【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
西北の渇いた土地。極貧の山村。ほぼ孤児のような子供。感情すら乾ききった土地に一滴こぼれ落ちる人情。ひょんな事から男の子の父親を探す男の心暖まるロードムービーの2023年金鶏奨受賞作。
www.youtube.com China Feature Film: Like Father and Son - Trailer | 中国故事片《拨浪鼓咚咚响》预告片 | 2020 AFF亚洲电影节
【スタッフ & キャスト】
2020年 中国 97分
監督: 白志强(バイ・ジーチャン)
出演: 惠王军(フイ・ワンジュン)、白泽泽(バイ・ゼゼ)
【あらすじ】
移動販売で生計を立てていた男、苟仁【惠王军(フイ・ワンジュン)】。ある日トラックを走らせていると荷台の花火が突然爆発しだし、売り物がすべて丸焦げになってしまった。犯人は荷台に潜んでいた男の子・毛豆【白泽泽(バイ・ゼゼ)】。しかし毛豆には家族がおらず、出稼ぎに行くと出ていったきりの父親を見つけるしか、この損害を弁償してもらう方法は無い。こうして仕方なく苟仁は毛豆を連れて父親探しの旅に出るのであった。
【感想】
西北の渇いた土地。極貧の山村。ほぼ孤児のような子供。感情すら乾ききった土地に一滴こぼれ落ちる人情。ひょんな事から男の子の父親を探す男の心暖まるロードムービーの2023年中国金鶏奨受賞作。
見ている間にどんどん気持ちが苦しくなってくる。それほどに男の子の境遇が厳しい。この子はたぶん、生まれてから殆ど愛情を受けた事が無いのではないか。コミカルなドタバタシーンもあるが、この子の望まずに得た逞しさに次第に切なくなってゆく。
男はトラックに日用品を積んで田舎にやって来る移動販売をしている。ある日見知らぬ男の子が荷台に忍び込みトラックが火事に。だがこの子の父親は出稼ぎに行ったきり。同居していた祖母は亡くなり、行くあても失くなってしまっていた。男は「なんで俺が…」と悪態をつきながら父親のいる街へ向かうのだ。
誰も前向きではないロードムービー。男は金のため、男の子も他に行く場所がないため、どこにいるかもわからない父を探す。
行く先々で出会う人々も生活に汲々とした庶民ばかり。隙を見せればつけこまれるリアルライフだ。同じ西北地方が舞台の「小さき麦の花(2022)」も思い起こす、貧しい地方の現実。
男も根は決して悪くないのだが、その境遇から余裕を失くしているのがわかる。男の子も無邪気だし不安な事もたくさんあるのに、もう自分でサバイブするしかない事を悟ってしまっている。
そんな2人が次第に心を開いていく。そのプロセスを少しゆっくりしたペースで描いていくのが、とてもリアルでいい。傷ついた2人に丁度よいタイム感なのだ。
劇伴も素敵なエンディング曲以外ほとんどかからず、撮影も素朴なタッチな事もあってネオリアリズモ映画みたいなクラシックでドライな雰囲気になっていたり、恐らく監督も見ているであろう北野武監督「菊次郎の夏(1999)」とか、同じく貧しい子供が主人公の中国映画「選ばれざる路(2018)」も思い出されたりする。監督は陈凯歌(チェン・カイコー)監督に大きな影響を受けているようで「黄色い大地(1984)」や「人生は琴の弦のように(1991)」などの作品を挙げていたりする。
しかし、エンディングは本当に素晴らしい展開になっていて、思わず泣かされる。きっかけになった花火がとても効果的に登場して、ああ素敵な物語だったなという余韻に浸りながら見終われる。もうすぐ公開される予定の「ブラックドッグ(2024)」なんかが好きな人はきっと気に入る、とっても良い映画だった。
中国映画レビュー&解説「小さき麦の花 隐入尘烟 Return to Dust」 - daily diary
中国映画レビュー&解説「選ばれざる路 未择之路 The Road Not Taken」 - daily diary
中国映画レビュー&解説「ブラックドッグ 狗阵 Black Dog」 - daily diary
【トピック】
◯ 本作は2020年7月28日の上海映画祭でワールドプレミア。そこから3年を経て2023年2月25日に中国で公開された。
◯ 中国金鶏奨で5部門にノミネートされ、青少年作品賞を受賞した。
2023年第36回中国金鶏奨(金鸡奖)の作品一覧 - daily diary
◯ 監督の白志强(バイ・ジーチャン、画像左)は1983年に本作の舞台でもある陜西省北部生まれ。2009年から映画製作も開始したが、本作が新人発掘コンテストであるFIRST影展に入賞し、長編映画デビューした。現在のところ今作が唯一の監督作品となっている。
◯ エグゼクティブ・プロデューサーに有名脚本家の芦苇(ル・ウェイ)が就いている。
文革期の下放によって農村の労働者として1960~70年代の青春期を過ごし、1976年から、炊事要員として、後に美術スタッフとして映画界に入った。その後、脚本家として「さらば、わが愛/覇王別姫(1993)」や「活きる(1994)」などの陈凯歌(チェン・カイコー)監督の名作や吳宇森(ジョン・ウー)監督「レッドクリフ Part I(2008)」などを手掛けた。
「封神・妖姫とキングダムの動乱(2023)」では脚本顧問を務めている。
惠王军(フイ・ワンジュン)
◯ 苟仁。日用品の出張販売をしており、毛豆の住む集落へも訪問していた。
◯ 今作では中国金鶏奨・主演男優賞にノミネートされた。
1983年峡西省生まれ。白志强(バイ・ジーチャン)監督とは中学の同級生で、高校卒業後はタクシー運転手をしていたが、役柄のイメージに近いことから監督に抜擢された。今作では主題歌も歌っている。
今作の後、ドラマ「鬼吹灯(きすいとう)(2020)」やオムニバス映画「愛しの故郷(2020)」や王宝强(ワン・バオチャン)主演「少林寺之得宝传奇 (2021) 」などに出演している。
中国映画レビュー&解説「愛しの故郷 我和我的家乡(我和我的家郷) My People My Homeland」 - daily diary
白泽泽(バイ・ゼゼ)
◯ 毛豆。父親はどこかへ出稼ぎへ行ったきり、祖父母と暮らしていた。
◯ 2010年峡西省生まれなので、撮影時は9歳くらいであった。今作のオーディションで選ばれ映画デビュー。その後オムニバス映画「愛しの故郷(2020)」や王一博(ワン・イーボー)主演「ボーン・トゥ・フライ(2023)」などに出演している。
中国映画レビュー&解説「愛しの故郷 我和我的家乡(我和我的家郷) My People My Homeland」 - daily diary
中国映画レビュー&解説 「ボーン・トゥ・フライ 长空之王(長空之王)Born to Fly」 - daily diary