私事であるが、最近結婚した。
なんとかかんとか結婚式も無事に行うことができた。
その結婚式だが、予想外にも最近話題のあの問題に直面する事になったのだ。
そう、最近話題になっているJASRACである。
結婚式で新郎新婦が色々と趣向を凝らすBGM、あれにもJASRACの問題が絡んできていたのだ。そこで、せっかくなのできちんとこの問題に取り組んでみて、実際の姿を暴いてみることにした。
ま、これからのご同輩に参考となれば嬉しい(笑)
前提として、自分の式は4つ星以上のシティホテルで行った。他の地域、式場によっては勿論ここに書いた状況とは違う事もあるだろうから理解してほしい。また末尾にも書いたが、ある程度融通を効かせてくれている状況も"無くはない"ようなので、まずは式場で相談するのが良いと思う。
1. 結婚式と著作権の現状
自分も式場で説明を聞くまでは全く知らなかったのだが、数年前より各式場ではJASRACとの契約が結ばれるようになっており、
「かけたい曲ならなんでもかけられる」
訳ではなくなっているようだ。
基本の知識はこのページが詳しい。
式場で聞いた説明を簡単に言えば、
かけられる曲:CDとして販売された曲
かけられない曲:CD製品が存在しない曲(ネット配信含む)
となる。
式場にもよるので例外はあるだろうが、恐らくJASRACとの契約内容に音源の種類があるのであろう。また、式場はわかりやすさ等を総合的に判断して
「購入して入手したCD製品」
と説明していた。
- レンタルCDをコピーしたCD-R
- MDやレコード
- iPhoneからの再生
なども不可とのことである。
ここで、一応の音楽好きとして様々な種類の音源で相当な数の曲を所有していたが、それらのかなりの割合がBGMとしてかけられない事に気がついた。(レコードも無理!)
また、結婚式の定番のひとつにプロフィールビデオというものがある。
新郎新婦の今までの写真なんかを動画にして見せるショートムービーだが、そこに使用するBGM音源もややこしい事になっていた。
簡単に言えば、
- 1曲だけ使用する。
- 動画素材には音は載せない。
- 実際の再生時には、動画再生と同時に曲(CD)を再生する。
というもの。
正直、説明を聞きながら
「え?」
となる話だ。特に3番目。
音源ももちろん上のBGMと同じ種類でなければならない。つまり「購入して入手したCD製品」のみ。
2017年現在、一般的な挙式式場やホテルなどでは、これらの規定を満たした上で結婚式に音楽を使用することが求められている。今回の件も、式場は4つ星以上のホテルである。
こうした話を聞きながら、個人的には「あり得んなー」と思ったし、説明の最中に早速なんとかこれをクリアする手法を考え始めたほどだ。
だが、ちょっと待て。
裏技的な手法でクリアして式場に迷惑をかける方法もあるが、それよりも果たして実際に横暴な金額を要求されるのか、どの程度理不尽なのか、少なくとも、せめて著作権者側と正面から向き合ってからでも良いのではないか。それを確かめてからでもJASRACを非難するのは遅くない。
そう思うに至った。
という訳で著作権対応のために、一通り申請、許諾取得作業を行ってみたのである。
2. 結果: 費用と手間
結果から書こう。
最終的に自分は以下の金額を3つの団体に支払った。
JASRAC(著作権)---¥216
Nextone(著作権)---¥432
日本レコード協会(著作隣接権)---¥6,480
これをどう判断するかは読者に委ねたいと思うが、少なくとも個人的にはJASRACより日本レコード協会が圧倒的に多額の請求をしてきた点は無視できないと思う。
問題となっている徴収後の経緯についての透明性なども、じゃあ日本レコード協会の透明性がJASRACとどの程度違うのか、僕には不明でもある。
ともあれ、上の金額は以下の内容についてかかったものだ。
手間については…個人的には、想像していたよりはかからなかった。
一番手間だったのは、下にも書いた申請前の下調べの部分だ。申請はどうやったら?この曲の場合はどこに申請?他に良い方法は?みたいな部分の情報は、ネットではバラバラになっている事が多く、 情報を整理するのにすごい手間がかかった。
