中国映画レビュー&解説「チャオ・イェンの思い 乔妍的心事 The Unseen Sister」

乔妍的心事 (豆瓣)

チャオ・イェンの思い - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ | Filmarks映画

 

【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】

有名女優をめぐるサスペンス、またはミャンマー華人を描いた映画として、とてもスリリングで楽しめる作品だった。
実態が見えないまま、信用ならない人々に囲まれ、身を縮こませる状況が寒々とした北京の風景とも重なり、痺れるような緊張感が続く。

 

 

チャオ・イェンの思い 乔妍的心事


www.youtube.com Trailer【乔妍的心事 | The Unseen Sister】定档预告

 

 

 

【スタッフ & キャスト】

2024年 中国 112分
監督: 赵德胤(ミディ・ジー)
出演: 赵丽颖(チャオ・リーイン)辛芷蕾(シン・ジーレイ)黄觉(ホアン・ジュエ)董宝石(ドン・バオシ)安沺(ヴィヴィアン・ティエン)小爱(シャオアイ)

 

 

 

【あらすじ】

中国西南部の国境の町で生まれ、努力の末にスター女優となった乔妍(チャオ・イェン)【赵丽颖(チャオ・リーイン)】は、表面的な華やかさとは裏腹に、他人には言えないプレッシャーを感じていた。そんな乔妍(チャオ・イェン)のもとに匿名の脅迫状が届く。時を同じくして長年連絡が途絶えていた姉【辛芷蕾(シン・ジーレイ)】が突然訪ねてくる。この再会をきっかけに、乔妍(チャオ・イェン)はこれまで隠していた過去に脅かされることになる…。

東京国際映画祭より

 

 

 

【感想】

有名女優をめぐるサスペンス、またはミャンマー華人を描いた映画として、とてもスリリングで楽しめる作品だった。
実態が見えないまま、信用ならない人々に囲まれ、身を縮こませる状況が寒々とした北京の風景とも重なり、痺れるような緊張感が続く。

筆者はかなり楽しんで見れた作品だったが、全体的な評価はあまり芳しくないようだ。それは中国でも日本でも同じだが特に日本では、上映当時のマナーの良くない観客の多さも大きな要因なようだ。それは別の形でレビューサイトFilmarksにも表れていて、本作のレビューの半分以上が中国からの投稿と思しき絶賛か酷評どちらかの極論で占められていて、もはや評価が信用できないものになってしまっている。こんな事は今回の東京国際映画祭が初めてだろうか、ただただ逆効果にしかならない行動で、より本作の評価を下げる事になっている。

 

filmarks.com

チャオ・イェンの思い 乔妍的心事

 

だが個人的にはかなり楽しめた作品だった。女性セレブのセキュリティが、周囲の状況次第でいかに危うくなるのかがリアリティを持って伝わってくるし、ミャンマー華人についてのリアリティも、これほどまでに密接な関係だったのかと、今まで知らなかった驚きだ。
もしかしたら、俳優目当てや監督の過去作からの期待が、予想と違った仕上がりに感じたケースも多いのかもしれない。

赵丽颖(チャオ・リーイン)と辛芷蕾(シン・ジーレイ)の主演という事、監督の前作などでフェミニズム的な要素が強い事を期待していたが、むしろそこよりはサスペンス味を強く打ち出しているといえる。
ストーリーでは、突如17年ぶりに現れた姉の真相や、北京にいる筈なのに行方不明の姉の夫というメインのラインがありつつ、一方で妹の周囲の不穏な動きも、次第にサスペンスとなって絡み合っていく。

 

チャオ・イェンの思い 乔妍的心事

 

