの恋(2016)」「南極の恋(2018)」などの中国映画が多い。

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◯ 本作は香港電影発展局によって定期的に行われる、首部劇情電影計画という新人監督発掘オーディションによって500万香港ドル(1億100万円)の援助を受けて制作された。
同様の支援により制作された映画は「毒舌弁護人(2023)」「四十四にして死屍死す(2023)」「燈火(ネオン)は消えず(2022)」「香港ファミリー(2022)」「縁路はるばる(2022)」「流水落花(2022)」「逆流大叔(2018)」「ランアウェイ 香港脱出(2017)」「ミッドナイト・アフター(2014)」などがある。

 

 

◯ 妹・林子缺の2017年の場面では、日本人画家・奈良美智の絵画などと共に、馬屎埔村の反対運動に参加している事が描写されている。これは、新界エリアにあった農村の開発反対運動の事で、高速鉄道工事のために香港政府と開発業者・恒基兆業による強制退去を余儀なくされた住民たちによる、2009年から2016年に渡って繰り広げられた激しい抵抗運動である。

www.inmediahk.net

 

 

 

祝紫嫣(サーシャ・チョク/ジョク)

◯ 監督であり、主人公・林子圆(2017年)も演じた祝紫嫣(サーシャ・チョク/ジョク)は、1991年に湖南省に生まれ、6歳の頃に香港へと家族とともに移住した。2014年頃から映像制作を開始。2017年には短編小説集も発表している。
台湾でも活動する俳優・松㟢翔平が出演した監督・主演の短編「凪(2022)」が大阪アジアン映画祭で上映。本作が初の長編監督作となる。

但願人長久

但願人長久

 

 


謝咏欣(ヨーヨー・ツェー)

◯ 主人公・林子圆の高校時代(2007年)。

◯ 本作で台湾金馬奨、香港金像奨で新人賞をそれぞれ受賞した。
本作の祝紫嫣(サーシャ・チョク/ジョク)監督による短編「林同学退学了(2019)」に出演していた。本作が長編デビュー作となる。

但願人長久

 

 

 

吳慷仁(ウー・カンレン)

◯ 林子圆の父親・林觉民。

◯ 台湾の俳優・モデル。2007年、CM出演を契機に芸能界入り。人気ドラマ「秋のコンチェルト(2009)」に出演し、その後も「悪との距離(2019)」「華燈初上 -夜を生きる女たち-(2021)」「模仿犯(2023)」など多くの人気台湾ドラマに出演。

映画でも「コード CODE 悪魔の契約(2016)」「狂徒(2018)」「High Flash~引火点(2018)」などに主演のほか、金馬奨受賞作「つかみ損ねた恋に(2021)」に主演。そしてNetflixで公開され来年1月にロードショー公開となるマレーシア/台湾合作映画「Brother ブラザー 富都(プドゥ)のふたり/アバンとアディ(2023)」で、台湾金馬奨・主演男優賞を受賞した。

Brotheブラザー 富都(プドゥ)のふたり | 富都青年 Abang Adik | reallylikefilms

但願人長久

 

 

 

袁澧林(アンジェラ・ユン)

◯ 妹・林子缺(2017年)。

◯ 1993年生のモデル、俳優。
アーティストMVでは銀杏BOYZの2017年の3枚のシングル「エンジェルベイビー」「骨」「恋は永遠」、そしてアルバム「ねえみんな大好きだよ(2020)」のジャケット、Vaundy「Tokimeki(2023)」などに出演。

映画の主な出演作は、呂爵安(イーダン・ルイ)の映画デビュー作「闔家辣(2022)」と2作目「香港ファミリー(2022)」、そして良作「星くずの片隅で(2022)」など、今や人気俳優としても確固たる地位を築いた。

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許恩怡(ナタリー・スー / シュー・エンイー)

◯ 妹・林子缺(2007)。

◯ 母親は「チャウ・シンチー マイヒーロー(1990)」「超アブない激辛刑事 カリー&ペッパー(1990)」などに出演した、俳優で歌手の柏安妮(アン・ブリッジウォーター)

デビュー作は中国映画である「僕らが空を照らしたあの日(2021)」で、その後も香港映画の本作、中国作品である「二手杰作(2023)」、林超贤(ダンテ・ラム)監督の香港映画「爆裂點(2023)」、そして放射能拡散事故を描いた香港映画「焚城(2024)」、もうすぐ公開の高知県でロケをした香港映画「久別重逢(2024)」と、中国・香港どちらの映画にも出演している。

但願人長久

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黃梓豪

◯ 主人公・林子圆の初恋の人、Sky。

黃梓豪は、俳優ではなくサッカー選手だ。2000年生まれで15歳で傑志体育会(キッチーFC)ユースに所属。U18/U23の香港代表にも選出。2024年は元朗足球會に所属していたが契約は終了したようだ。
一方でMIRRORやERRORらをデビューさせた大人気オーディション番組「全民造星 シーズン2(2019)」にも参加し、トップ40に選ばれた。2021年には岑珈其(カーキ・サム/シャム)や林家熙(ロッカー・ラム)もメンバーの有名ユーチューブ・グループ試當真Trial & Errorの短編に出演。
今作が映画デビュー作となる。

離れていても 但願人長久

 

 

 

 

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