【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
実写映画なのにアニメ的モチーフが大量にぶちこまれた映像が最高に個性的で面白い。ジャンプ的で中二的、かつノスタルジックでハードボイルドな監督のテイスト全開で、张若昀(チャン・ルオユン)主演なのが意味不明なほどの見たことない新しさを持つ映画。

www.youtube.com Evacuate from the 21st Century (2024) 从21世纪安全撤离 - Movie Trailer - Far East Films
【スタッフ & キャスト】
2024年 中国 98分
監督: 李阳(リー・ヤン)
出演: 张若昀(チャン・ルオユン)、钟楚曦(チョン・チューシー)、宋洋(ソン・ヤン)、吴晓亮(ウー・シャオリャン)、朱颜曼滋(シュ・ヤンマンツー)、李晨浩(レオン・リー)
【あらすじ】
地球によく似た惑星Kで暮らす3人の少年は、ある日虹色の海に飛び込んで取り込んだ物質によって、クシャミをすると1999年から20年未来へとタイムスリップできるという特殊能力を持つ事になった。何も考えずに日々を過ごしてきた三人組の少年は、突然世界を滅ぼそうとする組織と立ち向かう。果たして彼らは惑星Kを救うことができるのか。
【感想】
実写映画なのにアニメ的モチーフが大量にぶちこまれた映像が最高に個性的で面白い。ジャンプ的で中二的、かつノスタルジックでハードボイルドな監督のテイスト全開で、张若昀(チャン・ルオユン)主演なのが意味不明なほどの見たことない新しさを持つ映画。
何も知らずにこの映画を見たら、ちょっと意味がわからない、そんな気持ちになるだろう。筆者も見終わって「なんか凄いもん見たな…」という気持ちになった。確かに見る人を選ぶ作品なのは間違いない。
ストーリーは何も言ってない、というか妄想を詰め込んだだけのような、衝動だけで書かれたような物語だ。ただしとんでもなく勢いがあって、むしろ勢いしかないみたいな作りで、未来と過去の20年間を行ったり来たり、細かい辻褄とか全部すっ飛ばして進んでいく。しかし、エンディングできっちりまとまるので、98分の簡潔な作りもあって一気に見れる。

とにかく監督の妄想を具現化したような映像がブッ飛んでて最高だ。突然画面いっぱいに文字が出たり、クルマは手書きの火を吹きながら走りだし、ケンカのシーンはストップモーションになりながらありえない動きをする。アメコミと日本の手書きアニメを実写の映像にそのままぶち込んだような、写真にサインペンで直接落書きしたようでもある、見たことない映像が炸裂する。こういう感じに極度に加工された映像の感じは、「トロン(1982)」とか「マトリックス(1999)」とかも思い起こすが、こんなに大真面目にふざけた、むしろ90年代サブカルみたいなノリ、ちょっと似てる作品が思いつかないくらい個性的だし、すごい新鮮だ。
この監督、李阳(リー・ヤン)は本作が商業映画の第一作なのだが、実は15年前に作られたデビュー作である短編アニメ「李献计历险记 (李献計歷險記、2009) 」と次作の実写短編「坏未来 (2013) 」が大変高評価を得ていて、それ故の张若昀(チャン・ルオユン)や钟楚曦(チョン・チューシー)、宋洋(ソン・ヤン)らやたら豪華なキャストに繋がっているようなのだ。この「李献计历险记」、20分と短く下記の動画サイトでも見れるのだが、確かにこれはより一層面白かった。本作にそのまんま繋がるテイストながら、全編アニメーション。しかし「アキラ AKIRA(1988)」とか「カウボーイビバップ(1998)」的なハードボイルドな孤独感と、ファミコン全盛時代へのノスタルジー、そして2009年という制作時期を思わせるビンラディンとか、あの頃のアメリカ文化の大量のサンプリング。この世代のオタク達が持っていた価値観をそのまんま詰め込んで作り上げたDTM=Desk Top MusicならぬDesk Top Movieになっていた。

