ムービー・エンペラー - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ | Filmarks映画
【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
2023年作。一流スター・劉徳華(アンディ・ラウ)の素顔を見せながら"芸能人もつらいよ"的なブラック・コメディに仕立てた映画。リアルというより夢の話にも感じるようなファンタジックで寓話的な作り。

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【スタッフ & キャスト】
2023年 中国 127分
監督: 宁浩(ニン・ハオ)
出演: 刘德华(アンディ・ラウ、劉徳華)、单立文(パル・シン、單立文)、リマ・ジタン(瑞瑪·席丹)、余伟国(ダニエル・ユー、余偉國)、宁浩(ニン・ハオ)、林熙蕾(ケリー・リン)
【あらすじ】
香港のスーパースター、劉偉馳【刘德华(アンディ・ラウ、劉徳華)】は俳優人生40年、評価は高いが未だ映画賞とは縁が無いまま。映画祭で国際的な名声を得て「無冠の帝王」という別名を返上するため、監督の林浩【宁浩(ニン・ハオ)」と組んで田舎が舞台の映画を撮ることを決意する。更に田舎に入り込んで生活を実体験、自ら出資も募り、スタント無しのアクションにも挑戦しようと、意欲的にチャレンジするのだが…
【感想】
一流スター・劉徳華(アンディ・ラウ)の素顔を見せながら"芸能人もつらいよ"的なブラック・コメディに仕立てた映画。リアルというより夢の話にも感じるようなファンタジックで寓話的な作り。
なんというか、ふんわりと始まりふんわりと終わる、見終わって一体これは何だったんだろうかと思わせられるような、不思議な映画だった。
一応役名は別につけられているが、どう見ても一流映画スターの劉徳華(アンディ・ラウ)ご本人が登場する。でもリアリティの無い部屋に住み、なぜか世間には公表せずに結婚し離婚までする事になっている。
その後の展開も、映画俳優の日常っぽいようでありながら、なーんかありそうであり得ない、リアリティから浮遊した独特のムードをキープする。
この感じ、もしかしたら現地の観客にはよりリアルに伝わっていて、笑って見れるのかもしれないが、個人的には劉徳華(アンディ・ラウ)本人はプライベートをあまり明かさないタイプに感じていたので、そうした日常描写にも、如何にも本人がこんな生活してそうという納得感よりはむしろ、「一流スターという役を演じる一流スター」みたいなメタ感や捻じれを感じた。

梁家輝(レオン・カーフェイ)や楊千嬅(ミリアム・ヨン)、そして写真で成龍(ジャッキー・チェン)など、香港の有名俳優たちが数多くカメオ出演するが、監督や製作は中国本土だし、舞台も中国映画界がメインだ。だから自然と中国映画界ならではのエピソードが多数出てくるので、その感じがわかる方がより楽しめるだろう。プライベートな付き合いをしたがる出資者とか、現場に押し掛けてくる養豚場の主人とか、いかにもな中国映画っぽい人々に映画撮影の細々した事にまで首を突っ込まれ振り回される感じがもう、いかにも中国映画っぽい。
そうした人々とも付き合いつつ、一方であまりにも一流スターという自身のイメージに閉じこもっていないかと自問自答するアンディ。守られ過ぎた生活から抜け出そうと、田舎に連れて行ってくれと現地の観光協会的な人物にリクエストしたり、田舎の安ホテルに泊まってみたりと、ちょっとピントのずれたチャレンジをしたりするのだが、それによって余計にリズムが狂っていく。滑稽でもあり親近感も湧いてくる。そもそも劉徳華(アンディ・ラウ)という人は素朴でまっすぐな性格の、すごく良い人というイメージなだけに、滑稽さの裏に悲哀みたいなものまで滲み出てくるのだ。そんな事しなくても今のままでなんにも問題ないのに…

