中国映画レビュー&解説「静寂の轟き 震耳欲聋 Sound of Silence (2025)」

震耳欲聋: 豆瓣

静寂の轟き - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ・動画配信 | Filmarks映画

Sound of Silence(2025年にワン・リーが監督した犯罪映画)_百度百科

 

【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】

聴覚障害者=聾(ろう)者と手話をきちんとストーリーに落とし込みながら、シンプルに楽しめる高品質の社会派エンタメ。最近増えているこのジャンルの中でも入口になる事を意識したような間口の広さ。

 

静寂の轟き


www.youtube.com Sound of Silence Official Trailer

 

 

 

【スタッフ & キャスト】

2025年 中国 125分 豆瓣評価:7.4/10
監督:万力(ワン・リ)
出演:檀健次(タン・ジェンツー)兰西雅(ラン・シーヤー)王戈(ワン・ゴー)潘斌龙(パン・ビンロン)王砚辉(ワン・イェンホイ)周政杰(ジョウ・ジェンジエ)

 

 

 

【あらすじ】

聴覚障害者の家庭に生まれて手話ができる弁護士・李淇は、生まれ育った貧しい地域を担当している事で、金にならない仕事ばかり。ある日、先輩弁護士からの依頼で聴覚障害者の兄弟の事件を担当する。だが、実は彼らが住む地域では密かに大規模な詐欺事件が広まっている事に気づくのであった。

 

 

 

【感想】

聴覚障害者=聾(ろう)者と手話をきちんとストーリーに落とし込みながら、シンプルに楽しめる高品質の社会派エンタメ。最近増えているこのジャンルの中でも入口になる事を意識したような間口の広さ。

すっきりと見終われるハッピーエンド、そこにうっすらと聾者の方々への共感が残る。じわじわと効いてくる良作だ。
両親が聾者である聴者の子供をCoda(コーダ)と言うが、映画「コーダ あいのうた(2021)」が公開されてからまだ数年だが、本作ではもう常識のように扱われていて、意識の変化を実感する。
主演した檀健次(タン・ジェンツー)はやはり撮影前に入念に特訓して臨んだそうで、すごく自然な手話に見える。そして被害者である聾者の妹を演じた兰西雅(ラン・シーヤー)は、前作「向阳・花 (2025、日本未公開)」でも同じく聾者、それも貧しさゆえに金を騙しとる元受刑者役という、限りなく同じ役柄で、もう堂に入った存在感が素晴らしかった。

 

静寂の轟き

*実在のモデルから作られたストーリー

ストーリーはかなりわかりやすく出来ていて、サスペンス要素よりも主人公の成長物語といった性格が強い。というのも、この映画にはモデルとなる実際の人物がいる。まさにCodaとして育ち、実際に弁護士として同じような聾者が被害にあう事件に立ち向かってきたという方で、後半の裁判シーンなどは脚色のようだが、似たような詐欺事件は発生しているという。「西湖畔に生きる(2023)」でも似たような事件が登場していたが、障害者を狙うという卑劣さ、悪質さに怒りが湧く。日本でもそのうちこんな事件が起こるのだろうか。

この事件は、主人公が生まれ育った都市部の下町的な、いわゆる「城中村」が舞台だ。城中村は中国の都市ならどこでもあり、映画でも「シャドウプレイ(2019)」「抓娃娃(じゅあわわ) 後継者養成計画(2024)」のようにたびたび登場する。古く込み入っているが家賃が安く、低所得者が多く住むエリアに、聾者たちが集中して住まざるをえない現実も、日本以上に厳しい障害者たちの環境が見え隠れする。

 

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*最近増えてきた手話が登場する中華映画

ここ最近、中華映画では立て続けに聾者や手話が登場する作品の公開が相次いでいて、ちょっと驚くほどだ。日本公開作だけでも张艺兴(レイ / チャン・イーシン)が主演した「愛がきこえる(2025)」、もうすぐ公開の香港映画の傑作「私たちの話し方(2024)」、マレーシア映画で吳慷仁(ウー・カンレン)による「Brother ブラザー 富都(プドゥ)のふたり / アバンとアディ(2023)」など、どれもここ数年のものだ。しかもどれもが聾者の文化を伝えるように努力した事を謳っていて、少なくとも筆者には違和感は感じない。手話や聾者文化の描写クオリティは以前より上がっているのか、当事者がどう感じるのか聞いてみたいところだ。

