The Prosecutor(英題) - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ | Filmarks映画
【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
甄子丹(ドニー・イェン)の最新アクション映画だが、一方で検事として裁判に挑む法廷ドラマでもある。キレキレの大内貴仁によるMMAアクションが凡百の類似品との次元の違いを見せつける。
www.youtube.com 《誤判》𝙏𝙝𝙚 𝙋𝙧𝙤𝙨𝙚𝙘𝙪𝙩𝙤𝙧 正式預告|𝟏𝟐月𝟐𝟕日 為正義出拳
【スタッフ & キャスト】
2024年 香港 118分
監督:甄子丹(ドニー・イェン)
プロデュース:谷垣健治、甄子丹(ドニー・イェン)
アクション監督:大內貴仁
出演:甄子丹(ドニー・イェン)、張智霖(ジュリアン・チョン / チョン・チーラム)、許冠文(マイケル・ホイ)、吳鎮宇(フランシス・ン)、MC 張天賦(マイケル・チャン)
【あらすじ】
郵便を使った麻薬密売の罪に問われた青年・馬家杰【馮皓揚(フォン・ホーヤン)】は、弁護人の勧めで減刑と引き換えに罪を認める。しかし、警察官から検事に転身した霍子豪【甄子丹(ドニー・イェン)】は、この事件が常軌を逸していることに気づき、潜入捜査を開始する。この単純な事件の背後には、複雑な犯罪組織があるのか?麻薬密売事件に誤審はあるのか?
【感想】
甄子丹(ドニー・イェン)の最新アクション映画だが、一方で検事として裁判に挑む法廷ドラマでもある。キレキレの大内貴仁によるMMAアクションが凡百の類似品との次元の違いを見せつける。
やはりドニーの映画なら誰しも期待するアクションはまったく裏切らないクオリティだ。だが、映画としては割合多くの分量を裁判シーンに割いていて、見終わった時には法廷ミステリーを見たような感想になった。
この映画は、下記のような2016年に発生した実際の誤判事件を元に作られていて、そこにアクションシーンやドニー演じる主人公・霍子豪のストーリーが追加されている形になっている。
オープニングは7年前の警察時代から始まり、名作「レイジング・ファイア(2021)」を彷彿とさせるような派手な銃撃突入シーンで幕を開ける。だが今回の主人公・霍子豪は、キャラクター自体は「レイジング~」の邦(ボン)と同じような正義感溢れる熱血漢なのだが、早々に警察官を辞職して検事へと転身。今までの犯人を捕まえる仕事から現在は裁判で有罪へと導く仕事をしている事が示される。
常に防弾チョッキを着ていたような現場の緊張感に満ちていた前作とは違い、今回は時には法服をまといカツラを被る法廷シーンもあって面白い。やり合う相手もシンプルに犯人だけでなく、相手の弁護士、吳鎮宇(フランシス・ン)演じる上級判事や許冠文(マイケル・ホイ)の裁判官など、様々な障害が霍子豪の考えと対立してくる。
一方で事件自体も、一度検察が有罪に持ち込んだ事件ながら実は真犯人がいるという複雑なもので、しかもそれを自ら立件した検察が、自らそれを否定しなければならないという、もし本当なら検察の大不祥事、もし間違っていたとしても検察の大失態な上、霍子豪自身の検事生命も終わる、とてつもない難問だ。しかも霍子豪は、それを捜査からやり直そうというのだ。いや、あなたもう警察辞めてるし。検事ってそんな事できる立場なの?さて、どうやって彼は解決に辿り着くのか。
概要でもこんな感じなので、少々込み入った話になっていて、見ながら理解が追いつかない部分も出てきた。特に検察内部や法曹関係者とのやり取りも多い分、中盤でのアクションは少なめでむしろ吳鎮宇(フランシス・ン)や、「ラスト・ダンス(2024)」から早々に再登場し、あの頑固なキャラのイメージが重なって見えてしまう許冠文(マイケル・ホイ)らの演技が楽しい。
そしてクライマックスは、それまでのアクション好きの我慢を自ら解き放つような、最高に気持ちよくぶっ飛ばしてくれるシーンのつるべ打ちだ。地下鉄を使った長い格闘シーンはもうレベルの違いが歴然で、制作側の熱量もビシビシ伝わってくる。いわゆる香港映画的なアクションとはカット割りやリズム感とかが違っていて、すごく新鮮に見える。ドニー自身やアクション監督の大内氏らが、観客側の期待も理解した上でそれを更に上回るものを作ろうという気概に溢れていて、見ていてすごく気持ちいい。
犯人側の人物像がより分かりやすければ更に楽しめた気もするが、アクション好きにはクオリティの高さで十二分に満足して楽しめる佳作になっていた。
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【トピック】
◯ 本作は2024年12月21日に香港で一般公開。それまで7週連続1位を維持していた「ラスト・ダンス(2024)」、2位の「ライオン・キング:ムファサ(2024)」を抜き、公開翌週から興収ランキング1位を記録、5週連続でキープした。
