『ラッキー・ルー』カナダ・アメリカ映画レビュー&解説『Lucky Lu 幸福之路(2025)』ニューヨークの移民の現実

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【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】

ニューヨークへ渡ってきた中華系移民の現実が重く響く映画。困窮する家族の再会は、冬のストリートをより厳しく映しだし、移民たちのヒリついた切迫感に息が詰まる。

 

ラッキー・ルー

【スタッフ & キャスト】

2025年 カナダ・アメリカ 103分 IMDb評価:6.9/10
監督:ロイド・リー・チョイ(Lloyd Lee CHOI)
出演:張震(チャン・チェン)陳法拉(ファラ・チェン)、魏愷樂(カラベル・マンナ・ウェイ)

 

 

 

【あらすじ】

中国人配達員のルー【張震(チャン・チェン)】。彼は長年離れて暮らしていた妻と娘と共に新生活を送るためアパートの契約金を稼いでいたが、生活の手段である電動自転車を盗まれてしまう。ルーは家族と再び一緒に暮らすという希望を胸に、失った自転車と契約金を懸命に取り戻そうとする。

東京FILMeXより

 

 

 

【感想】

凍てつく冬のニューヨーク。お金もないのに家族を呼び寄せた父は、その日から明日の仕事を求めて歩き回る。ふと気づくと一緒に連れていた娘の姿が消えていた。慌てて探し回り、ようやく見つけた娘はひとつの時計を差し出す。

 

移民の側から見るニューヨーク

最近中華系移民たちを描く作品を見る機会が多い。これもそうした1本だし、そしてニューヨークに住まう人々を移民労働者サイドから描いた作品でもある。
主人公・ルーは台湾からニューヨークへ来ている。数年暮らしているにもかかわらず、英語は上達せず、所持金もほとんどない。ニューヨークは彼にとって、夢をかなえる街ではなく、今日を食いつなぐための場所になっている。
そんな彼の唯一の希望が、妻と娘がもうすぐニューヨークにやって来て一緒に住むことができる事なのだ。だが、そんな素敵なタイミングだというのに、様々な問題が彼にふりかかる。

 

ラッキー・ルー

印象的な娘の演技

父と再会した娘は、話す言葉も、話していない時も、ハッとさせられる瞬間が何度もある。父親が娘に色んな配慮をしている事も、すべて気づいているようにも見える。そして時には先回りするかのようにふるまう。ピザを食べる時、ルーはさりげなく娘より安いメニューを選ぶ。娘が飼いたがった金魚は、親戚にお願いして譲ってもらう。娘は素直に聞いているようでいて、ふっと空虚な表情になる。

 

イメージとは違うニューヨークの風景

ニューヨークの街並みが多数映し出されるが、困窮している主人公の眼に映る街並みは、日本人がイメージするニューヨークとはかなり違う。薄汚れた路地や古い街並みを見ながら、まるで一昔前のニューヨークだな、と感じていた。
筆者は1995年に1ヶ月ほどニューヨークに滞在した事がある。もう30年も前、80年代の荒廃した街の面影をまだ引きずっていた時代。当時ティーンエイジャーだった筆者は、ヒップホップにハマっていて、昼でも危険と言われていたハーレムやブルックリンをビクビクしながら歩いたりした。
そんな事を感じていたら、本作も撮影はチャイナタウンやロワーイーストサイドで行ったとの事で、やはりと合点がいった。あの頃より治安は良くなったけれど、ルーのように切迫した人は未だに存在する。街の寒々しい雰囲気がそれを伝えてくる。

 

ラッキー・ルー

世界共通の移民たちの境遇

ルーの境遇はかなり不安定だ。もう既にニューヨークに来て数年経つのだが、親戚に借金して開いたレストランも潰してしまい、今は定職さえない。もし異国でこんな事になったら、自分ならば心が折れそうで、すぐにでも母国に帰ろうと思うだろう。だが彼は帰るどころか、家族まで呼び寄せて、まったくその気はないようだ。こういうところにも、ルーの逞しさと同時に、引き返すこともできない切迫感が見えてくる。

ちょうど先週も、舞台は違えど中華系移民を描いた『おばあちゃんへのラブレター(2026)』を観たところだ。こちらは中国からタイへの移民で、華人を描く映画では移民や故郷との距離が昔からの定番のテーマだし、本作もそういう方向の作品かと思って見始めた。
だがこの映画は、そんな華人特有のルーツや文化にフォーカスしていかない。昔のように同胞たちの共同体が助けてくれる訳でもない。
監督のロイド・リー・チョイは韓国系カナダ人。だが本作では華人を主人公に据えていて、どの民族とかルーツに依らない、より普遍的な移民を見つめているように感じる。
ルーのようにスマホで仕事を探し、とりあえずデリバリーで食いつなぐ生き方は、現代なら世界中で見られるだろう。その意味ではこの話はニューヨークに限らない。今の日本に来ている移民の人々も、こんな生活の人は多い筈だ。ルーはニューヨークにいて、フィクションだからまだ見ていられる。でももし彼が東京にいて、我が家の隣人であれば、かなり話は変わってくるだろう。気づくとそんな事を考えさせられる。
娘が時計を差し出した時、その背景にもっと大きな問いが静かに浮かび上がる。遠い世界の事として見ている自分自身が問われているような、そんな気持ちにさせられた。

