香港映画レビュー&解説「4拍4家族 Band Four」

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【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】

父親役の泰迪羅賓(テディ・ロビン)を中心にじわじわと惹き付けられていく、とっても良質で心暖まるファミリーストーリーだ。出演者はほぼ全員がミュージシャン。なかでも男の子Rileyを演じた陳諾霆のすごいドラムプレイが印象的だった。

 

 

 

4拍4家族


www.youtube.com 【正式預告】謝安琪 x 泰迪羅賓 x Anna hisbbuR x 陳諾霆《4拍4家族》10月19日 齊人夾Band

 

 

【スタッフ & キャスト】

2023年 香港 107分
監督:賴恩慈(ライ・ヤンチー)
出演:謝安琪(ケイ・ツェ)泰迪羅賓(テディ・ロビン)Anna hisbbuR、陳諾霆、陳奐仁(ハンジン・タン)蔡紫晴(龍小菌、ロン・シャオジュン)

 

 

 

【あらすじ】

Cat【謝安琪(ケイ・ツェ)】は、バンドのボーカルをやりながらシングルマザーとして一人息子・Riley【陳諾霆】を育てている。そこに突然、長年音信不通だった父親・King【泰迪羅賓(テディ・ロビン)】が、高校生の娘・Matilda【Anna hisbbuR】を連れて押しかけてきた。
亡き母への酷い扱いから憎んでいた父親の突然の訪問で、Catの心はかき乱されるのだが…

 

 

 

【感想】

父親役の泰迪羅賓(テディ・ロビン)を中心にじわじわと惹き付けられていく、とっても良質で心暖まるファミリーストーリーだ。出演者はほぼ全員がミュージシャン。なかでも男の子Rileyを演じた陳諾霆のすごいドラムプレイが印象的だ。

 

本作は、主演の泰迪羅賓(テディ・ロビン)を事前に知ってるかどうかでも、映画の印象は大きく変わるように感じる。筆者は、映画にも彼にもまったく予備知識なく見て、後から調べてああそうか!と合点がいった。

ビートルズなどの影響で世界各地に生まれた、日本ならグループサウンズと言ってもよさそうなバンドTeddy Robin and the Playboysのメンバーとしてデビューし、後にソロとして数多くのヒット曲を世に送り出してきた有名な歌手だが、小柄なルックスでも印象的で、映画出演も多数あるので、知っている人ならばすぐに彼を重ねて見るのだろう。

何も知らなかった筆者は、彼が登場した時からその強いキャラに惑わされて、どうしてこうした俳優がキャスティングされているのか、どんな俳優なのかと考えながら見ていたが、その内に次第にストーリー自体も彼が中心の物語になっていった。

 

4拍4家族

 

だが、その感じ方もむしろ良かったのかも知れないと見終わってからは思う。それほどに映画の冒頭の4人の家族は、なにもかもがバラバラだ。
家族といっても普通の家族像とは全然違う。父親に失望し、長年会うこともなく暮らしてきた娘のCatと、その子であるRiley。父親は更に高校生である娘Matildaを連れてきているが、Catとは異母姉妹であり、家族というには繋がりもなく、バックグラウンドもバラバラだ。
そんな中で父と娘の2人を中心に、みんながこの状況に戸惑いながら向き合っていく。

そんな4人の唯一の共通点が音楽で、様々な形でそれぞれの生活に音楽が溶け込んでおり、それが次第にみんなを繋いでいく。
その展開がとても自然で上手い。
最初のとても強引で心許ない同居生活が、シングルマザー、ミュージシャンとしてのキャリア、中国との関係などの香港ならではのリアリティある問題を交えながら、行きつ戻りつしつつ、次第に距離が近づいていく。

 

4拍4家族

 

実はCat役の謝安琪(ケイ・ツェ)をはじめとした家族4人はもとより、周辺の友人たちもほば全員がミュージシャンが演じている。多くが既に俳優活動もやってるのは香港の芸能界らしくもあるし、だからこそ楽器を持つ仕草や演奏シーンにも手慣れた自然さが漂う。自宅でのセッションシーンなんかでのライブ感はもう、俳優が演じるものとは明らかに違っていて、見ているだけで気持ちがアガるのだ。

家族の問題も、特に後半明らかになっていく母親・Catの問題は一際シリアスで、それだけでもひとつの映画になりそうなくらいだ。みんな影の部分を抱えていて、それがまた音楽で生きていく事の現実と彼らの覚悟を地に足が着いたものにしている。
甘いもんじゃない。だからこそ自分は音楽と共に生きていく。そうしたみんなの強い愛が映画に満ち溢れている。