「坏未来 (2013) 」は36分の実写短編だが、既に本作と同じような内容で、アニメ的な手書きエフェクトなどのテイストも手法も既にここに登場している。本作は「坏未来 (2013) 」をビッグバジェットでより豪華に、政府や歴史を茶化したような内容を検閲にも対応するようなアドベンチャーに置き換えた、より万人に受け入れやすく仕上げたものと言ってもいい。著作権を無視した90年代ヒップホップ的な大量のサンプリングも控えられている。そもそもは2020年に撮影されたものの公開が延期されていたようだが、それにしても今も人気の俳優達がこんなに参加してて、そんな彼らが、もちろん劇中では大真面目に演技をしているのだが、こんなジョークみたいなクレイジーな映画に出てるミスマッチも面白い。
そう、たぶん監督はこの映画をジョークで作った訳ではないのだ。監督と同じ今30~40代の男達が少年の頃、大人になりかけの頃に感じていた感覚を今もまだ持っていて、それを極めて高い純度で表現できる人なのだろう。見終わって漂う強いノスタルジーが、もうあの頃には戻れない事を強く示しているし、むしろ監督の冷静な眼差しすら感じさせる。
個人的にはすごく新鮮だったし、その一点だけでも強く応援したくなる才能だが、公開が5年も遅れたせいでちょっと旬を過ぎた印象はあるし、アナーキーさや毒っ気が抜かれたせいで過去作のような光り輝く才能はすこし鈍ったようにも感じてしまう。作り方や制作陣のサポートのバランス次第では「スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団(2010)」とか、「宇宙探索編集部(2021)」みたいなもっと間口の広い映画を作れそうにも感じる。ただとにかく、この才能は本当にすごいし、それをもっと活かした映画がこれからも見たいと思わせる、すごい監督の作品だった。
中国映画レビュー&解説「宇宙探索編集部 宇宙探索编辑部 Journey to the West」 - daily diary

【トピック】
◯ 本作は2024年8月2日から中国で一般公開。公開初週は「抓娃娃(じゅあわわ) 後継者養成計画(2024)」や「デッドプール&ウルヴァリン(2024)」、「デクリプト(2024)」、「黙する者が生きし場所(2024)」に次ぐ興収ランキングで5位に入った。興行収入は1.12億元(23億円)。
中国映画レビュー&解説「抓娃娃(じゅあわわ) 後継者養成計画 抓娃娃 Successor」- daily diary - daily diary
中国映画レビュー&解説「デクリプト 解密 Decoded」 - daily diary
中国映画レビュー&解説「黙する者が生きし場所 / 黙殺~沈黙が始まったあの日~ 默杀 A Place Called Silence」 - daily diary
◯ 監督の李阳(リー・ヤン、画像中)は本作が長編デビュー作となる。
2年かけて自身で制作した短編アニメ「李献计历险记 (2009) 」でデビューし、この作品が高い評価を得て、「流転の地球(流浪地球)」シリーズの郭帆(グオ・ファン)監督と共同で、房祖名(ジェイシー・チャン)主演で実写映画化される。段博文(ダン・ボーウェン)主演の短編「坏未来 (2013) 」も高く評価された。
画像での監督の左側に立つのは郭帆(グオ・ファン)監督、右側は「宇宙探索編集部(2021)」の孔大山(コン・ダーシャン)監督。

中国映画レビュー&解説「流転の地球 流浪地球 The Wandering Earth」 - daily diary
中国映画レビュー&解説「流転の地球 -太陽系脱出計画- 流浪地球2 The Wandering Earth 2 流転の地球2」 - daily diary
中国映画レビュー&解説「宇宙探索編集部 宇宙探索编辑部 Journey to the West」 - daily diary
◯ 李阳(リー・ヤン)監督のデビュー作である20分の短編アニメ「李献计历险记(2009)」はYoutubeで見ることができる。
www.youtube.com 李献计历险记
张若昀(チャン・ルオユン)
◯ 3人組のひとり、王炸。刘连枝に調査報道の手伝いをさせられる。
◯ 「慶余年(2019)」と「慶余年2(2024)」、「ダイイング・アンサー(2016)」、「雪中悍刀行(2021)」、「甘くないボクらの日常~警察栄誉~(2022)」、「天地に問う(2023)」と多くの大ヒットドラマに主演する大人気俳優。
映画出演は「1921(2021)」などで、本作の後、今年の夏休み映画として公開された時代劇コメディ「長安の荔枝(ライチ)(2025)」に出演した。


