明治維新という黒船

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近代天皇制と古都 高木 博志

近代天皇制と古都
近代天皇制と古都
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高木 博志
岩波書店
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引用も多く頁数も多い、取っ付きにくい本だったがあっという間に読めた。刺激的な事実が多数。

 

「古都」が成立する過程を読み解くという内容だが、知らなかった事ばかり。

そもそも2都市とも、現在のようなパブリックイメージが存在すらしないところに、

1.奈良では橿原神宮を始めとして「日本の起源」としてのイメージ形成事業

2.京都では京都御所平安神宮を始めとして「日本のオリジナリティの起源」「町民文化の起源」としてのイメージ形成事業

3.2つの都市での国立博物館設立と本居宣長の「日本の美意識」形成

明治維新と同時に始めている古都、いや事。

巻末の今では桜の代名詞、染井吉野が日露戦勝以降、戦争と東京発というイメージで急速に広まる過程もわくわくと驚きに興奮しながら読めた。

 

奈良も京都も、地元民ですら維新以降のプロパガンダに乗せられ、むしろ現代になってより強化されているのには、驚くしかない。我々は「古都」である自覚を持った時点で、もはや無邪気ではいられなくなった、そんな印象だった。

 

今更だが、明治維新が如何に多くのことを成し遂げたのかを痛感する。改めて物凄いタイミングでの事件だったのと、多くの才能が力を発揮した事を実感した。この本での内容も、当時はあくまでもひとつの事業でしかない訳で。

この圧倒的成果の原動力って何だったんだろう?欧米列強に対する強迫感、敗北感だろうか。そして当時の私達の感覚はどんなだったのだろうか。想像するに、奈良はもとより京都ですら、天皇にも見放され、欧米の脅威は突如現実化し、あらゆる文明は東京からもたらされ、もしかすると「古都」としてしか生きる希望が持てないような萎縮した思いだったのだろうか。政治家など、特にそうだったかもしれない。

 

維新までの風景をトリビアで見ると、なかなか面白い。

・御所は観光名所であり、店もあり、天皇と一緒に芸能を見たりも珍しくなかった。

橿原神宮の場所はそれまで畝傍山麓の畑と集落だけだった。

・スラムだった場所に京都国立博物館と豊国神社を作り、地区全体のイメージアップを狙った。

・桜は維新頃まで山桜が主流であり、京都人はそれゆえソメイヨシノを嫌った。

正倉院展によって奈良のイメージ形成が大きく進んだ。

 

アイデンティティだって所詮借りもん。そんなもん、って事だろうか。

もしくは、戦争への道は至る所に潜んでいるという事かもしれない。