二番目だが同じくらいに手間なのは、若干重複するが申請する曲の選択だ。かけたい曲の中から申請できる曲、できない曲を確認していく必要がある。かけたいけど申請が複雑な曲は諦め、あらためて別の適当な曲を選択する必要がある。また、あらためて同じ曲が入ったCDを探すなど、買い直し作業で余計なお金がかかることもある。自分はレコードで所有していた曲をCDで買い直すためにアメリカのAmazonやEbayなども利用した。
申請手続き自体は、やり方さえ理解できれば簡単だと思う。ネットで申請、書類の請求&申請書の発送、あとは振込で支払いで基本的には終了だ。準備で大変な中だろうが、他の事務的な作業と一緒にやって、効率よく進めていければ大丈夫だと思う。
3. 式中のBGM
さて、実はこちらについて実際の請求は発生していない。だがここが出発点なので、これから書いていく。
上記のように、レコード、レンタル品をコピーしたCD-Rなどは式中にかける事ができない。
これらをもしかけたいなら、JASRAC以外の権利団体が「演奏権」を持っているので、あなたが直接その「権利団体と1曲ごとに許諾交渉」をする必要があるという訳だ。
では、その権利団体って誰?連絡先は?
それは、曲ごとに違い、自分で調べるしかない。
連絡先?
知るかよ。
である。
例えばこういうデータベースを使用したりする。
作品データベース検索サービスJ-WID(ジェイ・ウィッド) 日本音楽著作権協会
洋楽ならこちらなんかを見る必要があるかもしれない。
Search Copyright Records - Library of Congress
ここに載っていない曲は…? うーん…
不正確かもしれないが、恐らくこの手順が必要になるのだと思う。これらのサイトってもはや業務用だよね…
これは結婚式が「営利目的」の音楽利用=業務と判断されるために、こうした非現実的な手順が求められるのである。特に「式場」が結婚式に営利目的で関わっている点が、この判断が覆る可能性を低めていると思う。
また、ノウハウを持ったこの業界の企業と違い、個人が利用できる包括契約などの便利な制度が整備されていない事も、この新しい事態の中で個人が迷える子羊となる原因なのだろう。
一応、念のためというか、チャレンジ精神で1曲だけ「直接コンタクト作戦」でやってはみた。この曲である。
Ed Sheeran - I See Fire (Kygo Remix) by Kygo | Free Listening on SoundCloud
この曲は、エド・シーランの曲をDJであるKygoがリミックスしたもの。Soundcloudでのネット配信オンリーであり、CD-R等に「複製」し、式場で「演奏」する許諾を得る必要がある。Kygoは、他の曲に関しては日本ではソニー・ミュージックエンタテインメントの契約だが、この曲は「管理音源ではない」という。
そこで彼のマネジメント会社へも何度か連絡したが、返事はなかった…
ま、当然か。
この時点で、僕は「曲ごと交渉作戦」は諦めた。手間とか、色々無理すぎる。
なのでレコードやCD-R類をすべてCDとして買い直して、なんとかかけられる条件に収める事にしたのだ。
(結果的に世界中からCDを探す事になったのも、むしろ楽しかったのは秘密である。)
4. プロフィールビデオのBGM
さて、こちらが本題である。ここで許諾申請が必要となった。
当初、説明通りの形で制作するつもりであったムービーであるプロフィールビデオ動画だが、どうしても尺があまる。8分ほどになってしまい1曲だけの予定が2曲必要になりそうであった。1曲の同時再生も半ば冗談みたいな話だが、2曲を「曲間なしで続けて再生」は不可能だ。
という事でプロフィールビデオ使用を目的として、
「音楽の複製利用」申請
を行った。
「音楽の複製利用」とは、CDから別の形に「複製」して、少し編集したりして「利用」する事だ。リミックス・編曲はダメだけど、曲の後ろをカットしたりは大丈夫。
1曲めを途中でカットし、2曲めも尺通りにカットしてDVDに収録することができる。