面白いシーンに、話をしながら手話で別の内容を伝えていたり、発話では無理な遠い距離や静かな場所での手話の会話など、手話の方がむしろ良い点が描かれているのはとても好感が持てた。それなら自分も手話をやってみたいと思わせてくれる。
本作は明確に間口の広い作品を目指して作られていて、多くの人が気軽に楽しめるように作られている。成長ドラマとして楽しめる社会派映画だ。

 

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【トピック】

◯ 本作は国慶節休暇に合わせて2025年10月4日に中国で公開。公開初週の興収ランキングで「志愿军:浴血和平(2025)」などに次ぐ5位に入り、3週間5位をキープした。
興行収入は2.57億元(59億円)。

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◯ 日本では2026年2月16日からNetflixで配信が開始されている。

www.netflix.com

 

 

◯ 監督の万力(ワン・リ)は、声優でもあってアニメ映画「中国奇譚(2023)」などに出演している。李九霄(リー・ジューシャオ)や蒋龙(ジャン・ロン)が出演したドラマ「消失的大象 (2024) 」を監督し、本作が長編映画初監督の作品となる。

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◯ プロデューサーは饶晓志(ラオ・シャオジー)
当初、演劇の監督として受賞歴もあるほど活躍していたが、2016年に万茜(ワン・チェン)主演で初監督・脚本の映画「你好,疯子!」を発表し好評を得る。続く第2作目の「无名之辈 (2018) 」は大ヒット。そこから、劉徳華(アンディ・ラウ)、肖央(シャオ・ヤン)W主演で「鍵泥棒のメソッド(2012)」をリメイクした「人潮汹涌(2021)」、オムニバス映画「你是我的春天 (2022) 」、アフリカでの内戦を描いた大作「万里归途(2022)」を監督。
昨年は「无名之辈」の続編「無名の輩~バンコク大脱走編~(2025)」という監督作品、本作に加えて肖央(シャオ・ヤン)主演の精神疾患とリハビリ施設を描いた秀作「阳光照耀青春里(2025)」という、2つのプロデュース作品が公開された。

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檀健次(タン・ジェンツー)

◯ 主人公・李淇。両親が聾者で自身が聴者というCODAで、貧困の中で弁護士となった。

◯ 2010年にダンス&ボーカルグループ「MIC男团」のメンバーとしてデビュー。デビュー前に大阪アジアン映画祭でも上映された「秘岸(2008)」に出演している。グループの活動をしながら時代劇「三国志〜司馬懿 軍師連盟〜(2017)」「三国志 Secret of Three Kingdoms(2018)」、大ヒットドラマ「君、花海棠の紅にあらず(2020)」、ペットとの関係を描いた映画「モフれる愛(2019)」などに出演の後、ヒットサスペンスドラマ「猟罪図鑑(2022)」に主演してブレイクする。
その後、こちらも大ヒットの「長相思(2023)」、周也(ジョウ・イエ)と共演の現代ドラマ「很想很想你 (2023) 」、映画「被我弄丢的你 (2024)」などなど、さらに人気作への出演が増加している。
幼少期に日本に住んでいた事があり、本名である健次も漫画「北斗の拳」の主人公:ケンシロウ(中国版:健次郎)から取って改名したというエピソードがある。

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兰西雅(ラン・シーヤー)

◯ 张小蕊。聾者。自身の学費のために兄が詐欺被害に巻き込まれる。

◯ 1998年生まれ。武漢大学の演劇科に在学中にオーディション番組「明日之子水晶时代(2019)」に出場して知られるようになったが、一旦卒業まで大学での学業を優先した。卒業後、コロナ禍を描いたドラマ「在一起 (2020) 」に出演。以来、古装ドラマ「长月烬明 (2023) 」やNetflix版「三体(2024)」や伝説的女性教師を描いた「山花烂漫时 (2024) 」、大ヒット歴史ドラマ「追风者 (2024) 」、手話を使う役を演じた「向阳・花 (2025)」などに出演している。

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王戈(ワン・ゴー)