個人的にとりわけ素晴らしかったのは、赵丽颖(チャオ・リーイン)演じる妹の周囲を取り巻く、仕事の関係者たちの振舞いがとにかく気に触る点だ。揃いも揃って男なのがあるあるな上に絶望的なのだが、これだけ人気を獲得し尊敬されるべき存在となれたのにも関わらず、とにかく酒を飲ませる古臭い慣習、性的な眼差しを含ませた仕草、上から目線で近寄ってくる成金仕草… それらに脅かされ、底冷えのように上がってくる恐怖感を四六時中抱える日々。どこまでクラスを昇ってもセキュリティを保てない、女性でしか感じ得ない徒労感が、中国映画的なリアリティで喉元に突き刺さってくる。監督の前作「ニーナ・ウー(2019)」と同じテーマが響いている。

そうしたサスペンス描写は、どちらかというと「坚如磐石(2023)」とか「扫黑·决不放弃(2024)」のような、中国黒社会を描いた映画の陰湿な世界観に近くて、だからこそ「最悪殺される事もあるな」という生々しさが、他国の映画より一層恐ろしく感じられる。そこに監督本来の持ち味である、静謐で色味を絞った美しいカットが挟まれ、特に冬の北京の風景と相まって、クールというより凍てつくような緊張感がいや増した画面に仕上がっている印象だ。

 

チャオ・イェンの思い 乔妍的心事

 

不穏さを更にブーストするのが、17年ぶりに会うミャンマーから来た辛芷蕾(シン・ジーレイ)演じる姉の背景だ。筆者は今まで、ミャンマーに中華系の人々がいる事を殆ど意識した事が無かったし、劇中のように流暢に雲南方言の中国語を話すような、日常的な中国語での生活がミャンマーに存在するのも知らなかったので、とても新鮮な驚きだった。

見終わってから改めて調べてみると、翡翠鉱山や姉妹が幼少期を過ごした雲南省瑞麗との結びつき、監督の過去作「マンダレーへの道(2016)」でも扱われ、今作でも最後に登場するマンダレーという都市、そして姉妹がミャンマーへと行く事になった経緯など、ミャンマー華人の要素が随所に盛り込まれていて、これほどまでに密接に繋がっているのかと多くの驚きがあった。

一方で、ミャンマー華人は今作の赵德胤(ミディ・ジー)監督と同じように、数多く台湾へと流入しているという事実もまた、雲南からミャンマー、台湾へと繋がる知らなかったルートを感じるし、別の面では「ノー・モア・ベット: 孤注(2023)」で描かれたような、特殊詐欺で大量の中国人が雲南経由でミャンマーへと連れて来られている事の、ある種の歴史的伝統みたいなものにまで思い至ってしまった。
とにかく中国にとってのミャンマーは、想像以上に深く濃い繋がりがある関係のようだ。

 

チャオ・イェンの思い 乔妍的心事

 

この映画は今まで台湾で映画を撮ってきた赵德胤(ミディ・ジー)監督の、初の中国からの企画だったようなので、たしかに様々な営業的な要請も盛り込んで作られた感はある。原作は読んでいないが、ミャンマーは一切登場していないようで、監督によって追加されて脚本になったようだ。そう思えば、ミャンマー華人を新しい見せ方で描く事が今作の狙いだったように見えてくる。監督だからこそ描けるミャンマー華人の物語はまだまだありそうだし、そうした作品をもっと見たいと思った良作だった。

 

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【トピック】

◯ 下の東京国際映画祭とほぼ同じタイミングの2024年10月26日に中国で一般公開。公開初週の興収ランキングはマーベル映画「ヴェノム:ザ・ラストダンス(2024)」に次ぐ2位。翌週は放射能事故を描いた香港映画「カウントダウン(2024)」に席を譲った。
興行収入は1.51億元(32.3億円)。

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◯ 日本でも上記の通り、中国公開のわずか2日後の2024年10月28日に東京国際映画祭でインターナショナル・プレミアされた。

2024.tiff-jp.net

 

 

 

◯ 张悦然による2017年に発表された短編小説「大乔小乔」が原作である。
张悦然は1982年生まれで、14歳の頃から小説を発表し大反響となった、韩寒(ハン・ハン)郭敬明(グオ・ジンミン)と並ぶ80后を代表する作家だ。