中国映画レビュー&解説「1921」 - daily diary
中国映画レビュー&解説「長安の荔枝(ライチ)长安的荔枝 The Lychee Road」 - daily diary
宋洋(ソン・ヤン)
◯ 3人組のひとり、王诚勇。
◯ ピーター・ホー、エディ・ポンらが主演の歴史ドラマ「楊家将伝記 兄弟たちの乱世(2006)」で知られるようになり、「ソード・アイデンティティー(2011)」や「ソード・アーチャー 瞬殺の射法(2012)」、「ファイナル・マスター(2015)」などの武侠アクション映画への出演などで知られる。
忻钰坤(シン・ユークン)監督のノワール映画「無言の激昂(2017)」や「热搜(2023)」、「ジョンQ(2002)」のリメイク「误杀2(2021)」、ヴェネツィア国際映画祭出品作「不止不休(2020)」などにも出演している。


中国映画レビュー&解説「無言の激昂 暴裂无声 Wrath of Silence」 - daily diary
中国映画レビュー&解説「误杀2 Fireflies in the Sun」 - daily diary
中国映画レビュー&解説「不止不休 The Best is Yet to Come」 - daily diary
李晨浩(レオン・リー)
◯ 泡泡。少年の時は太っていたが、筋トレに目覚めて見違えるようになった。杨艺の恋人でもある。
◯ 1988年生まれ。重慶生まれだがデビューはマレーシアのアイドルドラマ「天幕迷情 (2011) 」からであった。そこから香港のオキサイド・パン監督との繋がりを得て「コンスピレーター 謀略 極限探偵A+(2013)」や「インフェルノ 大火災脱出(2013)」、周文武贝(ヴィンセント・チョウ)監督の米中合作航空パニック映画「モンスター・フライト(2014)」、ジャッキー・チェン主演作のリメイクとなる米ドラマ「ラッシュアワー(2016)」の出演へと繋がっていく。
中国でも映画「タイム・レイダーズ(2016)」や中国軍パイロットの「スカイハンター空天猎(2017)」、ドラマでは「青雲志(2016)」などに出演している。


钟楚曦(チョン・チューシー)
◯ 20年後の世界でジャーナリストをしている刘连枝。八極拳の使い手でもある。
◯ 冯小刚(フォン・シャオガン)監督の映画「芳華-Youth-(2017)」で知られるようになる。
他にも「脱单告急(2018)」や「モフれる愛(2019)」、ジャッキー・チェンの「ナイト・オブ・シャドー 魔法拳(2019)」、今作同様に黄景瑜(ホアン・ジンユー)と共演となる「ワイルドグラス(2020)」、中国共産党の誕生を描いたオールスター映画「1921(2021)」などに出演。昨年は国連平和維持活動の隊員を演じた映画「FPU~若き勇者たち~(2024)」やドラマ「灿烂的风和海 (2024) 」に出演しているほか、フェミニズム映画として高い評価を受けた映画「好東⻄ -Her Story-(はおどんしー、2024)」 で主演している。


「芳華-Youth-」レビュー(中国/台湾映画5本レビュー) - daily diary
中国映画レビュー「脱单告急 Dude's Manual」 - daily diary
中国映画レビュー&解説「1921」 - daily diary
中国映画レビュー&解説「FPU~若き勇者たち~ 维和防暴队 Formed Police Unit」 - daily diary
中国映画レビュー&解説「好東⻄ -Her Story- (はおどんしー) 好东西 Her Story」 - daily diary
朱颜曼滋(シュ・ヤンマンツー)
◯ 少年時代に3人組のアイドル的存在だった杨艺。
◯ 名前からもわかるように、古力娜扎(グーリーナーザー)などと近い内モンゴル自治区出身のモンゴル族俳優。青春ドラマ「小情书(2017)」の主演で知られるようになる(ちなみに主題歌は日本人の中孝介である)。フー・ボー監督の映画「象は静かに座っている(2018)」や主演ドラマ「暗恋橘生淮南(2019)」、「私のバビロンの恋人(2021)」などがある。大ヒットSF映画「流転の地球 -太陽系脱出計画-(2023)」では国連中国代表の一員として出演している。
中国映画レビュー&解説「流転の地球 -太陽系脱出計画- 流浪地球2 The Wandering Earth 2 流転の地球2」 - daily diary


