香港映画レビュー&解説「私たちの話し方 看我今天怎麼說 The Way We Talk」

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【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】

聾者(ろうしゃ)かどうかに関係なく、様々な人の豊かな人生があるというシンプルな事実を驚くべき演出で素晴らしく自然に見せる。普遍的だが新しい、凄い映画。

 

 

看我今天怎麼說


www.youtube.com 《看我今天怎麼說》終極預告片 2月20日 心花綻放

 

 

 

【スタッフ & キャスト】

2024年 香港 132分
監督:黃修平(アダム・ウォン)
出演:游學修(ネオ・ヤウ)鍾雪瑩(ジョン・シュッイン)、吳祉昊(マルコ・ン)

 

 

【あらすじ】

アラン【吳祉昊(マルコ・ン)】と素恩(ソフィー)【鍾雪瑩(ジョン・シュッイン)】は人工内耳の良さを伝えるアンバサダーの活動をしていて、社会からの評価も高い。一方でダイビングのインストラクターを目指す友人の子信(ウルフ)【游學修(ネオ・ヤウ)】は、手話だけで不自由さも感じていないし、誇りにすら思っている。3人が知り合い友人になっていく中、三者三様の状況が彼らの差異をより浮き彫りにしていく。

 

 

 

【感想】

聾者(ろうしゃ)かどうかに関係なく、様々な人の豊かな人生があるというシンプルな事実を驚くべき演出で素晴らしく自然に見せる。普遍的だが新しい、凄い映画だった。

主な登場人物である3人はみんな聾者。3人の若者で、しかし聾者といっても三者三様のグラデーションがある。この細やかさがまず凄い。
人工内耳を装着し、聞こえるし話せる者とそうでない者。手話ができる者とできない者。手話をするなと教育されて止めた者と止めなかった者。聾者の中にもグラデーションや分断があるという当たり前の事実を見せつけられ、驚く。

そういう違いは、やはり聾者の社会の物語でなければ描けない。彼らが社会に出ても多くは結局のところ聾者の社会が限界になっていて、登場する聴者(ちょうしゃ)であったり筆者みたいな理解の浅い人間はどうやっても外部の人間であり、この映画は多くの人には「見えていない世界」の物語なのだ。

 

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その「見えていない世界」を実感させる驚異の仕掛けが音響だ。様々なシーンで聾者の世界を、音で再現してくれる。それもただ無音になるのではない。
3人のうち2人は人工内耳をつけていて会話を聞き取れる。だが、そこには聴者との決定的な違いがあり、みんなと同じようで全く違う世界にいる、その実態を音響で体感させてくれるのだ。この歴然とした違いはもう、絶対に雑音のない映画館で見なければ体感できないし、その体験があるからこそ、鍾雪瑩(ジョン・シュッイン)演じる素恩(ソフィー)の手話への向き合い方にも肌身に沁みて共感できるのだ。

 

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ただこの映画は、一方で青春映画として作られていて、そこがすごくいい。彼らが日々感じる事には上記のような能書きなんか関係ない。そして若い彼らがあんな風に笑ったりもがいたりガムシャラになってる姿が、眩くキラキラしてて、当たり前のようにこの世界にも最高な時間がある事に深く共感できる。
3人の生い立ちからテンポよく描かれ、それぞれのキャラクターが深く作り込まれている素晴らしい脚本なので、彼らが今も香港のどこかに実在してそうに思えるし、後半ではもう、ただ彼らをいつまでも見続けていたいと思ってしまう。

 

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台湾金馬奨で主演女優賞を獲得した鍾雪瑩(ジョン・シュッイン)だが、演技でなにより驚くのは、発話している時の言葉が、こっちも最高だった映画「作詞家志望(2024)」などの他の映画とはまるで違っていて、そのリアルさに圧倒される。すさまじい技術だ。

そして個人的には、子信(ウルフ)を演じた游學修(ネオ・ヤウ)が、より一層印象に残った。ややアルコ&ピース平子氏に似ている彼の、圧倒的に自然でエモーショナルに使われる手話は、もう、佇まいや表情など全てが自然で、聾者にしか見えない。初めて見た俳優だがすごい才能だ。

主演の3人は劇中でみんな手話を使う。聴者の俳優が2人、聾者は吳祉昊(マルコ・ン)1人という形で、手話での演技をしているが、実はAlan役の吳祉昊(マルコ・ン)は普段、劇中で使われた「自然手語」とは違う広東語文法に即した「文法手語」を使っているそうだ。つまり、3人全員が普段使っていない言語で演技をしているという、驚異的な環境で撮影されている事になる。

 

主人公が手話を使う映画といえば、つい最近も「Brother ブラザー 富都(プドゥ)のふたり / アバンとアディ(2023)」があったが、それとも全く違う意味でいい映画だ。とにかく、いろんな角度からこの映画の凄さ、良さを挙げる事ができる、本当に素晴らしい映画になっている。

 

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感じたままに書き連ねたが、筆者は聴者であり、もちろん聾者の方々の感じ方がわからない。是非とも聾者の方々の感想を聞いてみたい。もし彼らにとっても好評なのであれば、こんなに嬉しい事は無いし、そのまま筆者の今年ベスト候補に確定だ。そう言えるほど、本当に素晴らしい映画だった。興味を持った方はチャンスがあれば絶対に映画館で見た方がいい。

