【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
2025年の国慶節映画の中でも高い評価を得た犯罪映画。1990年代を舞台にした懐かしさと怪しさが混ざりあうカオスな空気を、スタイリッシュな映像とテンポで現代的に再構築したノワール。

【スタッフ & キャスト】
2025年 中国 124分 豆瓣評価:7.2/10
監督: 佟志坚(トン・ジージェン)
出演: 王安宇(ワン・アンユー)、张天爱(チャン・ティエンアイ)、聂远(聶遠、ニエ・ユエン)、王彦霖(ワン・イェンリン)、冯兵(フェン・ビン)、邬家楷(ウー・ジャカイ)
【あらすじ】
1990年代、中国の列車では無数のスリが跋扈し、人々は常に気をつけていなければならなかった。警察学校を無事修了し、晴れて警察官として鉄道警察に配属された毕正明【王安宇(ワン・アンユー)】は早速のスリ逮捕劇で重傷を負い、たった1日で現場から外されてしまう。
警察官への想いを捨てきれない毕正明は、有力なスリ集団「荣门」に潜入捜査をする作戦に志願したのであった。
【感想】
2025年の国慶節映画の中でも高い評価を得た犯罪映画。1990年代を舞台にした懐かしさと怪しさが混ざりあうカオスな空気を、スタイリッシュな映像とテンポで現代的に再構築したノワール。
まずこの映画は、新人警官らしい初々しさがとっても効果的に撮られていて、この主人公の魅力がなんといっても大きい。演じた王安宇(ワン・アンユー)はドラマではヒット作に多数出ている人気俳優だが、映画出演はまだ少なく、そんな彼がこんな泥臭いノワール映画に主演するという、あえてのミスマッチも嬉しい。映画での新人感と役柄での新人感がぴったりマッチした、まさに今しか出来ない役柄になっている。
犯罪を描くノワール映画だけに、出てくる悪役たちも揃ってアクの強いキャラクターばかりなのだが、こちらでも驚きの张天爱(チャン・ティエンアイ)が出てきて、手下たちをボコボコにシバきあげ、刃物を使って攻撃するという、今までの凛とした美を見せつけるキャラクターとは大きくかけ離れた荒ぶった役で、彼らの新しい演技を見れただけでもこの映画の価値はある。

*ゲーム的、フィクション的な展開
本作はもともとエンタメ作品として作られていて、無名の監督だし予算も多くなく、『志愿军:浴血和平(2025)』のような重厚な大作が揃う国慶節休暇に合わせて公開されるには、少々分が悪い立場だった。だが公開されてからの口コミでの高い評価から予想外に健闘し、興収ランキングでも9位あたりを3週間も居座るという粘りを見せた。実際見てみれば、やはりそれも納得の面白さだ。
泥臭い1990年代を舞台にしているという先入観を覆すような、スピーディな展開とスタイリッシュな映像で、むしろ今っぽさを強く感じる。
特に映像や編集の上手さが際立っていて、撮影監督出身だという佟志坚(トン・ジージェン)監督ならではのクオリティだ。
本作は鉄道車内でスリを行う集団を描いていて、冒頭は当時っぽいリアリティを感じさせるのだが、次第に縄張りや跡目を巡って、謀略もあり殺しもありという、マフィアかヤクザみたいな世界観が前に出てくる。一方で、トップを決めるために期間内にどれだけスリで稼ぐかを競う、まるでゲームみたいなスリ大会を開催したりもして、荒唐無稽というか、犯罪を楽しむかのような展開で、たぶん実際にはこんな事無かっただろうな~と思わせるフィクション的展開になっていくのだ。

