中国映画レビュー&解説「花漾少女杀人事件 Girl On Edge」

花漾少女杀人事件 (豆瓣)

 

【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】

冒頭から凄惨なホラー映画として見せながら、フィギュアスケートのトップアスリートの内面を描く、驚きの展開。ゾクゾクする緊張感で最後まで持っていかれる素晴らしい出来。

 

 

 

花漾少女杀人事件


www.youtube.com 花漾少女杀人事件 Girl On Edge - Official Trailer

 

 

 

【スタッフ & キャスト】

2025年 中国 108分
監督: 周璟豪(シュウ・ジンハオ)
出演: 张子枫(チャン・ズーフォン / チャン・ツイフォン)丁湘源(ディン・シャンユエン)马伊琍(マー・イーリー)李孝谦(リー・シャオチェン)

 

 

 

【あらすじ】

フィギュアスケート・コーチである母親・王霜【马伊琍(マー・イーリー)】と共に選手権出場に向けて練習に励んでいた娘・江宁【张子枫(チャン・ズーフォン / チャン・ツイフォン)】は、思うような結果が出ない事に、次第に追い詰められていく。そこに、偶然にスケート場で働いていた素人の钟灵【丁湘源(ディン・シャンユエン)】が、類まれなる才能を見せ、いきなり母・王霜にスカウトされて選手権の出場をする事となる。あっという間に自身の居場所を脅かし始めた钟灵に、危機感を覚えた江宁はある行動を取る。

 

 

 

【感想】

冒頭から凄惨なホラー映画として見せながら、フィギュアスケートに限らないトップアスリートの内面を描く、驚きの展開。ゾクゾクする緊張感で最後まで持っていかれる素晴らしい出来。

最高に面白く、高密度の空気が最後まで続いて、全く退屈せずにエンディングまでたどり着く。なにせ脚本が素晴らしく良いので、ストーリーはできる限り語らないようにして、まずは映画を見てほしい。

 

花漾少女杀人事件

 

映画としてはかなりミニマムな世界だ。登場人物は実質的に3人しかいない。それによって、フィギュアスケート選手の主人公・江宁の世界とは実際、こんなにも競技の事だけを考え、関わる人も少ないミニマムで孤独な生活なんだというのが伝わってくる。

特に彼女の場合、結果が上手く出ていない。にも関わらず、コーチは元有名選手である実の母親が直々に教えていて、練習環境も優遇されたりと恩恵を受けていて、その代わり逃げ場もまったくないという、息が詰まるような環境になっている。
世界選手権で上位に入るようなクラスなら華やかなシーンもあるのだろうが、アジア選手権に出れるかどうかというローカルな試合が舞台、しかもおそらく10代後半の、フィギュアスケートではもはや出遅れを感じさせる年齢になっていて、華やかさとはまったく無縁の暗いロッカー部屋や、地味な練習施設でばかり過ごしている。

 

花漾少女杀人事件

 

そうした追い詰められた空気感がよく伝わってくる独特のカメラワークが印象的だ。極端にフォーカスを絞って視野狭窄な感覚を具現化した映像や、やたらと尖ったブレードの先端が強調され、その緊迫感をそのまま試合の雰囲気とシンクロさせていく見せ方、妙に頻繁に薬を口に入れるという不穏なカットなど、ホラー的な描写がとても上手く選手たちの練習風景に重なってくる。そのヒリついた空気は恐ろしくもあり、美しくもある。
彼らの背負っているものは、確かに負けられない戦いだし、その思いが強ければ強いほど勝ちに繋がる。もしかしたらそれは、殺意にも近づいていくのかもしれない。まして、その相手がたった1人のライバルならば、なおさらだ。

主人公・江宁のライバルとなる钟灵は、江宁とは正反対のキャラクターだ。明るく自然体であり、努力も知らず、スケートを楽しんでいて、なによりも母であるコーチ・王霜に一目で認められる圧倒的な実力を持つ。どこまで努力しても認めてもらえない娘・江宁には、それがなによりも辛い。钟灵を演じた丁湘源(ディン・シャンユエン)は本作がデビューで、最初は何故この無名の俳優が?と思ったが、実はこのキャスティングもとても効果的だ。

 

花漾少女杀人事件

 

主人公・江宁を演じた张子枫(チャン・ズーフォン / チャン・ツイフォン)は、本作と同じタイミングとなる中国での夏休み映画として、ジャッキー・チェンのヒット作「シャドウズ・エッジ(捕风追影、2025)」にも裏カブリのような形で主演していて、大活躍のシーズンになったが、本作では、儚げさと強い思いが宿る佇まいが本当に素晴らしい。スケートの練習も相当やったのに違いない、まったく違和感の無いフィギュア選手のパフォーマンスだし、更にそこからの複雑な感情の演技も見事にやりきっていて、驚きですらある。