 

『おばあちゃんへのラブレター』中国映画レビュー&解説 | 潮汕文化に没入していく感動作「给阿嬷的情书 Dear You(2026)」 - daily diary

ラッキー・ルー

 

 

 

【トピック】

予告編
▶ 本国版予告編(クリックで開きます)


www.youtube.com 金馬影帝張震【幸福之路】終極版預告|1.29溫暖上映

中国での公開・興収ランキング・興行収入・日本での公開/配信

◯ 本作は2025年5月19日にカンヌ映画祭・監督週間に出品されワールドプレミア。2026年1月29日に台湾で正式公開された。

日本では2025年11月21日からの東京フィルメックスで『ラッキー・ルー(仮)』という邦題で上映。2026年秋に全国公開の予定となっている。

ラッキー・ルー(仮)Lucky Lu/フィルメックス・コンペティション - 第26回「東京フィルメックス」

 

 

受賞

◯ 本作は2025年のカンヌ映画祭で、新人監督に贈られるカメラ・ドールにノミネート。台湾金馬獎では張震(チャン・チェン)が主演男優賞、ロイド・リー・チョイが新人監督賞を受賞したほか、歌曲賞を受賞、脚本、撮影賞にノミネートされた。

 

 

監督:ロイド・リー・チョイ

◯ 監督:ロイド・リー・チョイ(Lloyd Lee CHOI、画像左)は、韓国系カナダ人の映画監督、脚本家である。大学進学を機に映画制作を学び始め、当初はテレビCMなどの広告業界でディレクターとしてキャリアを積んだ。
短編映画『Same Old(2022)』がカンヌ国際映画祭の短編コンペティション部門に選出され、国際的な注目を集める。続く短編『Closing Dynasty(2023)』ではベルリン国際映画祭のジェネレーション部門で最高賞(クリスタル・ベア)を受賞した。自身の家族の移民経験に根ざした視点を持ち、市井の労働者や移民コミュニティの現実をリアルかつ尊厳を持って描く作家性が高く評価されている。数々の脚本賞も受賞しており、次世代のアジア系シネマを担う新鋭として期待されている。

ラッキー・ルー

 

 

 

張震(チャン・チェン)

◯ ルー(卢家成)。妻と娘を台湾に残してニューヨークで働いていた。

◯ 1976年生まれ、台湾出身の国際派俳優である。1991年にエドワード・ヤン監督の傑作『牯嶺街少年殺人事件(1991)』の主演で15歳にして鮮烈にデビューした。
その後、ウォン・カーウァイ、アン・リー、ホウ・シャオシェンといったアジアの巨匠たちの作品に次々と起用され、陰のある佇まいと確かな演技力で頭角を現す。役作りに極限まで挑むことで知られ、『グランド・マスター(2013)』の八極拳修行では実際の武術大会で優勝を果たすほどの徹底ぶりを見せた。
近年は2021年の『DUNE/デューン 砂の惑星(2020)』でハリウッドへ本格進出したほか、同年の『The Soul: 繋がれる魂(2021)』で金馬奨最優秀主演男優賞を受賞。アジアを代表する名優として世界で活躍を続けている。

ラッキー・ルー

 

 

 

陳法拉(ファラ・チェン)

◯ ルー(卢家成)の妻。

◯ 1982年生まれ、中国・成都出身のアメリカ籍の女優、歌手である。14歳でアメリカへ移民し名門エモリー大学を卒業。ミス・コンテストがきっかけで香港TVBと契約し、芸能界デビュー。  香港では『溏心風暴(2007)』などの大ヒットドラマに次々と出演、数々の演技賞を受賞してトップスターとなる。 絶頂期の2014年にニューヨークの名門ジュリアード音楽院へ進学して演劇の修士号を取得。卒業後はアメリカへ拠点を移し、HBOのドラマ『フレイザー家の秘密(2020)』でハリウッドデビュー。さらにマーベル映画『シャン・チー/テン・リングスの伝説(2021)』に抜擢され、国際的な知名度を大きく高めた。近年も『ゴジラxコング 新たなる帝国(2024)』などの大作に出演し、アジアとハリウッドの双方で確固たるキャリアを築いている。
香港映画では『Laughing Gor之變節(2009)』『贖罪の悪夢(2024)』などに出演している。

ラッキー・ルー