*1990年代という時代設定の巧妙さ
一応原作小説の映画化とはなっているものの、本当は90年代だからという建前で、リアリティを超えた犯罪ものを思いきり描きたかったのだろうな、という監督自身の思いが伝わってくる。最近の中国映画では、現代を舞台にした犯罪映画はかなり減り、代わりに『大风杀 (2025)』や『第八の容疑者(2023)』のような、本作みたいに一昔前の時代設定にした作品が多い。それは結局審査に通らないからなのだが、最近ではむしろ最初から、過激な描写をやりたいからこそ90年代設定でいこうと考えてそうな作品が増えている印象だ。使いやすい素材としてこの時代を利用し、ターゲットは当時を知る年配者たちより、むしろ当時を知らないからこそ多少大げさでもOKな若者たちを狙っているクレバーさも感じられる。

*任侠的な世界観
潜入捜査ものなので、それなら『インファナル・アフェア(2002)』みたいな捜査官の葛藤が描かれる悩みの深いストーリーかと予想していたが、そちらの方向には行かない。代わりに絆であり、生い立ちであり、というスリたちの江湖=任侠的な生き様がテーマだ。そんなところからも犯罪者たちを眼差す監督の視線が透けて見える。特にスリ集団メンバーの中でも一際冷酷で、汚れ仕事を一手に担ってきた王彦霖(ワン・イェンリン)が演じる花手というキャラクターは、監督の理想を体現したような江湖でしか生きられない男だ。見終わった後もいっそう記憶に残る、そんな生き様を見せる。
その面で、杜琪峯(ジョニー・トー)的な香港ノワール映画を、90年代中国に置き換えたとも言える作りになっていて、そうした世界観が好きな人には一見の価値ある佳作だ。
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【トピック】
予告編
▶ 本国版予告編(クリックで開きます)
www.youtube.com 【Official Trailer】The Return of the Lame Hero《毕正明的证明》(2025)
公開・興行収入・制作費・配信・日本公開
◯ 本作は国慶節休暇に合わせて2025年10月1日に中国本土で公開。公開初週は『志愿军:浴血和平(2025)』や『静寂の轟き(2025)』など多くの大作に次ぐ9位。3週にわたってベスト10をキープする健闘を見せた。興行収入は3650万元(8.5億円)となった。
◯ 日本では現在のところ未公開、配信などの予定はない。
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監督
◯ 監督の佟志坚(トン・ジージェン)は、カメラマンとして徐峥(シュー・ジェン)主演『夜·店 (2009) 』などに携わってきた。同じく徐峥(シュー・ジェン)主演作『アップストリーム ~逆転人生~(2024)』では助監督を務めている。本作はオムニバス映画『有一天 (2014) 』に続く監督2作目となる。
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原作
◯ 本作は孫大鷹(スン・ダーイン)による小説『铁警老猫』を原作としている。この小説は鉄道警察に勤務していた著者が1990年代後半に発表したもののようだが、中国では現在流通していないようだ。
王安宇(ワン・アンユー)
◯ 新人警察官・毕正明。怪我をしたものの警察官の夢を諦めきれなかった。
◯ 1998年生まれ。オーディション番組『阳光艺体能(2016)』に出演、更に音楽オーディション番組『明日之子 シーズン2(2018)』にも出演して注目を集める。古装劇『宮廷の茗薇(2019)』でのヒロインの相手役でブレイク。以来『陪你逐风飞翔 (2021) 』や『キミとの距離(2022)』、『神隠し(2023)』、『值得爱 (2025) 』、『陷入我们的热恋 (2025) 』などなど、数多くのヒット作に主演してきた。
映画は本作が初出演となり、今年の春節No.1ヒット作『飞驰人生3 (2026) 』にも出演している。
浙江省の難関大学の入試で高得点で取る秀才なキャラクターである一方、不器用で等身大な面でも知られていて高い人気を得ている。
英名をBussとしているが、これは彼が大のバスケットボール好きとして知られており、特にNBAロサンゼルス・レイカーズの熱狂的なファンであることから、敬愛するレイカーズ元オーナー、ジェリー・バス(Jerry Buss)の名を自身の英名としたという説がある。