 

 

 

ミャンマーの華人

◯ ミャンマーにいる華人は、数は多くないものの人口の3%(18万人)ほどはいて、コーカン族モンワン族といった名称の民族集団を形成している。多くが国境を挟んだ雲南省から来た人々がルーツのため、雲南方言をミャンマーでの生活上でも話している。

◯ また華人が多く住む北部シャン州は翡翠の鉱山がある事でも知られており、劇中でも夫が鉱山を所有しているという設定であった。

courrier.jp

◯ 劇中で最後に登場した都市、マンダレーはミャンマー第二の都市だが、多くの華人が住んでおり、近年は更に多くの中国人が流入している。

jbpress.ismedia.jp

◯ また、多くのミャンマー華人は台湾に移住しており、新北市には華新街というミャンマー華人のコミュニティもあるほどだ。赵德胤(ミディ・ジー)監督のキャリアにも通じる。

newtaipei.travel

 

 

 

赵德胤(ミディ・ジー)監督

◯ 監督の赵德胤(ミディ・ジー、画像左)は1982年生まれのミャンマー華人。ミャンマーでも貧しい境遇で育ったが、16歳で難関の台湾・台中工業高級中等学校に合格し台湾へひとり移住。その後、台湾トップクラスの国立台湾科技大学を卒業した。卒業制作として作った映画が、いきなり釜山国際映画祭をはじめ数多くの映画祭で評価される。その後侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督の下で映画を学び、作り上げた初長編「歸來的人(2011)」もまたロッテルダム国際映画祭などで高い評価を受け、正式に台湾身分証を取得した。

その後、東京フィルメックス出品作「マンダレーへの道(2016)」やカンヌ映画祭ある視点部門/東京フィルメックス正式出品作「ニーナ・ウー(2019)」など、本作を含めて6作の長編映画を発表。また、山形国際ドキュメンタリー映画祭特別招待作品「翡翠之城(2016)」などドキュメンタリー作品も4作品手掛けている。

チャオ・イェンの思い 乔妍的心事

 

 

 

赵丽颖(チャオ・リーイン)

◯ 乔妍(チャオ・イェン)。幼少の頃、姉の配慮によって学校に行けた事で、俳優として大成功した。

◯ 2006年に中国Yahooが主催したオーディションで選ばれ芸能界入り。ドラマ「新还珠格格 (2011) 」での役が人気となり、「後宮の涙(2012)」の主演で更に人気となった。「お昼12時のシンデレラ(2014)」に主演の後、「花千骨(2015)」「楚喬伝(2017)」、そして「明蘭(2017)」と大ヒット古装ドラマに立て続けに主演し、その人気を不動のものとした。
最近のドラマでは「有翡(2020)」「ワイルド・ブルーム(2022)」「輝け!シンフー(2022)」「与凤行 (2024) 」などに出演。

映画では良作青春映画「乗風破浪〜あの頃のあなたを今想う(2017)」、昨年の中国金鶏奨・作品賞を受賞した张艺谋(チャン・イーモウ)監督最新作「第二十条(2024)」、そして本作直前に公開されたサスペンス「浴火之路(2024)」に出演。陳可辛(ピーター・チャン)監督のカンヌ出品作「酱园弄 (2024) 」の公開も控えている。

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辛芷蕾(シン・ジーレイ)

◯ 乔妍の姉。妹に代わってミャンマーに引っ越し、そこで生活している。

◯ 1986年生まれの辛芷蕾(シン・ジーレイ)は、病の父と看病のために働けない母を抱えた状況で19歳で芸能界入りする。「画皮 あやかしの恋(2008)」のドラマ版「画皮 千年の恋(2011)」でデビュー。
ドラマでは「蒼穹の剣(2018)」「狼殿下(2018)」「如懿伝(2018)」「慶余年(2019)」とヒット作へ出演していく。映画では「長江 愛の詩(2016)」「修羅:黒衣の反逆(2017)」などがある。

