【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
浮浪者として生きる17歳と8歳の子供2人の実話の物語。想像を絶する酷い環境なのに、それすら食い物しようとする大人。トップアイドル王俊凯 (ワン・ジュンカイ)のキャラクターが活かされた"兄"の優しさが印象的。

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【スタッフ & キャスト】
2024年 中国 127分
監督: 殷若昕(イン・ルオシン)
出演: 王俊凯 (ワン・ジュンカイ)、关子勰(グァン・ズーシエ)、邓家佳(ダン・ジャージャー)、陈永胜(チェン・ヨンシェン)、潘斌龙(パン・ビンロン)、迟兴楷(チー・シンカイ)
【あらすじ】
家出をし、盗みをしながら放浪生活を送っていた马亮【王俊凯 (ワン・ジュンカイ)】は、ある日年端もいかない孤児・轩轩【关子勰(グァン・ズーシエ)】に出会う。一人で生きてきた马亮だったが、頼るものもなく付いてくる轩轩と一緒に生活を始めるのであった。だが、金もなく住む場所もない2人は、お互いに身を寄せ合って放浪を続けるのだった。だが、そんな彼らにすら付け入ろうとする者がいた…
【感想】
浮浪者として生きる17歳と8歳の子供2人の実話の物語。想像を絶する酷い環境なのに、それすら食い物にしようとする大人。トップアイドル王俊凯 (ワン・ジュンカイ)のキャラクターが活かされた"兄"の優しさが印象的。
衝撃的だ。この子供たちの置かれた環境の劣悪さが予想以上で、本当に見ていて辛くなる。日本ではまずあり得ない(と信じたい)し、最近の中国でもさすがにこんな事は信じられないと思うほどの過酷な状況にいる。兄はひとつの場所に定住せず、行き先もないまま移動を繰り返し、家もなく盗みをして腹を満たす生活。もはや死語の「浮浪者」といっていい。社会とまったく繋がっておらず、何のセーフティネットにも引っ掛かっていない。
そこにわずか8歳で家を追い出され、孤児となってしまった少年が出会う。共に行き場のない2人は義理とはいえ"兄弟"となり、弟を養いながら彷徨う浮浪者となっていくのだ。
見ているのも辛くなる虐待シーンなどもあるので、見る前に注意が必要だ。

ここ最近の中国映画は、それまでの経済成長を謳歌していた風潮から一転して、社会から見落とされてきた人々を描いた作品の公開が増えている印象で、本記事の一つ前に見た「朝雲暮雨(ちょううんぼう、2024)」や、「刺猬(2024)」、「家出の決意(2024)」のように、本作もそうした社会が置き忘れてきた人々の存在を告発する。最近の邦画で言えば「あんのこと(2023)」とかを思い起こすし、作風の面からなら昭和30年代の日本映画、たとえば吉永小百合の「キューポラのある街(1962)」とか今村昌平監督の「にあんちゃん(1959)」みたいなストレートな作風になっている。
それと同時に子供たちゆえの連帯、そして優しさも大事に描いてあって、それが映画の中での救いになっている。2人以外にも孤児のような子達が登場し、悲惨な環境であるにも関わらず、まるで遊びのシーンに思える時もあって、それがまた観ている者の心を乱す。その内の一人・大毛役の陈永胜(チェン・ヨンシェン)は、同じく孤児にまつわる実話の映画化作品「ネバーギブアップ(2023)」でも同じく孤児を演じていた。

特に王俊凯 (ワン・ジュンカイ)演じる"兄"の優しさはとりわけ印象的で、どんな時もひたすら"弟"を大切に守っていこうとする。極限の状況でも冷静に考え判断できる。そうした彼の行動を見れば見るほど「ああ、家族の所には絶対に帰るつもりは無いんだな」と思わされる。彼は実の家族にどれほどの傷を負わされたというのか。
彼の出演作「刺猬(2024)」でも感じた穏やかな、だが強い意思を感じる存在感が見事に"兄"にマッチしている。
もう一人の素晴らしい演技が、搾取する大人を演じる潘斌龙(パン・ビンロン)だ。穏やかで優しそうな顔をして飢えた子らに食事を用意してやり、血も涙もなく冷酷に逃げられなくする。底意地の悪そうな笑いが最高に胸糞悪くしてくれる。
まるで20世紀のまま時間が止まったような中国。それが美しい街ばかりとなった今も残っている、その事実に打ちのめされる、そんな映画であった。
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【トピック】
◯ 当初2024年7月10日から中国で公開の予定だったが、数日前に制作上の問題を理由に公開延期を発表。9月13日から一般公開を開始した。公開初週より2週連続で興収ランキングで1位を獲得した。2位には中国/香港合作の張家輝(ニック・チョン)主演作「重生」。
興行収入は2.41億元(49.3億円)。
◯ 女性監督の殷若昕(イン・ルオシン)は、初監督作品の「再见,少年 White Sun (2020)」は、2018年に監督自身が書いた脚本が上海国際映画祭などのコンテストで高評価を得た上で制作された。そして、再び张子枫(チャン・ズーフォン)を主演に据えた監督第2作目の素晴らしい映画「シスター 夏のわかれ道(2021)」が高い評価を受ける。
本作が3作目の監督作品となる。