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◯ 日本では「プロセキューター」のタイトルで2025年9月26日から公開予定。
◯ 香港金像奨では3部門にノミネート。アクション監督部門では大內貴仁がノミネートされた。
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◯ プロデューサーに就いている谷垣健治は、日本人で唯一香港動作特技演員公會に所属するアクション監督で、1990年代から数多くの香港映画、なかでも甄子丹(ドニー・イェン)の撮影現場でスタントマンとして参加、「るろうに剣心(2012)」をはじめとする多くの映画でのアクション監督で高い評価を受けている。「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦(2024)」で香港金像奨・アクション監督賞を受賞した。
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◯ アクション監督を務め、本作で香港金像奨・アクション監督賞にノミネートされた大内貴仁もまたよく知られたアクション監督。大体大卒業後に単身香港に渡りスタントマンとして活動。帰国後はアクションチームA-TRIBEを結成。谷垣健治のもとで香港映画でのスタントマン、スタントコーディネーターを務める。ドラマから映画シリーズへと発展した「HiGH&LOW」シリーズ、「亜人(2017)」、「はたらく細胞(2024)」、MVなどでアクション監督を務める。
甄子丹(ドニー・イェン)とは「導火線 FLASH POINT(2007)」、「孫文の義士団(2009)」、「捜査官X(2011)」などでスタントマンを務めており、ドニーの主演作であり谷垣健治が監督した「燃えよデブゴン/TOKYO MISSION(2020)」で既にアクション監督を務めている。
甄子丹(ドニー・イェン)
◯ 霍子豪。7年前の捜査中の事故により、警察を退職し検事となった。
◯ 米ボストンで育ち16歳で中国・北京市業余体育学校に入学して李连杰(ジェット・リーの後輩として学ぶ。袁和平(ユエン・ウーピン)にスカウトされスタントから香港映画界入りし、TVB俳優養成所を経て、アクション俳優としてドラマや映画出演を重ねていった。
代表作は徐克(ツイ・ハーク)監督/李连杰(ジェット・リー)主演「ワンス・アポン・ア・タイム/天地大乱(1992)」、自ら企画を持ち込みブルース・リーを演じて大ヒット、広く知られるようになったドラマ「精武門(1995)」、张艺谋(チャン・イーモウ)監督「HERO(2002)」、洪金寶(サモハン)との共演「SPL/狼よ静かに死ね(2005)」、総合格闘技を取り入れたアクションの「導火線 FLASH POINT(2007)」、中華圏のスター俳優が集結した「孫文の義士団(2009)」、陳可辛(ピーター・チャン)監督「捜査官X(2011)」、スター・ウォーズシリーズのスピンオフ「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー(2016)」、詠春拳の起源を描いた金字塔的作品「イップ・マン 葉問(2010)」や「イップ・マン 完結(2019)」などなど、数多くの名作/良作に出演。
香港金像奨などの映画賞では多くをアクション監督として受賞し、映画製作にも意欲的だ。そうした中で日本人アクション監督・谷垣健治も早くから重用していた。
最近の出演作は陳木勝(ベニー・チャン)監督の遺作であり素晴らしい良作「レイジング・ファイア(2021)」、キアヌ・リーブスの人気シリーズ「ジョン・ウィック:コンセクエンス(2023)」、谷垣健治との共同作的な監督作「シャクラ(2023)」などがある。
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張智霖(ジュリアン・チョン / チョン・チーラム)
◯ 法律にも精通した組織のボス・歐柏文。
◯ 歌手として1991年にデビュー。デビュー作がいきなり大ヒットし人気歌手となる。その後も大ヒットを連続させるが、俳優としての活動もスタート。ドラマ「天地男兒(1996)」や「十月初五的月光(2000)」、「恋するパイロット2(2012)」など、1990~2000年代を中心に香港/中国ドラマに多くの出演作がある。
映画では林超賢(ダンテ・ラム)初監督作「G4特工 OPTION ZERO(1997)」の主演や「ホーク/B計画(1998)」、「異邦人たち(2000)」、ドラマの映画版「十月初五的月光(2015)」、そして「Sの嵐(2016)」や「サンダーストーム 特殊捜査班(2018)」などの風暴シリーズ、「コールド・ウォー 香港警察 堕ちた正義(2016)」、「洩密者們(2018)」などがある。