 

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◯ 堅尼地城にある高先電影院で鑑賞。黄竹坑の英皇戲院 (THE SOUTHSIDE)でもこうした大型バナーが掲示されていた。



 

【トピック】

◯ 本作は2024年10月12日にロンドン映画祭でワールドプレミア。2025年2月20日から香港で一般公開が開始された。公開初週の興収ランキングは大ヒット中国アニメ「哪吒2之魔童闹海 (2025) 」、マーベル「キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド(2024)」に次ぐ3位を獲得。翌週には2位に上昇した。

 

◯ 日本では2025年3月14日からの大阪アジアン映画祭で上映予定。

oaff.jp

 

 

◯ 監督の黃修平(アダム・ウォン、画像左)は、1975年生まれ。思春期に宮崎駿の影響を受け映像制作を志す。「魔術男(2008)」で香港金像奨・新人監督賞ノミネート。ストリートダンスを描いた「The Way We Dance -狂舞派-(2013)」で香港金像奨・新人監督賞を受賞。游學修(ネオ・ヤウ)も出演した「私たちが飛べる日(2015)」を経て、「狂舞派3(2021)」では台湾金馬奨で6部門ノミネートとなった。

hongkonglei.com

 

 

◯ ロケ地として、灣仔の德如茶餐廳、深水埗の強記大排檔などが登場する。

◯ 本作の制作会社は俳優・古天樂(ルイス・クー)が所有する天下一電影だ。

◯ 手話について、今作ではいわゆる手話指導とは別に手話監督と手話助監督を任命し、撮影の1年前から聴者の俳優へのトレーニングも含めて、台本をはじめとした制作に関わったという。

www.hk01.com

 

 

 

游學修(ネオ・ヤウ)

◯ 葉子信(ウルフ)。吳昊倫(Alan)の幼馴染の聾者。

◯ 本作で台湾金馬奨・主演男優賞にノミネートされた。1年間手話について学んでから撮影に入ったという。
1990年生まれ。元々は現ERRORのメンバーで俳優としても売れっ子になった阿Deeこと何啟華(ホ・カイ・ワ)と共に、雨傘革命(2014)と関連した劉德華(アンディ・ラウ)のパロディ曲「日日去鳩嗚 落場版」をバズらせたユニット・學舌鳥 Mocking Jerのメンバーであった。

同時に、この年にはもう本作の黃修平(アダム・ウォン)が監督した映画「私たちが飛べる日(2015)」に出演し、映画デビューする。
その後も映画「十年(2015)」などのドラマ・映画に出演を重ね、ViuTVで監督主演ドラマ「仇老爺爺(2019)」を制作するなど順風満帆であったが、コロナ禍によって休業状態に陥りYoutube配信を開始。岑珈其(カーキ・サム/シャム)や林家熙(ロッカー・ラム)もメンバーの有名YouTubeグループ試當真Trial & Errorの番組に参加したり、彼らの映画「公開試當真(2024)」のプロデュース、「作詞家志望(2023)」にも出演した試當真のメンバー潘宗孝(ERN9、アーネスト・プン)とユニットを組んだりと、人気を博している。
俳優・古天樂(ルイス・クー)がオーナーのマネージメント会社・天高娛樂に所属。

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鍾雪瑩(ジョン・シュッイン)

◯ 方素恩(ソフィー)。人工内耳のアンバサダーを務めている。ある程度聞き話すことができるが、両親の方針により手話はできない。

◯ 本作で台湾金馬奨・主演女優賞を受賞。撮影前から手話を学んでおり、当初監督は手話通訳として彼女に手伝いをお願いしていたという。
「黄昏をぶっ殺せ(2022)」では香港金像奨・助演女優賞、新人賞にノミネート、さらに「作詞家志望(2024)」で香港金像奨・主演女優賞にノミネート、そして本作と一気に映画賞常連俳優の一員となった状況だ。
その他、「アニタ 梅艷芳(2021)」「ゼロからのヒーロー(2021)」「正義迴廊(2022)」、昨年は主演作「作詞家志望(2024)」とヒット作「ラスト・ダンス(2024)」などにも出演している。

◯ また填詞人(作詞家)でもあり、「作詞家志望(2024)」で共演した鄧麗英(エミー・タン、タン・ライイン)や陳毅燊(アンソン・チャン Ansonbean)だけでなく歌神・陳奕迅(イーソン・チャン)、MIRROR・柳應廷(ジェール・ラウ)らの楽曲も手掛けている。

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吳祉昊(マルコ・ン)

◯ 吳昊倫(Alan)。素恩(ソフィー)と同様に人工内耳のアンバサダーを務めている。同じく聞いて話すことができるが、手話もできる。子信(ウルフ)の幼馴染。

◯ 聾者であり、本作が長編映画デビューとなる。本作撮影後の2023年に聾者のコンテスト「Miss and Mister Deaf World」で優勝した。
本作の制作にも様々なアドバイスを行った。また、普段は広東語の文法に対応する手話「文法手語」を使っており、劇中でAlanの設定に合わせて「自然手語」を使うのに苦労したとの事である。つまり、主人公は3人共ネイティブの言語で演技をしていない事になる。(日本でも同じように「日本語対応手話」「日本手話」の2種類がある)

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