香港映画レビュー&解説「寄了一整個春天 Blossoms Under Somewhere」

寄了一整個春天 - 維基百科,自由的百科全書

 

【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】

香港金像奨での2部門ノミネート作品。思春期のコンプレックスによって歪んでいく青春時代と、コロナ以降の狭まった関係性との狭間に落ち込んでいく少女の物語。COLLARの邱彥筒(Marf / マリフェ・ヤウ)演じる主人公の、語らず表情で滲ませる演技が良かった。

 

 

 

寄了一整個春天


www.youtube.com 《寄了一整個春天 Blossoms Under Somewhere》正式預告 Official Trailer 11月21日 默默蜜語

 

 

 

【スタッフ & キャスト】

2024年 香港 97分
監督:葉鈺瀛(ライリー・イップ)
出演:邱彥筒(Marf / マリフェ・ヤウ)陳書昕(シーナ・チャン)張毓軒(シン・チュン)栢天男(アダム・パック)胡蓓蔚(ペイズリー・ウー)

 

 

 

【あらすじ】

吃音を持ち人見知りの高校生・許澄【邱彥筒(Marf / マリフェ・ヤウ)】は、毎日ある荷物を発送していて配達担当の青年・林子康【張毓軒(シン・チュン)】とも仲良くなるほどであった。
その荷物とは、同級生の何潔詠(Rachel)【陳書昕(シーナ・チャン)】に教わって始めた着用済下着の販売であった。最初は順調に売れていた許澄は直接会って渡すことも始めるのだが…

 

 

 

【感想】

思春期のコンプレックスによって歪んでいく青春時代と、コロナ以降の狭まった関係性との狭間に落ち込んでいく少女の物語。COLLARの邱彥筒(Marf / マリフェ・ヤウ)演じる主人公の、語らず表情で滲ませる演技が良かった。

本作は、主人公の女子高生・許澄が下着を売るというストーリーで物議を醸し、賛否両論の評価を巻き起こした。確かに筆者も香港でもこんな事があるのは知らなかったので驚いたし、香港での違法性などの疑問も浮かんだ。日本以上に未成年と性について厳しい倫理観がある印象なので、少なくとも香港映画でこんな風に女子高生がグレーな性的行為をしているのが描かれたことは、今まで無かったような気がする。

 

寄了一整個春天

 

一方で、許澄は吃音に悩んでもいる。いざという時こそ、何度練習しても言葉が詰まって話せなくなる。学校ではその為の特別な時間が設けられて毎日トレーニングも行うし、周囲とも上手くコミュニケーションが取れずにいる。そのせいもあって、彼女は普段から感情表現が少なくなりがちだし、一人で過ごすことを好んでいる風に見える。
さらに、劇中の設定は恐らくコロナ禍を経た後の時代で、マスクをしたり、無用の外出も控えたりしている。ネットでのコミュニケーションや通販が今まで以上に増え、顔を会わせる必要性も減った時代だ。

そんな環境になった事で、内気な許澄はより生きやすくなったようにも見え、前半の彼女は割合と楽しく生き生きと過ごしているように見える。しっかりした風な校風で厳しい女教師が目を光らせる女子高での生活でも、友人もいてそれなりに楽しそうだ。
だからこそ、帰宅しては下着を売る、それも毎日着用しては梱包して発送するという、そのショッキングさと律儀さが同時に並列してるような風景に、混沌とした彼女の内面が垣間見える。
下着を丁寧に梱包した、その直後に気になっているらしい配送業者の若い男・林子康に差し入れを渡したり、それら感情たちが同居する様もまた印象的だ。

 

寄了一整個春天

 

それならばいっそ、彼女にこの商売?を勧めた友人の同級生・何潔詠(Rachel)のような冷静さで捉えていてくれるならば、彼女自身も我々見ている観客も少しは安心できるだろうが、どうやら彼女はそこまでの境地には達していないし、器用でもない。
そうして、そんな心配は物語が進むにつれて一層エスカレートしていく。

劇中の世界は高校生らしくとても狭い。何人かだけの感情の動きだけでストーリーが展開する。なぜか両親はまったく登場しない。そして、ファンタジックに現実を越えていくようなノリもまた高校生らしくて、高校生の時に感じていたあの感覚を思い出させてくれる。香港らしさを感じる部分もごく少なく、むしろ日本映画っぽさを感じて、その点でも日本人には地続きに感じられる映画なのではないだろうか。

 

寄了一整個春天

 

 

 

【トピック】

◯ 2024年10月17日からの香港アジア映画祭でオープニング作品として「ラスト・ダンス(2024)」と共に選ばれ、ワールドプレミア。翌月の11月21日から香港で一般公開された。公開初週は興収ランキングで「ラスト・ダンス(2024)」「カウントダウン(2024)」などに次ぐ6位。興行収入は公開1週間で70万香港ドル(1300万円)。

香港映画レビュー&解説「ラスト・ダンス 破·地獄 The Last Dance」 - daily diary

香港/中国映画レビュー&解説「カウントダウン 焚城 Cesium Fallout」 - daily diary

 

 

◯ 本作は香港金像奨で新人俳優賞(邱彥筒(Marf / マリフェ・ヤウ))と歌曲賞にノミネートされた。

2025年第43回香港金像奨(金像獎)の作品一覧 - daily diary

 

 

 

