年会不能停! Johnny Keep Walking!: 豆瓣
【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
忘年会ネタのコメディ映画かと思ったらむしろアツいサラリーマン応援映画。大鹏&白客&庄达菲のチームで今の中国社会と会社の悪を暴く最高のスカっと映画。
www.youtube.com Johnny Keep Walking! (年会不能停!, 2023) || Trailer || New Chinese Movie
【スタッフ & キャスト】
2023年 中国 117分
監督: 董润年(ドン・ルンニエン)
出演: 大鹏(ダーポン)、白客(バイ・クー)、庄达菲(ジュアン・ダーフェイ)、王迅(ワン・シュン)、孙艺洲(スン・イージョウ)、李乃文(リー・ナイウェン)
【あらすじ】
胡建林(ジョン)【大鹏(ダーポン)】は工場で勤続20年のベテラン工員。希望に満ちていた若かりし時代は終わり、人生は下り坂。
唯一の得意ジャンル、会社の忘年会(年会)での余興に応募したら、管理職たちの手違いから、なんと本部への栄転リストに入れられる事になってしまった。
理由がわからぬまま大都会の高層ビルにある本部へとやってきた胡建林は、そこから大騒動を起こすのであった。
【感想】
見る前に想像していたのと違っていて、会社とは何か、会社員としての大事なものとは何かを見つける為に社内の悪と戦う、サラリーマン奮闘ものだった。
シンプルなストーリーで笑って楽しめ、一方で今の中国を反映した世知辛い話もあり、働く者みんなが熱い気持ちにさせられ、気持ちよく見終われる。働く人々を応援するストレートなエンタメ映画だ。
タイトルの「年会」とは、年度末に開催される、さしずめ会社主催で大掛かりな忘年会といったもの。見る前まで筆者は、予告や出演者などを見ていたからか、もっと笑いばかりの爆笑忘年会イベントのドタバタコメディ的なものを予想していた。だが実際には、コメディ的な軽やかなテンポだが、しっかりと喜怒哀楽にまつわるストーリーが展開されて、むしろ青春ドラマといっていい。
前半は事前予想通りのコミカルさで、主人公・壮(ジョン)の、古臭い工場での作業服から大都会のオフィスのサラリーマンへの変貌ぶりや、気づいたらリストラ担当として勘違いされて成果をあげてしまい、あれよあれよと昇進していくノリなど、大鹏(ダーポン)の朴訥かつ軽いノリの演技に大笑いできる。
なんというか、植木等(クレイジーキャッツ)の「ニッポン無責任時代(1962)」とか「社長道中記(1961)」などの森繁久彌の社長シリーズなんかの、源氏鶏太原作によるド昭和・サラリーマンものみたいなノリで、それが上手くハマっていて最高だ。
そして、相棒となる二人の社員がまた良い。総務のような立場の白客(バイ・クー)が演じる马杰(マジック)は、ひたすら上司に怯え、ミスを恐れて会社の歯車として、大汗をかきながら大鹏(ダーポン)のフォローに走り回るのがおかしい。
一方の相棒、庄达菲(ジュアン・ダーフェイ)演じる潘妮(ペニー)は、派遣社員というフリーな立場から会社のタブーにズバッと切り込むセリフを随所に差し込んできて、観客の溜飲を何度も下げてくれる。
そうした前半から、会社の悪事が露呈していく後半はガラリとムードが変わっていく。その変わり方も、昨年までの中国映画とはまた違う、より一層今の中国社会を反映したような、グッとお腹に響く重めの問いかけなのが、印象的だ。
たとえば马杰(マジック)は、事あるごとに自分の立場が危うくなる事を恐れ、クビになる事の心配を毎日していると口にする。潘妮(ペニー)もまた"985大学*1"を卒業していない自分について、だから正社員になれないと諦めていて、一流大学を卒業していないと正社員にすらなれない、現在の中国社会の厳しさが描写されている。
そして、壮(ジョン)もまた、決して浮かれて羽目を外したりはしないのだが、気づくと格差の向こう側へと来てしまった自分に居心地の悪さを覚えている。
このように、コロナ前までの中国に満ちていた、とにかく自分たちはどこまでも上昇していけるんだという、あの自信と高揚感は完全に失われていて、そんな事より自分の元々の居場所こそが最も大事なんだという、いってみれば日本の価値観にも通じるようなテーマが描かれているのがすごく印象的だ。
立ち止まる事がむしろ大事。時代に乗ることよりも更に大事なことがある、といったこれまでの中国映画では描かれなかったテーマが、数多くの観客を鼓舞し、よもやお正月一番の大ヒット作にまでなったという事実が、いかにこの作品がぴったりのタイミングで現実を示し、観客のリアルな心情をすくい取っているかを示している。
それだけではない。今作の大ヒットが今年1月だが、そのわずか数週間後の2月の春節には、贾玲(ジャー・リン / ジア・リン)による今度は女性への応援歌的なエンパワーメント映画「YOLO 百元の恋(2024)」が続けて大ヒットした。こうした人々を勇気づける内容の映画が続けて大ヒットするのが、今の中国のムードなんだろう。そう思わせる非常に感慨深い関連だし、この映画はその象徴といえるような作品だった。