昨年は、昨年末からの王家衛(ウォン・カーウァイ)監督による大ヒットドラマ「繁花 (2023) 」、そして大ヒット作の続編「慶余年2」、夏休み映画としてデリバリードライバーを描いた快作「アップストリーム ~逆転人生~(2024)」と、数多くの出演作が公開されている。

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黄觉(ホアン・ジュエ)

◯ 乔妍のマネージメント事務所社長・沈皓明。

◯ 黄觉(ホァン・ジュエ)は1990年代半ばにモデルとしてデビュー。後に俳優業も開始し、映画「恋愛中のパオペイ(2004)」「君といた日々(2014)」「三城記(2015)」「ロングデイズ・ジャーニー(2018)」「少年の君(2019)」「兎たちの暴走(2020)」「僕らが空を照らしたあの日(2021)」など数多くの作品に出演した。

ドラマでは「风吹云动星不动 (2004) 」「倾城之恋 (2009) 」「白色月光(2020)」「山海情(2021)」「開端 -RESET-(2022)」などに出演。王家衛(ウォン・カーウァイ)監督のドラマ「繁花 (2023) 」にも出演している。

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董宝石(ドン・バオシ)

◯ 姉の夫・于亮

◯ 宝石Gemという名のラッパーで、俳優として出演の際は本名の董宝石(ドン・バオシ)を名乗っている。
ラッパーのオーディション番組「中国新说唱」第二期(2019)に出演。「野狼Disco」や「电梯战神」という曲で知られている。
映画には東京国際映画祭(TIFF)出品作「平原のモーセ(2023)」「末路狂花钱 (2024) 」「来福大酒店(2024)」、そして昨年のTIFFには本作と共に「わが友アンドレ(2024)」の2作同時に出演作が出品と、一気に人気俳優と呼べる状況になってきた。

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安沺(ヴィヴィアン・ティエン)

◯ 乔妍のマネージャー・小杨。

◯ アメリカ国籍を持つ中国人で、2017年にお蔵入りとなっているフィンランドのSFコメディ映画「アイアン・スカイ」シリーズ3作目の出演で映画デビュー。大ヒットドラマ「それでも、家族(2019)」での演技で存在を知られるようになる。その他映画「荞麦疯长 (2020) 」などに出演。

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小爱(シャオアイ)

◯ 出演作の監督・周企。

小爱(シャオアイ)は、白客(バイ・クー)と同じ日本のギャグアニメを翻訳してネットに投稿するグループの先駆け「cucn2」の一人として、2010年頃に知られるようになる。その後も彼らと共に大ヒットしたコメディ・ウェブドラマ「报告老板!」シリーズや「万万没想到(2013)」などの刘循子墨(リウ・シュンズーモオ)監督のコメディの常連となり、その縁で尹正(イン・ジョン)主演のヒットした監督作「扬名立万(2021)」にも出演した。
その他「フライト・キャプテン(2019)」「星明かりを見上げれば(2022)」、本作の直前に公開された「志愿军:存亡之战(2024)」などの映画に出演している。

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张帆(チャン・ファン / ジャン・ファン)

◯ 出演作の出資者である企業の社長・郁总。

张帆(チャン・ファン / ジャン・ファン)は2000年初頭からの出演歴があるので1970年代生まれかと思われるが、特に「三体(2023)」「ロング・シーズン(2023)」という2つの大ヒットドラマへ出演した事で知られるようになった。そこから「一念関山(2023)」「莲花楼 (2023) 」「承欢记 (2024) 」、刘亦菲(リウ・イーフェイ)主演作「玫瑰的故事 (2024) 」とヒット作への出演が一気に増えてきた状況だ。
映画では马丽(マー・リー)主演の「完璧な他人(2018)」「美味しいロマンス The Movie(2023)」などに出演している。

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