王俊凯 (ワン・ジュンカイ)
◯ 马亮。様々な家庭を転々とさせられ、家出少年として放浪の生活を送っていた。
◯ 中国アイドルの草分けであり、易烊千璽(イー・ヤンチェンシー/ ジャクソン・イー)もメンバーの伝説的グループTFBOYSのリーダー。1999年生まれで未だ25歳という若さだが、2010年デビューなので既に芸歴15年を超える。
ソロとして、俳優としての出演は映画「ナミヤ雑貨店の奇蹟-再生-(2017)」が初となり、ディザスター映画「断·桥 (2022) 」、ドラマ「重生之门 (2022) 」、海外でのテロを描いた映画「万里归途(2022)」などがある。
なお2024年は本作以外にも、ビッグバジェット作にも関わらず驚異的な低評価を記録したSF映画「エリア749 (2024) 」、そして吃音を持つ役で主演した小説原作の映画化作品「刺猬(2024)」と、3作もの主演作が立て続けに公開された。そして2025年には春節公開の林超賢(ダンテ・ラム)監督作「蛟龙行动 (2025) 」に出演した。

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关子勰(グァン・ズーシエ)
◯ 轩轩。両親は失踪、祖父には育児放棄された中、马亮と出会い、彼について行く事にする。
◯ 今作がデビュー作となる。今年は张婧仪(チャン・ジンイー)主演の映画「独一无二 (2025) 」にも出演している。

邓家佳(ダン・ジャージャー)
◯ 婦人警官の周佼。我が子と一緒に遊ぶ子供・轩轩の異常に気づき、轩轩を保護する。
◯ 女優・苏梦蝶を演じたのは邓家佳(ダン・ジャージャー)。本作で中国華鼎奨 最優秀主演女優賞を獲得している。ドラマ「爱情公寓」シーズン2(2010)以降の出演で知られるようになり、郭富城(アーロン・クォック)主演のサスペンスドラマ「全民目击(2013)」で中国百花奨 最優秀助演女優賞を受賞した。犯罪ドラマ「バーニング・アイス -無証之罪-(2017)」にも主演。東野圭吾「回廊亭の殺人」が原作のドラマにも主演や、尹正(イン・ジョン)主演のミステリー映画「扬名立万(2021)」などに出演している。
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陈永胜(チェン・ヨンシェン)
◯ 马亮と同じように文叔に指示されて窃盗などをしていた少年・大毛。
◯ 1998年生まれ。张子枫主演の良作「シスター 夏のわかれ道(2021)」や、张艺谋(チャン・イーモウ)監督作「崖上のスパイ(2021)」にも出演した後、同監督の次作であり冬山での狙撃戦を描いた良作「狙击手(2022)」では、新人兵士役の初主演に抜擢された。王宝强(ワン・バオチャン)の監督第2作の良作「ネバーキブアップ(2023)」や、映画「我本是高山(2023)」に出演し、今年は大ヒットドラマ「棋士(2025)」に出演している。

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潘斌龙(パン・ビンロン)
◯ 文叔。身寄りのない若者たちを使って犯罪をさせていた。
◯ 中国漫才である相声の有名芸人。映画出演も数多く、大鹏(ダーポン)監督とはデビュー作「煎饼侠(2015)」と「いいひと 保你平安(2023)」に出演。韩三平(ハン・サンピン)プロデュース作では「无名之辈(2018)」と「无价之宝(2023)」。
そして张艺谋(チャン・イーモウ)監督作品には「満江紅/マンジャンホン(2023)」と「第二十条(2024)」の2作に出演している。
今年の春節に公開された1970~90年代の香港を描いた劉偉強(アンドリュー・ラウ)監督の良作「水饺皇后(2025)」にも出演した。

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迟兴楷(チー・シンカイ)
◯ 大毛らと同じように文叔に指示されて窃盗などをしていた少年・老鼠。
◯ 2008年生まれの俳優。古装ドラマ「度華年(2024)」でデビュー。本作の後、東京国際映画祭で上映された俳優・董子健(ドン・ズージェン)初監督映画「わが友アンドレ(2024)」に出演した。

実話の事件
◯ 本作は2019年に発覚した実際の事件を元にして制作された。
2017年に摘発した、峡西省渭南市での連続窃盗事件の容疑者は21歳と8歳の少年で、劇中での描写と同様に育児放棄の状況から家出をし、互いを兄弟と呼んで野宿をしながら一緒に生活をしていた。また「兄」は窃盗によって得た金のほとんどを「弟」のために使っていた。
21歳の「兄」は懲役4年6ヶ月の判決を受け、2022年に出所した。
本件を扱った報道の映像では、本人たちへの取材もある。
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