◯ 李淇の事務所で働きながら司法試験を目指している汤宇轩(画像左)。

◯ 1989年生まれで、2010年に舞台劇でデビューし、「余罪(2016)」「漂洋过海来看你 (2017) 」などのヒットドラマに出演した事で知られるようになる。その後、「カイジ 動物世界(2018)」「銀河学習塾(2019)」「人潮汹涌(2021)」「クラウディ・マウンテン(2021)」「フラッシュオーバー 炎の消防隊(2023)」など、映画を中心に多くの作品に出演しているが、特に名作「星明かりを見上げれば(2022)」での、朱一龍(チュー・イーロン)の仲間役がとても印象的な俳優だ。

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潘斌龙(パン・ビンロン)

◯ 地域で商店を営んでいる马自强。李淇が小さい頃から良くしてくれていた。

◯ 中国漫才である相声の有名芸人。名脇役として映画出演も数多く、张艺谋(チャン・イーモウ)監督作品には「満江紅/マンジャンホン(2023)」「第二十条(2024)」、そして最新作「驚蟄無声 スケア・アウト(2026)」の3作、大鹏(ダーポン)監督とはデビュー作「煎饼侠(2015)」「いいひと 保你平安(2023)」に出演。そして韩三平(ハン・サンピン)プロデュース作では「无名之辈(2018)」「无价之宝(2023)」に出演している。
2024年には「野孩子(2024)」で印象的な悪役を演じ、昨年は1970~90年代の香港を描いた劉偉強(アンドリュー・ラウ)監督の良作「餃子クイーーン!(2025)」に出演した。

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王砚辉(ワン・イェンホイ)

◯ 啓航金融のトップ・金松峰。聾者のための金融商品を販売している。

◯ 王砚辉(ワン・イェンホイ)は1969年昆明生まれ。日本では「薬の神じゃない!(2018)」への出演がわかりやすいが、2006年の曹保平(ツァオ・バオピン)監督作「光荣的愤怒(2006)」で知られるようになり、以来「李米的猜想 (2008) 」「烈日灼心(2015)」「追凶者也 (2016) 」と監督の作品では常連となっている。
その他、映画「无名之辈 (2018) 」「ビッグ・ショット(2019)」、ドラマ「リトルハピネス~小歡喜 (2019) 」、陈凯歌(チェン・カイコー)監督による朝鮮戦争を描いた大作「志願軍~存亡をかけた戦い~(2024)」などに出演。

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周政杰(ジョウ・ジェンジエ)

◯ 张小蕊の兄、张小晨。妹が助けるために相手を刺したとして逮捕された。

◯ 2000年生まれ。2019年の新人芸能人のスポーツバラエティ番組「超新星全运会」第2シーズンからデビュー。翌年映画「风平浪静 (2020) 」に出演、ドラマ「不就是拔河么 (2023) 」や東野圭吾の小説「さまよう刃」が原作の「彷徨之刃 (2024) 」、ヒットドラマ「边水往事 (2024) 」、刑事ドラマ「我是刑警 (2024) 」などに出演している。
昨年にはハードボイルドなノワール映画の良作「ロングショット(2024)」にも出演、中国金鶏奨・助演男優賞にノミネートされた。以来、ジャッキー・チェン主演の大ヒット作「シャドウズ・エッジ(2025)」に出演、本作と同時期に公開となった戦争映画「志愿军:浴血和平(2025)」にも出演する人気俳優となりつつある。

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モデルとなった人物、実在の事件

◯ 本作にはモデルとなった実在する人物がいる。张琪という弁護士で、劇中にもカメオ出演している(画像左)。主人公・李淇と同じように両親が聾者のCODAで、数多くの聾者が関わる事件を弁護してきた。

また、描かれている詐欺事件は张琪弁護士が経験したものをベースに、実際に起こった幾つかの事件を参考に描かれた。

 

◯ 舞台となった城中村とは、急速な都市化の過程で、周囲が市街地化(高層ビルなど)されたにもかかわらず、農地や村落(住宅)がそのまま取り残された「都市の中の村」のことだ。多くが北京、天津、重慶、武漢、広州、深圳のような大都市にあり、再開発された高層ビルに囲まれていて、密集した狭い住宅、低い空地率、狭い道路の昔ながらの環境が残っている。
そこだけ土地は農村集団所有のままのケースが多く、政府の行政管理が完全に行き届いていない。

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