女優の袁詠儀(アニタ・ユン)と2001年に結婚した。
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許冠文(マイケル・ホイ)
◯ 上級判事=裁判官のGeorge。
◯ 「Mr.BOO!ギャンブル大将(1976)」や「Mr.BOO!インベーダー作戦(1978)」をはじめとする大ヒット作「Mr. BOO!」シリーズで監督・主演し、特に日本で大人気になると共に、制作会社のゴールデン・ハーベストならびに香港映画界を代表する人気俳優となった。他に「ホンコン・フライド・ムービー(1988)」など。
最近の映画出演はそれほど多くはないが、台湾映画「ゴッドスピード(2016)」や郭富城(アーロン・クォック)&梁朝偉(トニー・レオン)主演の「風再起時(2022)」、そして昨年、空前の大ヒットにより香港映画史上No.1の興行収入記録を打ち立てた「ラスト・ダンス(2024)」に主演した。
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吳鎮宇(フランシス・ン)
◯ 検察局長・楊鐵立。
◯ 1982年に無綫電視(TVB)の訓練生としてデビュー以来、数多くの映画・ドラマに出演している香港映画の名優。
主な作品はTVBドラマ「難兄難弟(1997)」や「恋するパイロット(2003)」、映画では杜琪峯(ジョニー・トー)監督「ザ・ミッション 非情の掟(1999)」や「エグザイル/絆(2006)」、名作「インファナル・アフェアII 無間序曲(2003)」。
最近は邱禮潯(ハーマン・ヤウ)監督作の「77回、彼氏をゆるす(2017)」や「洩密者們(2018)」、「眺望良好(2019)」、「暗殺風暴(2023)」などと多くの作品に出演。今年6月には主演作である米映画「交渉人」のリメイク「談判專家(2024)」と海洋アクション「海關戰線(2024)」の、同監督の出演作2作が同時期に公開という事態が発生した。
昨年夏にはマレーシアが舞台のサスペンス中国映画「黙する者が生きし場所(2024)」に出演。
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MC 張天賦(マイケル・チャン)
◯ 霍子豪の元部下である刑事・李景威。
◯ MCという名で活動する歌手。2019年オーディション番組「全民造星」シーズン2に参加。参加中に父親が死去するという苦境の中で準優勝を勝ち取り、歌手として芸能界入りした。当初フリーで活動を開始したがワーナー香港に加入した2021年以降、多くのヒット曲をリリース、人気歌手としての地位を不動のものとした。
俳優としても、映画「夜校(2023)」のほか、「ラブ・ライズ(2024)」 では吳君如(サンドラ・ン)の相手役を演じている。
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その他の俳優
◯ 鄭則仕(ケント・チェン)
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◯ 劉江(ラウ・コン)
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◯ 喻亢(ユー・カン)は湖北省出身、ドニーのスタントチームの重要メンバー。
◯ 栢天男(アダム・パック)
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◯ 林家熙(ロッカー・ラム)
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◯ 陳欣妍(シャーリー・チャン)
◯ 馮皓揚(ファン・ホーヤン)
◯ 朱栢康(ジュー・パクホン)
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◯ 汪明荃(リザ・ウォン)
◯ 呂良偉(レイ・ロイ / ルイ)
◯ 鄭浩南(マーク・チェン)
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◯ 蔡思貝(シスレー・チョイ)
◯ 黃智雯(マンディ・ウォン)
実話の事件
◯ 本作は実際にあった事件を元に作られている。
2016年に発生した「馬家健案」という事件で、馬家健という男が自宅住所をドラッグの配送先に使わせた容疑で一度逮捕・起訴され、23年の実刑判決を受けたが後に供述を翻し、弁護士に諭されて共犯者の存在を否定する供述をしたというものである。
控訴審では香港大学の法学者・張達明が支援し、共犯者の逮捕を逃れる為に弁護士によって説得された事が立証され2024年3月に無罪、主導した弁護士・陳強利には懲役3年の判決となった。