残念ながら日本では映画祭ですら上映されなかったが、香港金像奨にノミネートされたのも納得のまっとうな、大変心揺さぶられる良作だった。小劇場的な作りの小品ではあるが、むしろそうした小劇場ファンにすごく喜ばれそうな、良質で素敵な映画だった。

 

4拍4家族



 

【トピック】

◯ 2023年10月19日に香港で一般公開。公開初週の興収ランキングでは、「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン(2023)」や台湾映画「ニューヨーク協奏曲(2023)」などが上位に入る中、9位に入った。

だが興行収入は芳しくなく、初週の泰迪羅賓(テディ・ロビン)や賴恩慈(ライ・ヤンチー)監督が登壇した謝票での来場客は2人という時もあったようだ。その後も良好な評価とは裏腹に興収が上向きにならず、監督自身も毎日様々な劇場に足を運び、終映後の観客と会話を交わすという努力を続けたようだが、1ヶ月で142万香港ドル(2600万円)という厳しい結果となった。
ちなみに評価は非常に高く、香港電影-HK Movieでは「ラスト・ダンス(2024)」「悲情城市(1989)」「私たちの話し方(2025)」「トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦(2024)」と同じ4.5点の評価を得ている。

hk.news.yahoo.com

wavezinehk.com

 

 

◯ 今作は香港金像奨で音楽賞を受賞、主演女優、新人俳優、主題歌賞にノミネートされた。

2024年第42回香港金像奨(金像獎)の作品一覧 - daily diary

 

 

◯ 監督の賴恩慈(ライ・ヤンチー)は、香港で生まれたが幼少の頃に広東省廣州市の祖母の元へと送られ、その後養子に出されて香港へと戻った。実の両親とはその後もほぼ会っていないという。その際の経験を元に今作を制作している。

路上で上演をするなどの奇抜な演出でも若者に人気の劇団「好戲量(FM Theatre Power)」の主宰している。2012年には十大傑出青年にも選ばれている。演劇の上演と同時に2010年から短編映画の制作も開始し、第1作の「1+1」が多くの映画祭で評価されて以降5作の短編・ドキュメンタリーを監督。今作が初の商業映画監督作となる。

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謝安琪(ケイ・ツェ)

◯ いつかフェスに出演する事を目標に、バンドでボーカルをしながら一人息子を育てている陳樂欣(Cat)。

◯ 1977年生まれ。歌手として絶大な人気を誇り、「鍾無艷(2008)」や「囍帖街(2008)」などの数多くのヒット曲を持つ。「四台聯頒音樂大獎」、「叱咤我最喜愛女歌手」、「最優秀流行女歌手大獎」、「港台十大中文金曲」などなど無数の音楽賞も受賞している、まさに大スターだ。
本作でも挿入歌を3曲提供、主題歌を歌唱している。
映画出演もしており、「恋人のディスクール(2010)」、張家輝(ニック・チョン)主演「狼たちのノクターン 夜想曲(2012)」、今作の翌年にも「潜入捜査官の隠遁生活(2024)」で主演、今年の賀歳片(春節映画)「祥賭必贏(2025)」にも出演している。

最近多くの香港映画に引っ張りだこで、今最も売れている俳優となった張繼聰(ルイス・チョン)とは2007年以来の夫婦である。

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www.youtube.com 謝安琪 - 《囍帖街》MV


www.youtube.com Kay Tse 謝安琪 '鍾無艷' MV


www.youtube.com 《#4拍4家族》電影主題曲 《#毋忘 “If I don’t remember”》MV登場

 

 

 

泰迪羅賓(テディ・ロビン)

◯ 陳樂欣(Cat)の父親・陳家勁(King)。自身もバンドをやっていた。

◯ 泰迪羅賓(テディ・ロビン)は今作で香港金像奨・音楽賞を戴偉と共に受賞。
中華ロックのパイオニアとして知られるレジェンド。子役としてデビューの後、1966年にTeddy Robin and the Playboysのリーダーとして音楽デビュー。バンド解散後は渡米し、帰国後はそのアメリカンロックテイストを取り入れたスタイルで「點指兵兵(1979)」、「永遠活在青春期(1994)」、そしてつい最近劉青雲(ラウ・チンワン)主演作「お父さん(2024)」でも使用された「這是愛(1981)」などの数多くのヒット曲を作った。
本作でも挿入歌を3曲提供している。

また俳優だけでなく映画製作にも数多く携わり、初制作「香港極道/警察(サツ)(1979)」以来、監督作は「飛龍伝説オメガクエスト(1986)」「愛と欲望の街/上海セレナーデ(1990)」などの6作品、制作/プロデュース作は「獣たちの熱い夜/ある帰還兵の記録(1981)」「女子監獄 (1988)」「私たちが飛べる日(2015)」など。
出演作はジャッキー・チェン主演「ツイン・ドラゴン(1992)」「王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件(2010)」「バレット・ヒート 消えた銃弾(2012)」などがある。