そうした空回りのチャレンジだけでなく、いろんな事で彼はずっとギクシャクしている。順調に事が運び、心から笑顔を見せるシーンはついぞ出てこない。
彼は、きっと普段から本当にこうなんだろうと思わせるくらい、日々努力を惜しまない。楽しんで仕事に取り組み、仕事に関わる人々みんなにも気を配って楽しませる。様々な配慮も欠かさない。これだけの気配りをして、それでも何故か上手くいかない。理由もはっきりわからないし、ただ居心地だけが悪くなっていく。もはやこの映画は、この心地悪さを楽しむ作品なのかもしれない、そう思わせるような演出だ。
監督の宁浩(ニン・ハオ)は、「薬の神じゃない(2018)」をはじめとして数々の大ヒット映画を監督・プロデュースしてきた、中国映画のヒットメーカーとでも言えるビッグネームだ。彼の名を最初に世に知らしめた大ヒット・コメディ「クレイジーストーン(疯狂的石头、2006)」をプロデュースしたのが劉徳華(アンディ・ラウ)という関係でもある。そうした関係から生まれた作品なので、制作陣や出資会社も結構な期待がかかっていたようだが、結果的にヒットの目安となる興収1億元にも届かない形となってしまった。見てみると、まあそれも理解できるような、より映画好き、映画マニアに向いた作りかなという印象であった。ストーリーを楽しむよりも、映画製作の内幕ものとして、細かな演出まで楽しむのが正解かと思う。
また別の見方をすれば、梁朝偉(トニー・レオン)や甄子丹(ドニー・イェン)のような、2000年代以降に多数作られた中国/香港合作映画に出演した俳優たちのあるあるを描いている、と見ることもできて、その点では「流転の地球 -太陽系脱出計画-(2023)」、「93國際列車大劫案:莫斯科行動(2023)」、「フライト・フォース 極限空域(2024)」など、今もなお多くの中国映画、中港合作映画に主演している劉徳華(アンディ・ラウ)が相応しい役でもある。

とにかく、見終わると本当に「お疲れさま」と言いたくなるような、劉徳華(アンディ・ラウ)への親しみが湧く作品だ。でもその気持ちは同情であって、憧れのようなポジティブな気持ちにはならない。本当、スターでいるのも大変なお仕事だ。骨身に染みる感想が浮かぶ、そんな映画であった。
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【トピック】
◯ 本作は2023年9月14日からのトロント映画祭でワールドプレミア。翌月10月23日からの東京国際映画祭で上映された後、2024年2月10日から中国で一般公開された。
公開初週の興収ランキングでは10位に入った。興行収入は9400万元(19.3億円)。
◯ 監督はヒットメーカー・宁浩(ニン・ハオ、画像右)。劇中でも林浩監督として出演している。
宁浩(ニン・ハオ)は、北京映画学院在学中に監督した「星期四,星期三(2001)」で大学生映画祭の最優秀監督賞を受賞。さらに一人で出資、監督、撮影、編集まで行った「香火(2003)」が東京フィルメックスで最優秀作品賞、香港国際映画祭でも受賞。そして次作「绿草地(2005)」でも上海映画祭新人賞受賞と、当初から華々しい成績を上げ続ける。
そして初の商業映画で郭涛(グオ・タオ)、刘桦(リウ・ホア)、黄渤(ホァン・ボー)らが主演の「クレイジーストーン(疯狂的石头、2006)」がヒットしシリーズ化。さらに次作の「疯狂的赛车(2009)」では自身初の興収1億元(20億円)をついに突破し、名実ともにトップ監督の一員に名を連ねることとなった。
その後、シリーズ3作めのSF作家 劉慈欣原作「疯狂的外星人(2019)」やプロデュースした大ヒット作「薬の神じゃない(2018)」、オールスター映画「愛しの母国(2019)」への参加、そして2023年はネットカジノを題材にした「ノー・モア・ベット: 孤注(2023)」がスーパー大ヒット。さらに本作が東京国際映画祭で公開、大陸で公開したプロデュース作「二手杰作(2023)」 もヒット。昨年には朱一龙(チュー・イーロン)主演のファンタジー「负负得正(2024)」が公開と、彼が携わる作品には間違いないと言える状況だ。