今回は、許諾取得も考慮して「簡単な」曲を選んだ。手順は以下の通り。
曲はこの2曲。
サンキュ./DREAMS COME TRUE
BOY MEETS GIRL/TRF
1) 曲がどこに申請すればよいか確認する。
ここへ聞いてみた↓
結婚式で使う音楽著作権を一括代行処理「一般社団法人 音楽特定利用促進機構」 ISUM
こんな形で返事を頂き、連絡先を入手する。
《サンキュ./DREAMS COME TRUE》
・「著作隣接権」 一般社団法人 日本レコード協会
メール:******@riaj.or.jp
・「著作権」 一般社団法人 日本音楽著作権協会(JASRAC)
電話:03-3481-2125(平日9時~17時)
《BOY MEETS GIRL/TRF》
・「著作隣接権」 一般社団法人 日本レコード協会
メール:******@riaj.or.jp
・「著作権」 株式会社NexTone
2) それぞれに連絡をし、必要手続きを確認する。
団体によってメールだけで良かったり、アカウント取得して専用サイトからの申請が必要な場合もあり、印刷、記入、郵送が必要な場合もあった。
3) 請求書、または許諾書が届き、使用可能となる。
支払いも、前払い後の許諾と事後(締め日後?)に支払いという団体もあった。
基本的に業者向けシステムに感じるのは仕方ない。
基本的にはこれで完了だ。
許諾さえ取得できれば何もする事はない。例えば作品内への許諾番号の掲示や式場に提示する必要もない。逆に、聞かれない限り許諾したかどうかを公表する機会もない。
さてさて、やはり金額の部分は関心も高い分野だろうから、あえて書面ごと公開する。
これはNexToneである。¥432。【著作権】
まあ、正直この価格であれば、まっとうとしか思わなかった。前金による許諾である。許諾申請の専用サイトにアカウントを作ってから申請するシステムで、一度きりの個人には手間のかかる方式だ。
これはJASRAC。¥216。【著作権】
郵送であったり、許諾まで2週間もかかったり、正直面倒くさい。
許諾後に送られてきた明細もこの通り。色々書いてるが、実際の価格は大したことないと思う。後払いである。
これは日本レコード協会だ。¥6,480。【著作隣接権】
単純に1曲3,000円。算定根拠もわからない。前払い許諾。
あくまで個人の感想だが、雑なことこの上ない。おもねって考えるに、著作隣接権への料金として考えると「演奏=音源を再生」するだけなら安いが「複製=音源からコピー」するならワンランクアップするよ、とそんな感じだろうか。
ちなみに先日ニュースになったGLAYは、この日本レコード協会への「著作隣接権=音源からコピー」の話である。
GLAY 結婚式での楽曲使用どうぞ!著作権料徴収せずと発表「無償提供したい」― スポニチ Sponichi Annex 芸能
いかがだろうか。
2曲の使用で¥7,128。曲当り3,500円だ。
高いと思うだろうか。
誰のせいで高くなっているのだと思うだろうか。
個人的には、ふと電気自動車での「Well to Wheel」の話を思い出したりした。
曲の誕生から結婚式での演奏まで「どこに誰が金を支払うか」問題だ。
余談だが、式場は更なる脅威の心配もしていた。
結婚式では、終わったあとに式を撮影した動画をDVDなどにしてくれる。当然これには式中のBGMが録音されてしまうが、これも著作権問題のために販売できなくなるかもしれないとの事だ。「著作隣接権=音源からコピー」に抵触するからだ。BGMはほぼ消しようがないし、つまりは、今後はなくなるか価格に跳ね返ってくるかになりそうで、どちらにしても世知辛い話になりそうだ。友人にお願いすれば「非営利」なので問題ないし、それも検討したい。
結婚式業界にとって、著作権はある種の外圧なようである。
近い将来、結婚式の形態自体もまた変化していくだろうし、それはそれで単純に悪いこととも思わないけれど。
※更に余談だが、これらの方式は式場によっては必ずしも徹底してもいないようだ。別の音源やビデオのBGMも見ないふりをしてくれるところもあると聞く。ま、一般の人々にこれを説明されても、簡単に理解は難しいだろう。