吴晓亮(ウー・シャオリャン)
◯ 延生薬業の一員で、秘密を暴こうとする刘连枝を狙う・韩光。彼自身もある秘密を抱えている。
◯ 内モンゴル自治区出身。映画「修羅:黒衣の反逆(2017)」に出演し知られるようになる。その後ドラマ「長安二十四時(2019)」、「潜行者 (2023) 」や、映画「流転の地球(2019)」、「送你一朵小红花(2020)」などに出演。映画「日光之下(2019)」で多くの映画賞を受賞している。
五百(ウーバイ)監督のノワールドラマ「扫黑风暴 (2021) 」とその映画版である「扫黑·决不放弃(2024)」、そして次作の「浴火之路(2024)」と数多く出演している。

中国映画レビュー&解説「流転の地球 流浪地球 The Wandering Earth」 - daily diary
中国映画レビュー&解説「送你一朵小红花 A Little Red Flower」 - daily diary
中国映画レビュー&解説「扫黑·决不放弃(掃黒·決不放棄)Walk The Line」 - daily diary
中国映画レビュー&解説「浴火之路 Tiger Wolf Rabbit」 - daily diary
温峥嵘(ウェン・ジェンロン)
◯ 延生薬業のボス。世界を滅ぼそうとするボス。
◯ 温峥嵘(ウェン・ジェンロン)は1978年生まれ。1998年にデビューし、邓超(ダン・チャオ)のデビュー作でもある農村が舞台のドラマ「黄沙下面是沃土 (2001) 」や「错爱一生 (2005) 」などで知られるようになる。その高い演技力に定評があり、歴史劇などにも出演。最近は「玉楼春(2021)」や「雲之羽(2023)」、「夜明けの恋人たち(2023)」、「恋狐妖伝(2024)」、「顔心記(2024)」、「永夜星河(2024)」などなど、数多くのドラマに出演している人気俳優だ。

少年時代の登場人物たち
◯ 少年時代の王炸を演じたのは陈一辰(チェン・イーチェン)。
2020年のボーイズグループオーディション番組「少年之名」に出場して芸能界入り。上位には入らなかったが、俳優として活動開始。映画「梦想之门 (2021) 」や「绝色逃生 (2021) 」、方逸伦(ファン・イールン / アレン・ファン)主演の古装劇ドラマ「一念開花(2023)」などに出演している。

◯ 少年時代の王诚勇を演じたのは李卓钊(リー・ジュオジャオ)。
2004年生まれ。9歳でデビューし、林志玲(リン・チーリン)が主演の映画「北京纽约 (2015) 」、大ヒットSF映画「流転の地球(流浪地球、2019)」、「始皇帝 天下統一(2020)」、そして今年公開の「東極島(2025)」などに出演。
马凡丁(マー・ファンディン)も出演のドラマ「A LIFELONG JOURNEY ー人世間(2022)」にも出演している。
中国映画レビュー&解説「流転の地球 流浪地球 The Wandering Earth」 - daily diary

◯ 少年時代の泡泡を演じたのは康启轩(カン・チースァン)。
黒龍江省出身で、今までのところ大ヒットしたコメディ映画「抓娃娃(じゅあわわ) 後継者養成計画(2024)」や青春ドラマ「曾少年之小时候 (2023) 」などに出演。
中国映画レビュー&解説「抓娃娃(じゅあわわ) 後継者養成計画 抓娃娃 Successor」- daily diary - daily diary

◯ 少女時代の杨艺を演じたのは马凡丁(マー・ファンディン)。
2001年生まれで本作がデビュー作となる。既にドラマ「A LIFELONG JOURNEY ー人世間(2022)」や本作主演の张若昀(チャン・ルオユン)が主演している「甘くないボクらの日常~警察栄誉~(2022)」、「愛なんて、ただそれだけのこと(2023)」などの出演作も放映されている。