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刘德华(劉徳華、アンディ・ラウ)
◯ 香港の映画スター・刘伟驰(劉偉馳)。
◯ 言わずとしれたアジア映画のスーパースター。
今作監督の宁浩(ニン・ハオ)とは、1991年に立ち上げた映画製作会社・天幕制作で彼の出世作である「クレイジーストーン(疯狂的石头、2006)」をプロデュースした関係である。
不朽の名作「インファナル・アフェア(2002)」シリーズをはじめ、「天若有情/アンディ・ラウの逃避行(1990)」、「暗戦 デッドエンド(1999)」、「桃さんのしあわせ(2011)」などの名作のほか無数の映画に出演し、通算5回の主演男優賞の受賞を誇る。
最近は「ショック ウェイブ(2017)」と続編「バーニングダウン(2020)」、九龍城砦を描いた「追龍(2017)」、日本映画「鍵泥棒のメソッド(2012)」のリメイク「人潮汹涌(2021)」、大ヒットSF「流転の地球 -太陽系脱出計画-(2023)」、台湾映画「速命道(2023)」、张涵予(チャン・ハンユー)との「93國際列車大劫案:莫斯科行動(2023)」、本作公開の後は「ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件(2023)」と「潛行(2024)」が同時期公開。そして航空パニック「フライト・フォース 極限空域(2024)」、翌月には放射能拡散事故の「カウントダウン(2024)」が公開。すべてが主演映画という、今もなお香港映画界を背負って立つスターであり続けている。

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单立文(パル・シン、單立文)
◯ 刘伟驰のマネージャー・林伟国
◯ 1959年生まれの香港人。70年代に歌手としてデビューし、ChynaやBlue Jeansといったバンドメンバーとして活躍した。伝説的バンドBeyondのボーカル黃家駒(ウォン・カークイ)の親友でもあり、彼の訃報も单立文(パル・シン、單立文)を通じて発表された。
Blue Jeans解散後は俳優として活動を始め、映画「潘金蓮之前世今生(1989)」や「ゴッド・ギャンブラー II(1990)」、「新金瓶梅(1996)」、「サイレント・ウォー(2012)」など多くの映画・ドラマに出演した。
つい最近映画「寄了一整個春天(2024)」にも出演していた胡蓓蔚(ペイズリー・ウー)は妻である。

リマ・ジタン(瑞瑪·席丹)
◯ プロモーション動画のディレクター・Summer。
◯ 1990年生まれの台湾のタレント、歌手、俳優。レバノン人の父を持つ。旅行番組のMCとして知られるようになり、その後映画デビューとなった侯孝賢(ホウ・シャオシェン)プロデュース作「ジョニーは行方不明/台北暮色(2017)」で台湾金馬奨・新人俳優賞を受賞した。
本作以外にはジャッキー・チェン&ジョン・シナ主演の「プロジェクトX トラクション(2023)」に出演している。

余伟国(ダニエル・ユー、余偉國)
◯ 豚を飼っている村人・余佬。
◯ 香港の映画監督で「愛と死の間で(2005)」などを監督。1991年に劉徳華(アンディ・ラウ)と共に映画製作会社・天幕制作を立ち上げ陳果(フルーツ・チャン)監督「メイド・イン・ホンコン/香港製造(1997)」などの他、今作監督の宁浩(ニン・ハオ)の出世作「クレイジーストーン(疯狂的石头、2006)」も制作した。

林熙蕾(ケリー・リン)
◯ 刘伟驰(劉偉馳)の前妻を演じたのは林熙蕾(ケリー・リン)。台湾人だが「フルタイム・キラー(2001)」、「デッドエンド 暗戦リターンズ(2001)」、「MAD探偵 7人の容疑者(2007)」などの杜琪峯(ジョニー・トー)監督作品を中心に、「ゴッド・ギャンブラー/ラスベガス大作戦(1999)」や「レイン・オブ・アサシン(2010)」、「大笑江湖 (2010) 」など多くの香港映画に出演している。
映画・ドラマ出演は中国映画「夺命心跳 (2011) 」以来13年ぶりとなり、同時に王家衞(ウォン・カーウァイ)監督のドラマ「繁花 (2023) 」にも出演した。

◯ その他、张子贤(チャン・ズーシェン)、王晶(ウォン・ジン / バリー・ウォン)、梁家輝(レオン・カーフェイ)、楊千嬅(ミリアム・ヨン)、孙阳(スン・ヤン、サニー・サン)、宁理(ニン・リー)ら、香港/中国の俳優たちも客演している。