コーチであり母親である王霜を演じた马伊琍(マー・イーリー)は、今回共同プロデューサーも務めていて、本作への力の入れようがわかる。このコーチの、才能を見つけた時の目の輝きもまたすごく印象的なシーンで、ひょっとすると実の娘より真剣になってしまうという、トップアスリートの世界ならではの、冷酷で恐ろしい本能が垣間見える。
この映画を見ると、フィギュアスケート以外のどのトップアスリートの世界にも通じる話のようにも感じるし、普段私たちが親近感を感じている日本のアスリートたちも皆、同じような孤独の中で自らを追い込んでいるようにも見えてくる。
主人公・江宁のただひたすらに努力を続ける姿にも、今の中国の若者たちの辛い状況にも通じる悲壮なものが感じられて、2025年だからこそ生まれた映画だとも感じた。初監督にしてこの実力は本当にすごい。ぜひ日本でも公開して欲しいと思う実力派の良作だ。

 

花漾少女杀人事件

 

 

 

【トピック】

◯ 2025年5月19日からのカンヌ国際映画祭「監督週間」部門でワールドプレミア。同年7月18日から中国で一般公開された。夏休み期間による大作目白押しの期間でもあり興収ランキング・トップ10には昇らなかった。興行収入は2888万元(5.9億円)。

 

 

 

◯ 監督・脚本の周璟豪(シュウ・ジンハオ、画像右)は90年代生まれ。難関校の南京外国語学校を卒業後、奨学金を得てハーバード大学でコンピュータ科学を学んでいたが、映画界へと転向したという異色の経歴を持つ。何作かの短編を経て、本作が初の長編映画監督作となる。

花漾少女杀人事件

 

 

◯ プロデューサーは陈正道(レスト・チェン)と马伊琍(マー・イーリー)。
陈正道(レスト・チェン)はLGBT映画「花蓮の夏(2006)」の監督で知られるようになる。林志玲(リン・チーリン)&黄渤(ホアン・ボー)主演の中国版「101回目のプロポーズ(2012)」、韓国映画「怪しい彼女」のリメイク「20歳よ、もう一度(2015)」、张子枫(チャン・ズーフォン)&吴磊(ウー・レイ)主演「この夏の先には 盛夏未来(2021)」や映画にもなったヒットドラマ「美味しいロマンス(2023)」などを監督しているほか、プロデューサーとしても「こんにちは、私のお母さん(2021)」などを手掛けている。

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张子枫(チャン・ズーフォン / チャン・ツイフォン)

◯ 江宁。フィギュアスケート選手としてアジア大会に出場を目指していた。

◯ 本作で中国金鶏奨・主演女優賞にノミネートされた。
映画「チィファの手紙(2018)」「ヤンチャな兄 どっか行け(2018)」「唐人街探偵 東京MISSION(2020)」などで知られていたが、主演した良作「シスター 夏のわかれ道(2021)」では陰影のある素晴らしい演技を見せ、トップ女優としての地歩を固めた。

その後も「秘密访客(2021)」「この夏の先には(2021)」などの主演作のほか、「アウトブレイク(2021)」「志願軍 ~雄兵出撃~(2023)」などに出演。ドラマでは「小别离 (2016) 」「天才基本法(2022)」「戻ってきた娘の秘密(2022)」などに出演している。
昨年は本作の他、劉德華(アンディ・ラウ)主演の香港合作の航空アクション「フライト・フォース 極限空域(2024)」、朝鮮戦争を描いた陈凯歌(チェン・カイコー)監督の三部作「志愿军:存亡之战(2024)」、時代コメディ「穿过月亮的旅行(2024)」、陳可辛(ピーター・チャン)監督の新作「酱园弄 (2024) 」に出演。
今年は本作とほぼ同時期に公開となったジャッキー・チェン主演のクライムアクション「シャドウズ・エッジ(捕风追影、2025)」にも主演格で出演している。

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丁湘源(ディン・シャンユエン)

◯ スケート場で清掃員をしていたが、王霜にスケートの才能を見出される钟灵。

◯ 本作で俳優デビュー。フィギュアスケートの選手だったようで、2022年北京冬季オリンピックのフィギュアスケートのPVに参加していたようだ。

花漾少女杀人事件

 

 

 

马伊琍(マー・イーリー)

◯ 江宁の母であり、コーチでもある王霜。

◯ 今作では共同プロデューサーも務めている。
大ヒット古装劇「還珠姫シーズン3(2003)」「乔家大院 (2006) 」「奋斗 (2007) 」「我的前半生 (2017) 」「在远方 (2019) 」「繁花(2023)」「私の阿勒泰<アルタイ>(2024)」などのドラマや映画では「江北好人 (2007) 」、金鶏奨・主演女優賞にノミネートされた韓国映画のリメイク「失踪、発見(2018)」や良作「選ばれざる路 未择之路(2018)」、大ヒット作「好東西(2024)」の前作で上海語の映画「白さんは取り込み中(2021)」ではヒロイン役を演じるなど、広範囲に活躍している。

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