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【トピック】
◯ 年末の2023年12月29日に公開。公開から大ヒットとなり、梁朝偉(トニー・レオン)&劉德華(アンディ・ラウ)W主演の「金手指(2023)」などを抑え、実に5週連続で興収ランキングトップをひた走ることになった。最終的な興行収入は、正月映画としては歴代3位という記録的な12.9億元(277億円)を達成した。
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◯ 本作で監督・脚本、そしてカメオ出演もしている董润年(ドン・ルンニエン)は、脚本家として映画「疯狂的外星人(2019)」など、特に「心花路放(2014)」などの黄渤(ホァン・ボー)主演・宁浩(ニン・ハオ)監督作で多く脚本を手がけてきた。「ロクさん 老炮儿(2015)」で中国金鶏奨・脚本賞を受賞している。
初監督作であるファンタジックなミステリー「被光抓走的人(2019)」は、上記の黄渤(ホァン・ボー)&宁浩(ニン・ハオ)監督が立ち上げた新人発掘プロジェクト第一弾として制作された。いわば二人の秘蔵っ子としてデビューした形である。
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大鹏(ダーポン)
◯ 主人公、胡建林。長年工場に勤めていた。英名は壮(ジョン=John)。
◯ 監督&俳優でタレント、ミュージシャンでもある。
贾玲(ジア・リン)をはじめ数多くの有名コメディアンが出演したコメディドラマ「屌丝男士(2012)」シリーズの監督として知られるようになる。
映画監督としてのデビュー作「煎饼侠(2015)」でも袁姍姍(ユエン・シャンシャン)、柳岩(リウ・イエン)、邓超(ダン・チャオ)などなど錚々たる面々が出演。さらに監督2作め「缝纫机乐队(2017)」では古力娜扎(グーリーナーザー)、周冬雨(チョウ・ドンユイ)や香港のバンド・Beyondのメンバーなど、こちらも豪華な出演陣によるバンド映画であった。
俳優としての出演作は、冯小刚(フォン・シャオガン)監督作「わたしは潘金蓮じゃない 我不是潘金莲(2016)」や「奇門遁甲(2017)」など。
2023年春節に公開された梁朝偉(トニー・レオン)&王一博(ワン・イーボー)主演「無名(2023)」に出演。翌月には監督&主演の3作目となる良作「保你平安(2023)」がヒット。7月には監督4作目となるブレイキン映画「热烈(2023)」が王一博(ワン・イーボー)主演で公開、そして9月には素晴らしい役作りの主演作「第八个嫌疑人(2023)」公開という、現在最も忙しい映画人の一人。
今年は早々に正月から本作が大ヒット。少数民族を描いたプロデュース作のドラマ「我的阿勒泰 (2024) 」が高評価となり、そして陳可辛(ピーター・チャン)監督によるカンヌ出品の出演作「酱园弄 (2024) 」が控えている。
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◯ 若い頃の工員姿の胡建林は、「热搜(2023)」などに出演していた王皓(ワン・ハオ)が演じている。
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白客(バイ・クー)
◯ 総務の马杰(マジック)。胡建林の間違い人事を手配してしまい、その後も彼の相棒となる。
◯ 本作での白客(バイ・クー)が演じた马杰(マジック)のキャラについて、ネットでは「トップ・ベータ(顶级Beta)」だと大人気になった。これは「オメガバース(ABO)」というBLと近しい二次創作での世界観内の設定で、出演者たちが言及するほど話題になった。
“顶级Beta”做不了男主_澎湃号·湃客_澎湃新闻-The Paper
◯ 本作の董润年(ドン・ルンニエン)監督の前作「被光抓走的人(2019)」から引き続き出演。
元々大学生の頃に日本のギャグアニメを翻訳してネットに投稿するグループの先駆け「cucn2」の一人として2010年頃に知られるようになる(「ギャグマンガ日和」の中文翻訳は中国アニオタ史の大きなエポックだが、これを投稿していた)。
その後俳優として活動を開始、大ヒットしたコメディ・ウェブドラマ「万万没想到(2013)」で人気となり、世間に知られるようになった。順調にキャリアを積み重ね、周星馳(チャウ・シンチー)監督「人魚姫(2016)」、王宝强主演「大闹天竺(2017)」や、 新聞記者を描いた「不止不休(2020)」、「扬名立万 (2021) 」、「クラウディ・マウンテン(2021)」にも出演。昨年は大ヒットドラマ「三体(2023、テンセント版)」や胡歌(フー・ゴー)主演の映画「耳をかたむけて(2023)」に出演している。
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庄达菲(ジュアン・ダーフェイ)
◯ 派遣社員として本部に勤務している潘怡然(潘妮=ペニー)。
◯ 2001年生まれで歌手でもある。本作でも挿入歌「湘江中路」を歌っている。