◯ 本作は香港電影発展局によって行われる、首部劇情電影計画という映画製作援助によって500万香港ドル(9300万円)の援助を受けて制作された。この制作費支援はたとえば「毒舌弁護人(2023)」「流水落花(2022)」「年少日記(2023)」など、最近の良質な新世代による作品を多数世に送り出していて、信頼度の高いプロジェクトになっている。

香港映画レビュー&解説「毒舌弁護人~正義への戦い~ 毒舌大狀 A Guilty Conscience」 - daily diary

香港映画レビュー&解説「流水落花 Lost Love」 - daily diary

香港映画レビュー&解説「年少日記 Time Still Turns The Pages」 - daily diary

 

 

 

◯ 監督の葉鈺瀛(ライリー・イップ)は、脚本家としてドラマ「末日+5(2014)」や、李心潔(アンジェリカ・リー)や廖啓智(リウ・カイチー)らが主演のドラマ「選戰(2014)」などに参加。
そこから廖啓智(リウ・カイチー)が主演し、これが映画デビューとなる胡子彤(トニー・ウー)や談善言(ヘドウィグ・タム)も出演した映画「最初の半歩(2016)」にも脚本で参加する。
2019年に首部劇情電影計画によって本作が承認され、初監督した。

寄了一整個春天

 

 

◯ プロデューサーは陳果(フルーツ・チャン)。ゴールデンハーベスト出身で後に独立して監督となる。「メイド・イン・ホンコン(1997)」「花火降る夏(1998)」「リトル・チュン(1999)」の"香港返還三部作"や、「ドリアン ドリアン(2000)」「ハリウッド★ホンコン(2001)」「三人の夫(2018)」の"娼婦三部作"などの監督作で知られる上、香港金像奨・三部門受賞作「淪落の人(2018)」などのプロデュース作も最近は多い。

香港映画レビュー&解説「淪落の人 / みじめな人 淪落人 Still Human」 - daily diary

寄了一整個春天

 

 

 

邱彥筒(Marf / マリフェ・ヤウ)

◯ 許澄。吃音を持ち、その事もあって内気な性格の高校生。

◯ 本作で香港金像奨・新人俳優賞にノミネート。歌曲賞にノミネートされた主題歌「㪐㩿」も自身が歌っている。
大人気アイドルグループ・MIRRORのインフルエンスで生まれた女性アイドルグループ・COLLARのメンバー。MIRROR同様にオーディション番組「全民造星IV」を通して2022年にデビュー。
ドラマ出演は「那年盛夏我們綻放如花(2023)」があるが、映画出演は本作が初となる。

寄了一整個春天


www.youtube.com Marf 邱彥筒 - 【㪐㩿】 Official Music Video《寄了一整個春天》電影主題曲

 

 

 

陳書昕(シーナ・チャン)

◯ 許澄の唯一の友人である同級生の何潔詠(Rachel)。

◯ 2002年生まれで、当初はモデルとして2021年頃から活動し、衛詩(ジル・ビダル)や張敬軒(ヒンス・チャン)のMVにも出演した。その後俳優としても活動を開始。MIRROR盧瀚霆(アンソン・ロー)主演の映画「假冒女團(2021)」以降、良作「作詞家志望(2023)」、そして本作の後に「赦されぬ罪(2025)」に出演している。

香港映画レビュー&解説「作詞家志望 填詞L The Lyricist Wannabe」 - daily diary

寄了一整個春天

 

 

 

張毓軒(シン・チュン)

◯ 許澄の家のエリアを担当する宅配業者の青年・林子康。2021年にデビューの俳優で、映画「白日の下(2023)」の簡君晉(ローレンス・カン)が監督したViu TVのヒットドラマ「IT狗(2022)」に出演した他、本作主演の邱彥筒(Marf / マリフェ・ヤウ)も出演しているドラマ「那年盛夏我們綻放如花(2023)」で主演した。
映画は本作がデビューとなるが、その後劉青雲(ラウ・チンワン)主演の良作「お父さん(2024)」にも出演している。

香港映画レビュー&解説「お父さん 爸爸 Papa」 - daily diary

寄了一整個春天



 

 

栢天男(アダム・パック)

◯ 大学で教鞭をとっている劉嘉鍵(Gabriel)。

◯ オーストラリア生まれのモデル・俳優で、まるで金城武二世と言われている。「イップ・マン外伝 マスターZ(2018)」などに出演し、「サンダーストーム 特殊捜査班(L風暴、2018)」で香港金像奨 最優秀新人賞にノミネートされた。続編「P風暴(2019)」を含めた風暴シリーズや、2020年からの「逃獄兄弟」シリーズ、「毒舌弁護人(2023)」などに出演している。

寄了一整個春天

香港映画「逃獄兄弟 Breakout Brothers」 - daily diary

香港映画レビュー&解説「毒舌弁護人~正義への戦い~ 毒舌大狀 A Guilty Conscience」 - daily diary

 

 

 

胡蓓蔚(ペイズリー・ウー)

◯ 許澄らの通う女子校の教師・石主任。生徒の服装をいつも厳しくチェックしている。

◯ 1971年上海生まれでアメリカ留学後、香港に移住。人気バンド「達明一派」の劉以達(タッツ・ラウ)と知り合い、歌手としてデビュー。今までに5枚のアルバムを発表している。タレントや俳優としても活動し、過去多くのドラマに出演してきたが、映画出演は本作が初となる。

寄了一整個春天

 

 

 

www.teppayalfa.com

www.teppayalfa.com

www.teppayalfa.com

www.teppayalfa.com

www.teppayalfa.com