张天爱(チャン・ティエンアイ)
◯ スリチームのリーダー・大白桃
◯ 1988年生まれで、今や誰もが知る有名女優のひとりとして確固たる地位を築いている。18歳で日本に留学しデザインの勉強をした後、北京電影学院に入学。その頃に張芸謀(チャン・イーモウ)監督『王妃の紋章(2006)』で巩俐(コン・リー)の代役を務める。2009年にデビュー。大ヒットドラマ『太子妃 狂想曲(ラプソディ)(2015)』の主演でブレイクした。その他ドラマ『神龍<シェンロン>(2016)』や『シンデレラ・プロセス(2021)』、映画では人気作家・张嘉佳(ジャン・ジャージャー)作品『君のいる世界から僕は歩き出す(2016)』や『レジェンド・オブ・パール ナーガの真珠(2017)』、陳凱歌(チェン・カイコー)監督・染谷将太主演『空海 ーKU-KAIー 美しき王妃の謎(2017)』などに出演。共産党を描いた映画『建军大业 (2017) 』では百花奖・助演女優賞にノミネートされている。
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聂远(聶遠、ニエ・ユエン)
◯ 鉄道警察・スリ特別隊の周隊長
◯ 1978年生まれ。デビュー当時から黄晓明(ホアン・シャオミン)、佟大为(トン・ダーウェイ)、印小天(イン・シャオテン)と共に「内地新四小生」と呼ばれる人気俳優であった。『大唐情史(2001)』やドラマ版『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー(倩女幽魂、2003) 』、『貞観長歌(2007)』などの歴史ドラマ、武侠映画『ブレイド・マスター(2014)』などで人気であったが、『瓔珞(2018)』での乾隆帝役で再ブレイク。以降『コウラン伝(2019)』、『伝家(2022)』、『風起隴西(2022)』などのヒットドラマに数多く出演している。

王彦霖(ワン・イェンリン)
◯ スリ集団の中でもルールを破るメンバーを処罰する担当である花手。
◯ 1989年生まれ。上海戯劇学院卒業でドラマ『陰陽法師-無心-(2015)』や『楚喬伝(2017)』、『プラチナの恋人たち(2021)』などの人気作品、映画では『火锅英雄(2016)』やアクション大作『オペレーション:レッド・シー(2018)』、林超賢(ダンテ・ラム)監督『レスキュー(2020)』、昨年公開の『飛行家(2025)』などに出演している。

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冯兵(フェン・ビン)
◯ スリ集団を率いるボス・四爷
◯ 2014年に俳優デビュー。シルクロードの歴史を描いた歴史映画『丝路英雄·云镝 (2016) 』への出演で知られるようになる。2021年には映画『迫り来る嵐(2017)』の主演・段奕宏(ドアン・イーホン)がプロデュースまで手掛けたドラマ版『双探 (2021)』に出演。
その後、『猟罪図鑑(2022)』、『冰雨火(2022)』、『特战荣耀 (2022) 』、上記の贾冰(ジア・ビン)も出演の『狂飙(2023)』、辛芷蕾(シン・ジーレイ)も出演の『慶余年2(2024)』、現在放映中の『暗夜与黎明 (2024) 』とヒットドラマへの出演が増加中となっている。
映画では主演作『绝命枪王 (2018) 』、张译(チャン・イー)主演の『三大队(2023)』、デリバリードライバーを描いた痛快な良作『アップストリーム ~逆転人生~(2024)』、タイを舞台にしたスリラー『誤殺3~喪失の連鎖~(2024)』などがある。

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邬家楷(ウー・ジャカイ)
◯ 大白桃の兄貴分であり、本来は四爷の後継的立場であった少爷
◯ 2021年に『封神~嵐のキングダム(2023)』の乌尔善(烏爾善、ウー・アールシャン)監督の映画『异人之下 (2024) 』へ出演しデビュー。オムニバス映画『大世界扭蛋机 (2022) 』では倪虹洁(ニー・ホンジェ)と共演。ドラマ『那些回不去的年少时光 (2023) 』や青春映画『沙漏 (2024) 』、冯兵(フェン・ビン)も出演していた『アップストリーム ~逆転人生~(2024)』にも出演している。
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