中国映画レビュー&解説「心迷宮 心迷宫 Deep in the Heart」

心迷宫 (豆瓣)

 

【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】

2014年作。低予算&無名俳優だけなのに脚本の面白さでぐいぐい引き込んでいき、歴史に残る高評価を得た忻钰坤(シン・ユークン)監督のデビュー作。
山火事の死亡事故をきっかけに、少しずつボタンを掛け違っていきながら、村民たちの本音が露になっていくダークコメディ。

 

 

 

心迷宫


www.youtube.com DEEP IN THE HEART 心迷宫 (Trailer) | Asian American International Film Festival 2016




【スタッフ & キャスト】

2014年 中国 110分
監督: 忻钰坤(シン・ユークン)
出演: 霍卫民(フオ・ウェイミン)、王笑天(ワン・シャオティン)、罗芸(ルオ・ユン)、杨瑜珍(ヤン・ユージェン)、孙黎(スン・リ)、邵胜杰(シャオ・シェンジエ)

 

 

 

【あらすじ】

田舎の実家に帰省した肖宗耀【王笑天(ワン・シャオティン)】は、村長をしている父親【霍卫民(フオ・ウェイミン)】と仲が悪い。帰宅してもすぐ交際している黄欢【罗芸(ルオ・ユン)】に会うために外出する。だが林の中で会っているところを近所のチンピラ・白虎に見られてしまい、皆にバラすぞと金を要求される。思わず突き飛ばしたら白虎は動かなくなってしまい、2人は慌てて街へと逃亡した。
だが、ここから話は村全体を巻き込み、どんどん思わぬ方向へと大きく展開していくのであった…

 

 

 

【感想】

低予算&無名俳優だけなのに脚本の面白さでぐいぐい引き込んでいき、歴史に残る高評価を得た忻钰坤(シン・ユークン)監督のデビュー作。
山火事の死亡事故をきっかけに、少しずつボタンを掛け違っていきながら、村民たちの本音が露になっていくダークコメディ。

この作品、中国本土では大変高い評価を得ていて、例えばレビューサイト豆瓣では「太陽の少年(1994)」「ラスト、コーション(2007)」などの名作群と肩を並べる8.7点、ハリウッド映画もすべて含めた全映画ランキングでも「2001年宇宙の旅(1968)」「海街diary(2015)」などと並ぶ185位につけている。
初めて上映されたFIRST青年映画祭では管虎(グェン・フー)や曹保平(ツァオ・バオピン)などに高く評価されて全国公開にこぎつけ、公開後も口コミからロングラン上映へ至った。監督自身もその後「無言の激昂(2017)」などの高評価作も監督しているのだが、こと日本では、この映画に関しては殆ど知られていないんではないだろうか。
当時は2016年に中国現代映画祭で2度上映された程度で、ほとんど見る機会自体が無かったが、今改めて見てみて本当に面白い映画だった。

 

心迷宫

 

脚本が素晴らしく良くできていて、シンプルな叙述トリックが気持ちよく、後半に向かってどんどんクリアになっていく。コーエン兄弟が大好きだという監督の好みも良くわかる、むしろあっけらかんとした作りが、ダークな画質、ドロドロした村民たちの感情との対比で、すごくバランス良く、わかりやすく楽しめる。

なんという取り柄もない小さな山村が舞台だが、それゆえの狭いコミュニティ、何もかも筒抜けの息苦しさ、そんな場所でも欲望によって生まれてしまう軋轢。それが滑稽に描かれ、気づくと見ている自分も一緒にトリックに翻弄されてしまっていた。

 

心迷宫

 

監督はまだ誰にも知られていない、全く無名の状態から撮影を始めたので、画面だっていかにも低予算だ。でも、暗くて揺れる画面はいかにもな不安さを掻き立てるし、ドキュメンタリー的な手持ちカメラの臨場感もむしろいい。
無名の俳優たちもやはり低予算から、地元の劇団員たちが演じたのだそうだが、まったくそんな風には感じない、とても見せる演技だ。ただし、皆それぞれ同じような演技をし続けているのに、前半と後半とでは見え方がまったく変わってくるので、本当に脚本の妙が際立っていることがわかる。

忻钰坤(シン・ユークン)監督は2014年から現在まで4作の監督作があるが、本作と3作目の「無言の激昂(2017)」は、特に良かった。どちらも監督の熱意と出来が傑出しているが「無言の~」は彼の出身地である内モンゴルの風景と 宋洋(ソン・ヤン)や姜武(チアン・ウー / ジャン・ウー)ら俳優の魅力で魅せる映画でもあり、個人的には本作の方がより純度の高い面白さを感じて素晴らしいと思えた。本土の高評価は確かに嘘ではなかった。是非どこかで見てみて欲しい良作だ。

 

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心迷宫



 