2012年に子役としてデビュー。娘役を演じた母娘のストーリー「ママと同級生(2020)」で知られるようになる。古装劇「夢幻の桃花(2020)」、「春うらら金科玉条(2020)」、「我的刺猬女孩 (2020) 」、「摇滚狂花 (2022) 」などのドラマで知られている。
www.youtube.com 《湘江中路》 - 庄达菲 [动态歌词] 2024喜剧电影《年会不能停》片尾曲【在这个无人问津的夜 你是否还记得自己多失落】
王迅(ワン・シュン)
◯ 胡建林の元同僚、庄正直。本部に栄転するはずだったが、胡建林と取り違えられてしまう。
◯ 王迅(ワン・シュン)は、最近はより一層出演作が増えつつある演技派俳優。一癖あるワルそうな役が多く、「唐人街探偵 NEW YORK MISSION(2018)」や、「ビッグ・ショット(2019)」、「愛しの故郷(2020)」、「万里归途(2022)」、大鹏(ダーポン)の監督主演作「保你平安(2023)」、「ネバーギブアップ 八角笼中(2023)」、今作の後に公開された「⼈⽣って、素晴らしい/Viva La Vida(2024)」などなど、名脇役として数多くの映画ドラマに出演している。人気バラエティ番組「极限挑战」のシーズン7と8にも出演して様々な体験をしている。
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孙艺洲(スン・イージョウ)
◯ 上司である皮特(ピーター)
◯ 1983年生まれ。2009年のドラマ「爱情公寓」シリーズで芸能界入り。
主な出演作は、ドラマでは「爱情是从告白开始的(2012)」、「僕たちのプリンセス(2013)」、呉奇隆(ニッキー・ウー)&刘诗诗(リウ・シーシー)の「続・宮廷女官 若曦(2013)」、鍾漢良(ウォレス・チョン)&アンジェラベイビーの古装劇「孤高の花(2016)」など。
映画では、金城武&周冬雨(チョウ・ドンユィ)の「恋するシェフの最強レシピ(2017)」、张艺谋(チャン・イーモウ)監督のサスペンス映画「坚如磐石(2023)」、そして今年の大ヒット春節映画「飞驰人生2(2024)」などがある。
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李乃文(リー・ナイウェン)
◯ 執行副社長の徐云峰(ジェフリー)
◯ ドラマ「爱在苍茫大地(2010)」や「爷们儿(2014)」、「平凡之路(2023)」などで知られる。
映画では名作「薬の神じゃない!(2018)」やコロナ禍を描いた「你是我的春天(2022)」、陈凯歌(チェン・カイコー)監督作「志愿军:雄兵出击(2023)」など。张艺谋(チャン・イーモウ)監督作では「崖上のスパイ(2021)」、「坚如磐石(2023)」、そして最新作「第二十条(2024)」と常連になりつつある。
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肉食动物 晃晃、大木
◯ 会社幹部の托尼(トニー)と托马斯(トーマス)
◯ この二人で肉食动物という漫才コンビをやっている。お笑いのコンテスト番組「脱口秀(トークショー)大会」第4(2021)&第5シーズン(2022)に出場して有名になった。
童漠男(トン・モーナン)
◯ 同僚の马克(マーク)
◯ 童漠男も上記の肉食动物と同様にお笑い芸人で、「脱口秀大会」第4(2021)&第5シーズン(2022)に出場して有名になった。
欧阳奋强(オーヤン・フェンチアン)
◯ 社長であり創業者の胡董事长
◯ 欧阳奋强(オーヤン・フェンチアン)は、劇中では老けたメイクをしているが、1964年生まれの俳優・監督である。大ヒットドラマ「红楼梦 (1987) 」で可愛らしい風貌から大人気となったが、すぐに監督業へと転身した。以来現在まで数多くのドラマ・映画を監督していて、中国ドラマ50年優秀監督賞や全国テレビ技術者百選入選など、数多くの受賞歴もある。今年3月に60歳となり引退宣言をした。
劇中歌
◯ 冒頭で壮(ジョン)と工場の人々が皆で歌うのは、歌手・刀郎による「驼铃」だ。オリジナルは映画「戴手铐的旅客 (1980) 」の主題歌で吴增华が歌ったものだが、2004年に発表された刀郎によるカバーがよりエモーショナルで人気が高く、特に軍隊や警察・学校での卒業などでの愛唱歌となっている。
冯小刚(フォン・シャオガン)監督の映画「芳華-Youth-(2017)」でも、この曲を皆で歌うシーンが登場するが、こちらは吴增华による原曲の方である。
「芳華-Youth-」レビュー(中国/台湾映画5本レビュー) - daily diary
www.youtube.com 驼铃 - 刀郎【官方MV】
◯ クライマックスで歌われるのは、台湾の歌手・張雨生の名曲「我的未來不是夢」の替え歌&ラップだ。この曲は、わずか31歳で早逝した張雨生が21歳の時、1988年に発表したデビュー曲。
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www.youtube.com 張雨生 我的未來不是夢 MV