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www.youtube.com [I Dreamed of You] Last Night


www.youtube.com 點指兵兵 - 泰迪羅賓 Teddy Robin


www.youtube.com 泰迪羅賓 Teddy Robin【永遠活在青春期 Forever in adolescence】Official Music Video

 

 

Anna hisbbuR

◯ 陳家勁(King)の娘、陳樂弦(Matilda)。陳樂欣(Cat)とは異母姉妹となる。

◯ 2001年生まれのシンガーソングライター。2020年にデビュー以来自身のレーベルで計8枚のEPをリリース。K-POPにも影響受けたベッドルーム・ポップやロウファイサウンドな楽曲で人気がある。
本作でも挿入歌を2曲提供している。

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www.youtube.com 借夢

 

 

陳諾霆

◯ 陳樂欣(Cat)が育てている古顯揚(Riley)。ドラムが好きになる。 

◯ 今作で素晴らしいドラムプレイを見せる。映画初出演で香港金像奨・新人俳優賞にノミネートされた。父親は陳奕迅(イーソン・チャン)や張敬軒(ヒンス・チャン)、林子祥、郭富城、容祖兒、方大同、古巨基、鄭伊健などなど、錚々たる面々の元でギターを弾いてきたプロギタリスト・Tommy Chanで、なんと既に香港スタジアムで演奏したこともあるそうだ。

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G.E.M鄧紫棋やボビー・ブラウンなどのドラマーでもあるパジェット・ナントンのドラムをすぐコピーする陳諾霆。


www.youtube.com rondi 陳諾霆見到但佢偶像 fresh padget 開心到不得了, 即刻用節奏交流

 

 

 

陳奐仁(ハンジン・タン)

◯ 陳家勁(King)のバンド仲間であり、陳樂欣(Cat)の成長を見守ってきたバーのマスター・Anson。

◯ シンガポール生まれの歌手・作曲・作詞(填詞)家。1999年に張學友(ジャッキー・チュン)に認められ2曲を提供。以来、李玟(ココ・リー)、鄭秀文(サミ・チェン)、陳奕迅(イーソン・チャン)、容祖兒(ジョーイ・ユン)らに作品提供・プロデュース。自身のアルバムも8枚リリースしている。
映画「李小龍 ブルース・リー マイブラザー(2010)」に初出演。香港電影導演會の2010年度新人俳優賞を受賞した。

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www.youtube.com 陈奂仁 & MCjin- 买一送一official MV

 

 

 

蔡紫晴(龍小菌、ロン・シャオジュン)

◯ Catの親友であるベースプレイヤーだが、結婚してフランスに引っ越ししたFaye。

◯ 蔡紫晴(画像中)は、龍小菌(ロン・シャオジュン)という名で知られる歌手。2012年頃からYoutube上で音楽を発表し大人気になる。最初にリリースした「誰可聽我唱歌」は100万アクセスを越すバイラルヒットとなった。当時は中学教師であったためマスクをして歌っていたが、後に教師を辞め顔を出して正式にプロデビューする。
2014年頃から俳優としての活動も開始。映画には許冠文(マイケル・ホイ)主演「Delete愛人(2014)」と大ヒット作「正義迴廊(2022)」に出演している。

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www.youtube.com 龍小菌 - 《誰可聽我唱歌》MV

 

 

 

張進翹

◯ Catらの友人であり、香港にとどまる事を決めた留学生・Harry。

◯ mansonvibesという名で活動していた歌手・ミュージシャンで、MIRRORやERRORを輩出したオーディション番組「全民造星」第3シーズンに出場し人気となる。その後ソロとして楽曲をリリース。映画「縁路はるばる(2022)」の主題歌を歌った他、2023年には今作主演の謝安琪(ケイ・ツェ)をフィーチャーした曲もリリースしている。
俳優としても上記「縁路~」のほか、「アニタ 梅艷芳(2021)」ディレクターズカット版に出演している。

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www.youtube.com mansonvibes - 緣路山旮旯 (feat. Luna Is A Bep) official MV [電影《緣路山旮旯》主題曲]

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ロケ地

◯ 4人が住んでいる住まいは、劇中のまま太子の界限街106號に立っているが現在は空き家になっているようだ。

 

 

◯ バンド仲間Ansonがやっていたバーは、中環にある藝穗會というアートを後援する団体によって運営されているスポットで、建物自体は1892年建築の元製氷倉庫で香港一級歴史建築に指定されている。

 

 

◯ Rileyが通う小学校は金鐘にある、聖若瑟書院という1875年創立のEMI学校(英語で授業を行う中高一貫校)で撮影した。

 

 

 

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