【トピック】

◯ 本作は2014年7月21日にFIRST青年映画祭でワールドプレミア。翌8月にヴェネツィア映画祭にも出品された後、2015年10月16日から中国で一般公開された。口コミによって評価が上昇し上映期間が延長、最終的な興行収入は1065万元(2.18億円)となった。

 

◯ 日本では2016年7月5日からの「中国現代映画特集 2016」で上映された。

cinefil.tokyo

 

 

◯ 2014年のFIRST青年映画祭で俳優の葛优(グォ・ヨウ)、顾长卫(グー・チャンウェイ)、曹保平(ツァオ・バオピン)監督らの審査によって作品賞と監督賞を受賞。
台湾金馬奨でも2部門にノミネートされた。

 

 

◯ 忻钰坤(シン・ユークン)監督は1984年生まれ。本作でデビューし、東京国際映画祭中国現代映画特集2016でも上映、高い評価を得て台湾金馬奨でも新人映画監督にノミネートされた。第2作「再见,在也不见 (2015) 」を経た3作目の「無言の激昂(2017)」も高評価となる。周冬雨(チョウ・ドンユイ)主演のネットメディアを題材にした第4作目「热搜(2023)」が2023年に公開された。

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◯ 本作の制作費は極めて限られており総額で170万元(3500万円)、美術の費用を節約する点から手持ちカメラの映像のみを使い26日間で撮影された。ロケ地は河南省。
アメリカ映画「ウィンターズ・ボーン(2010)」やベルリン映画祭で金熊賞ほか3部門受賞のイラン映画「別離(2011)」などを参考にしたドキュメンタリータッチで描くことでも制作費節約に貢献したという。

 

◯ タイトルは2度変更された。脚本段階では「心事」とされていたが審査に提出する際に同名作品との重複から「殡棺」へと変更。FIRST青年映画祭での受賞後、一般公開の際にもっと良いタイトルをという事で、コーエン兄弟を好きな監督の意向で彼らのデビュー作「ブラッド・シンプル(1984)」の中国版タイトル「血迷宫」にちなんだ「心迷宫」へと変更された。

 

 

 

出演俳優たち

ほぼ全員が地元の劇団員である無名の俳優たちで撮影されている。

 

◯ 村長であり肖宗耀の父親・肖卫国役の霍卫民(フオ・ウェイミン)。本作以外には時代劇映画「渑池会 (2013) 」や爱奇艺オリジナルのディザスター映画「狂鳄海啸 (2021) 」などいくつかに出演している程度だ。

心迷宮

 

 

◯ 村長の息子・肖宗耀役の王笑天(ワン・シャオティン)。忻钰坤(シン・ユークン)監督の第4作で周冬雨(チョウ・ドンユイ)主演作「热搜(2023)」にも出演している。

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心迷宮

 

 

◯ 肖宗耀と付き合い妊娠を打ち明ける黄欢役の罗芸(ルオ・ユン)。「淬火成钢 (2016) 」といういわゆる抗日ドラマに出演している程度だ。

心迷宮

 

 

◯ 母親役の杨瑜珍(ヤン・ユージェン)は河南省の舞台劇団の俳優で、コントや新喜劇などに出演しているようだ。

 

 

◯ 夫を亡くす丽琴を演じた孙黎(スン・リ)は中央戯劇学院卒業で河南电视台では司会者もしている。ドラマ「大家庭 (2012) 」や映画「半镜 (2019) 」といった幾つかの作品に出演している。

心迷宮

 

 

◯ 村の衆からあらぬ嫌疑をかけられる男・王宝山の邵胜杰(シャオ・シェンジエ)。
本作出演以降、陳果(フルーツ・チャン)監督でアンジェラベイビー主演の中港合作「谋杀似水年华 (2016) 」や「花蓮の夏(2006)」の陳正道(レスト・チェン)監督「記憶の中の殺人者(2017)」、下記の王梓尘(ワン・ジーチェン)と同じく「ワイルドグラス(2020)」「第八个嫌疑人(2023)」にも出演した。

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心迷宮

 

 

◯ 村民のひとりで借金取りから脅迫される、王梓尘(ワン・ジーチェン)は本作監督の第3作「無言の激昂(2017)」にも出演している。本作での印象的な演技で知られるようになり、韓国映画「女は冷たい嘘をつく(2016)」のリメイク「失踪、発見(2018)」「ワイルドグラス(2020)」、李子俊(ジョナサン・リ)監督の良作サスペンス「第八个嫌疑人(2023)」、現在ヒット中の映画「長安のライチ (2025) 」、ドラマではヒット作「棋士 (2025) 」や犯罪ドラマ「扫毒风暴 (2025) 」と、昨今徐々に出演作が増加してきている。

心迷宫

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◯ 肖宗耀と黄欢が会っているところを見かけ、強請ろうとする男・白虎役の朱自清(ジュー・ジーチン)。

心迷宮

 

 

◯ 小さな商店を営む大壮役の贾致钢(ジア・ジーガン)。

心迷宮

 

 

 

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